バブル崩壊から消費増税・パンデミックを経て…「日本人の家計」はどう変化した?
Finasee / 2023年7月31日 17時0分
Finasee(フィナシー)
日本人は昔から「一所懸命に貯蓄をする人たち」と言われてきました。昔といっても戦後くらいからだと思うのですが、一所懸命に働いて、得た賃金を節約しながら大事に使い、何とか残したお金を貯蓄に回し……。このようなイメージを、日本人に対して強く持っている世代も、まだまだ多いのではないでしょうか。
日本人の個人金融資産は過去最高に確かに、6月27日に発表された日銀の「資金循環統計(速報)」でも、個人金融資産の額は2043兆円となり、過去最高を更新しました。過去最高を更新しているくらいですから、相変わらず日本人の貯蓄好きは変わりないと思われるかもしれません。
ただ、個人金融資産を絶対値で見れば、年々増加して過去最高を更新しているのかもしれませんが、それだけではなかなか本当の実態は見えてきません。
家計貯蓄率にも注目を!貯蓄の一方には消費があります。毎月の収入から税金・社会保険料などの支払いを差し引いた残りの所得を「家計可処分所得」と言います。ここから最終的に消費に回した支出額である「家計最終消費支出」を差し引き、残った黒字額が、可処分所得のうち何パーセントを占めているのかを率にしたのが、「家計貯蓄率」です。
言い方を変えると、私たちが得ている月々の収入のうち、国や自治体に納めている各種税金や社会保険料を除いた、いわゆる自分たちの好きなように使えるお金に対して、黒字がどの程度を占めているのかを示しているのです。
したがって、家計最終消費支出がかさんで、家計可処分所得を上回るようなことがあると、貯蓄率はマイナスに転じます。「今月、ちょっと使い過ぎて赤字になっちゃった」というのが、まさにこの状態です。
もちろん、Aさんの家の家計が赤字でも、Bさんの家は黒字かもしれません。そこは各家庭の事情があります。それらを全国民的に把握したものが、「家計貯蓄率」になります。
家計貯蓄率は現在までにどう変化してきた?では、貯蓄好きな日本人の貯蓄率は現在、どうなっているでしょうか。先日、家計貯蓄率の年度推移が発表されていたので(内閣府「家計可処分所得・家計貯蓄率四半期別速報(参考系列)」)、それを中心にして過去の推移を見てみましょう。まず、2022年度の家計貯蓄率は、2.6%でした。この数字が高いのか、それとも低いのかを判断するためには、過去にさかのぼった時系列の数字が必要です。
1994~2004年:バブル崩壊後から平成不況まで日本のバブル経済が崩壊した1994年度。この時の貯蓄率は12.1%もありました。同年度の家計可処分所得が299.9兆円、家計最終消費支出が266.3兆円なので、所得に対して支出が少なかったとも言えます。
ところがその後、家計可処分所得は1997年に312.1兆円まで増加したものの、2003年には288.9兆円まで減少しました。言うまでもなく平成不況の影響でしょう。しかし、この間も家計最終消費支出は増加傾向をたどりました。結果、家計貯蓄率は低下の一途をたどり、2004年には2.1%という水準をつけました。
2013~2020年:消費増税実施からパンデミックまでかつてこの家計貯蓄率がマイナスになったこともあります。2013年度の▲1.0%と、2014年度の▲0.8%がそれです。
家計可処分所得が2013年度は289.9兆円、2014年度は289.3兆円というように、傾向としては下がっている一方、家計最終消費支出が2013年度は291.8兆円、2014年度は291.2兆円というように逆転したからです。しかも、2013年度の家計最終消費支出は、その前年度の282.6兆円に比べて大きく増加しました。
なぜ急激に家計最終消費支出が増えたのかというと、2014年4月に実施された消費増税に伴って、駆け込み消費が起こったからです。
その後、貯蓄率は徐々に回復していき、2020年度には12.1%まで急上昇しました。この理由は、恐らく皆さんも想像がつくと思いますが、新型コロナウイルスの感染拡大によって緊急事態宣言が発出され、各種給付金・助成金が支払われたからです。
