海外の金融商品に投資する前に…最低限身に付けておきたい“法律知識の盾”
Finasee / 2023年8月10日 17時0分
Finasee(フィナシー)
大阪の投資関連会社である「エース・ジャヤ・インベスタマ・ジャパン」と「ウルナン・ジャパン」が行った詐欺事件について取り上げてみましょう。
160人と約2億1000万円の出資契約まず事件の概略ですが、警察庁の「令和4年における生活経済事犯の検挙状況等について」によると、以下のように紹介されています。
会社役員の男(57)らは、内閣総理大臣の登録を受けないで、平成29年12月頃 から令和2年1月頃までの間、「海外の都市開発事業やガソリンスタンド事業等に出資すれば、事業から生じる収益の配当を受けることができる。」などと勧誘し、23 都道府県の約160人と約2億1,000万円の出資契約を結び、無登録で第二種金融商品取引業を行った。令和4年7月、同男ら6人を金融商品取引法違反(無登録営業)で検挙した(愛媛)。
出所:「令和4年における生活経済事犯の検挙状況等について」
という事件です。これについて詳しく調べていくと、どうやら海外の都市開発事業というのは、インドネシアの開発事業のことであり、これに投資すれば「2年後に倍の配当を受けられる」という触れ込みで勧誘したそうです。
彼らが勧誘を行ったのは2017年11月頃から2020年1月頃のことでしたが、2021年9月に出資者の一人から「配当が滞り、連絡がつかなくなった」という連絡が警察に入り、事件が明らかになりました。
増えるインドネシア関連の投資勧誘実は、インドネシアを舞台にした詐欺事件は、10年以上も前から頻繁に行われています。いわく、「インドネシアの王族が関係している案件です」とか「インドネシアのインフラやガソリンスタンド事業への投資です」、「日本政府によるODA関連の案件です」、「インドネシア政府肝いりのプロジェクトです」といった内容で勧誘してくるのです。
確かに、王族が絡んでいる、政府が関与しているといった話を出されると、何となく信用できるのではないか、と思ってしまう人もいるでしょう。
ですが、冷静に考えてみてください。そもそも、インドネシアの王族が関係している案件なのに、どうして小口資金をコツコツ集めなければならないのでしょうか。
それ以外にも、「日本政府のODA案件」、「インドネシア政府肝いり」などと言っておきながら、100万円、1000万円、あるいは1億円程度の資金を、個人から集めることの意味が分かりません。
この手の大掛かりなプロジェクトを動かすに際しては、複数の大口出資者、あるいは銀行のシンジケート団によって資金調達が行われるはずであり、全くの個人から小口資金を集めて投資資金に回すなどということは、まず行われないはずなのです。
つまり「インドネシアのインフラ開発」という話が持ち込まれた時点で、「これは怪しい」と思わなければなりません。
外国籍の金融商品が詐欺師の隠れみのになる理由海外の運用商品への投資や、海外の事業投資というのは、詐欺を画策する側にとっては絶好の隠れみのになります。なぜなら、個人が実態を調べようとしても現実的に調べられないからです。
前出の事例で言うと、「インドネシアの都市開発事業やガソリンスタンド事業等に出資する」と言われて、それを現地まで出向いて、その実態を調べるなどという人は、まずいないでしょう。
そんなことをしたら、インドネシアまで出向く交通費、現地での滞在費だけで、完全に足が出てしまうからです。
ですが、企業が大きな海外投資を行う場合は、担当者が現地まで出向いて調査を行うなど、徹底的にデューデリジェンス(※)を行うのが普通です。
※投資を行うにあたり、投資対象である企業や投資先の価値・リスク等を調査すること
それを行ってなっていてもなお、海外投資で失敗する企業は少なくありません。そのくらいハードルが高い案件であるにもかかわらず、不思議なもので個人は何もそこを調べることなく、簡単に海外事業投資に資金を出してしまうのです。
金融機関の割高な手数料の背景もちろん、銀行や証券会社が販売している外国籍の金融商品(外国債券、外国籍投資信託など)であれば、この手の問題をかなり防ぐことはできます。
過去、それでも証券会社が絡んだ詐欺事件があったので、100パーセント安心しても良いとは言えませんが、基本的に金融機関が扱っている外国籍の金融商品は、販売を担当する金融機関が、日本の個人向けに販売しても支障がないかどうかを十二分に調査・吟味したうえで、ようやく販売する段階に至っているからです。
つまり、個人がいちいち調査しなくても、金融機関がみなさんの代わりに調査してくれているということです。
しかし、海外案件に直接投資するとなると、話は大きく違ってきます。この手の案件に投資するのであれば、自分の足を使い、自分の目で投資しても問題ないかどうかを確認しなければなりません。それには多大なコストがかかります。
必要以上に高いコストは考え物ですが、金融機関が販売している外国籍金融商品は手数料が高いといった批判が、個人の間でも多く聞かれますが、外国籍金融商品を日本に持ち込むまでにかかっている手間暇を考えると、ある程度の手数料を取られるのは致し方ないとも言えるのです。
資産を守るためにつけたい法律知識もう1つ、このような事件に巻き込まれないようにするためには、多少、法律面における武装もしておいた方が良いでしょう。
といっても、何も弁護士に相談するとか、そういった大仰な話ではありません。
今回の事件もそうですが、詐欺を働いた連中は金融商品取引法の無登録営業への違反を問われています。これは、金融商品取引業を、財務局の登録を受けずに営業した場合、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはその両方が科せられるということです。
つまり、財務局に登録があるかどうかを確認することによって、「エース・ジャヤ・インベスタマ・ジャパン」と「ウルナン・ジャパン」が怪しい業者かどうかが分かるのです。確認方法は簡単で、この両者が財務局に登録されているかどうかを確認すれば良いだけのことです。
特に最近は、無登録で営業を行っている金融商品登録業者が増えています。無登録という時点で詐欺を疑った方が良いわけですが、この点は金融商品取引法という法律の存在を知らなければ、確認の取りようがありません。その意味では、最低限の法律の知識武装も必要なのです。
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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