これによって家計可処分所得が大きく膨らむ一方、多くの過程は先行き不安から消費を大幅に絞り込みました。結果、家計可処分所得が319.4兆円まで急増する一方、家計最終消費支出は280兆円まで急減し、家計の黒字額が大きく膨らんだのです。
2022年度:行動制限が撤廃され、物価上昇した現在現在の貯蓄率はどうかというと、前述したように2022年度が2.6%でした。
家計可処分所得と家計最終消費支出を見ると、家計可処分所得はコロナ禍による特殊要因がなくなったものの、コロナ前の水準を着実に上回っています。ちなみにコロナ禍前の水準は、2018年度が302.7兆円、2019年度が308.3兆円で、2022年度は313.4兆円でした。
一方、家計最終消費支出は、2020年度の280兆円から大きく跳ね上がり、2022年度は304.2兆円となっています。この額は1994年度以降で過去最高水準ですし、2018年度の298兆円、2019年度の296.5兆円に比べても増加しています。
このように、家計最終消費支出が伸びている背景としては、新型コロナウイルスがひとまず5類にダウングレードされ、緊急事態宣言や蔓延防止などの行動制限が無くなったことや、昨今の物価上昇による影響もあると考えられます。
***こうして時系列で家計貯蓄率の推移を見ると、消費増税やパンデミックなどの特殊要因を除けば、2022年度の2.6%は、過去20年間における平均値と考えて良いでしょう。
今後、家庭貯蓄率の低下が加速するリスクもただ、問題はこの家計貯蓄率を維持できるかどうかにあります。なぜなら、高齢者人口が増えているからです。
高齢者は公的年金に加え、それまで積み上げてきた貯蓄を取り崩しながら生活費に充てるのが一般的です。つまり、総人口に占める高齢者人口の比率が高まるほど、家計貯蓄率には低下圧力が加わります。
しかも日本の場合、少子化の影響で生産年齢人口、つまり労働に携わることのできる人の数が減りますから、ますます家計貯蓄率の低下が加速するリスクがあります。
家計貯蓄率が下がると何が困る?家計貯蓄率の上昇・低下による影響を、私たちは日常生活でほぼ実感することはありません。家計貯蓄率が上昇しているといっても、個別の家計で考えれば、「今月も赤字で大変だ」という家庭はたくさんあるわけで、なかには数字と実態が乖離していると思う人もいるでしょう。
この数字は、あくまでも日本全体を捉えたマクロデータなので、その辺はある程度、仕方のないことです。
ただ、家計貯蓄率がどんどん下がると、日本の財政赤字の問題がクローズアップされる恐れがあります。家計貯蓄率が高ければ、回りまわって、ではありますが、その黒字分を活用して、国債の購入資金に充られるからです。
逆に、家計貯蓄率が動向として低下していくことになれば、財政赤字を穴埋めするために発行している国債を通じての資金調達に支障をきたし、長期金利の上昇を引き起こす恐れがあります。それが、やがて短期金利の上昇につながれば、現在、住宅ローンを組んでいる人たちの支払いに影響を及ぼします。
かつ国債の国内消化、つまり国内資金を中心にして国債発行の資金調達が困難となれば、海外からの調達に頼らざるを得なくなります。実際、財投債や短期証券を含む日本国債の保有者を見ると、2010年3月末時点における海外投資家の比率は5.69%でしたが、2021年3月末時点では14.3%まで高まっています。
海外投資家による国債の保有比率が高まると、日本の財政赤字に関する生殺与奪の権を、海外投資家に握られてしまう恐れが高まります。資金を調達したくても、海外投資家からの了解が出ないと、資金調達できないというリスクが生じてくるのです。
これは、国債発行による円滑な資金調達に支障をきたす恐れへとつながりますから、決して日本にとって良い話ではありません。こうした点も含めて、家計貯蓄率の推移には注目しておく必要があるのです。
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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