2年前のクーデターでミャンマー撤退 キリンのバイオ事業は黒字となるか
Finasee / 2023年8月15日 17時0分
![2年前のクーデターでミャンマー撤退 キリンのバイオ事業は黒字となるか](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/finasee/finasee_12363_0-small.jpg)
Finasee(フィナシー)
キリンホールディングスの株価は一進一退の状況です。脱コロナが進み2022年12月期は大幅な最終増益となったものの、市場での評価は芳しくありません。背景にはミャンマーやバイオでの苦戦がありそうです。
【キリンホールディングスの業績】
売上高 純利益 2021年12月期 1兆8215.70億円 597.90億円 2022年12月期 1兆9894.68億円 1110.07億円 2023年12月期(予想) 2兆1150.00億円 1130.00億円※2023年12月期(予想)は、同第1四半期時点における同社の予想
出所:キリンホールディングス 決算短信
【キリンホールディングスの株価(月足、2020年6月~2023年6月)】
![](https://finasee.ismcdn.jp/mwimgs/f/a/800m/img_fa18859f278eafb9144cbdc7a1b7989e67377.jpg)
キリンは「JPXプライム150指数」に採用される大型株です。注目する投資家は少なくないでしょう。キリンはどのような企業なのか、歴史と事業内容について紹介します。
酒類と医薬品が収益の柱キリンは1907年に設立された老舗ビール会社です。前身のジャパン・ブルワリー・カンパニーまで含めると、歴史は1885年にまで遡ります。主力商品の『キリンラガービール』は、1888年の発売当初(当時は『キリンビール』)からラベルのデザインがほとんど変わっていない超ロングセラー商品となっています。
ビールの需要は高度経済成長期に特に強まり、キリンは大きく成長しました。ウイスキーやワインといったビール以外の酒類も取り扱いを拡大し、飲料事業でも『キリンレモン』や『午後の紅茶』など多くのヒット商品に恵まれました。
現在は医薬品メーカーとしての顔も持っています。キリンは2007年から2008年にかけて協和発酵キリン(当時は協和発酵工業)を子会社化しました。以来医薬品が重要な事業となっており、報告セグメントベースでは最大の事業利益を稼ぎ出しています。
【セグメント別の業績(2022年12月期)】
売上高 事業利益 国内ビール・スピリッツ事業 6635億円 747億円 国内飲料事業 2433億円 188億円 オセアニア酒類事業 2559億円 315億円 医薬事業 3979億円 825億円 その他事業 4289億円 375億円※その他事業にはメルシャン、ミャンマー・ブルワリー、コーク・ノースイースト、協和発バイオ及びその他事業の業績が含まれる。
出所:キリンホールディングス セグメント情報
ミャンマー撤退で損失190億円 事業増益は確保キリンの海外事業は主にオーストラリアが支えています。1998年にオーストラリアのビール大手ライオンネイサンに資本参加し、2009年に完全子会社化しました。オーストラリア事業はおおむね好調で、業績全体の1割ほどを担っています。
しかしミャンマーへの進出は失敗でした。2011年に軍政から民政へ移行したことを受け、キリンは2015年に現地首位のビール会社だったミャンマー・ブルワリーの株式を約700億円で取得します。ミャンマー事業は順調に成長し、2020年12月期には事業利益の8.5%を占めるほどになっていました。
【ミャンマー・ブルワリーの業績(2020年12月期)】
・売上高:318億円
・事業利益:138億円
・(参考)キリンHDの連結事業利益:1621億円
出所:キリンホールディングス 有価証券報告書
ところが2021年、ミャンマー軍は突如としてクーデターを起こし、再び軍事政権に復帰します。キリンはただちにミャンマー事業の終了を決め、2023年1月に株式譲渡で撤退します。この処理で約190億円の損失が発生し、2023年12月期第1四半期は前年同期比で約68%の大幅な最終減益となってしまいました。キリンにとっては思わぬ打撃を被った格好です。
なお、事業利益ベースでは増益を達成しています。価格改定やコスト削減の効果が出たほか、好調なキリンビールや北米飲料事業のコーク・ノースイーストが利益を押し上げ、3割以上の事業増益を果たしました。
赤字領域「ヘルスサイエンス」は黒字化するかミャンマーは苦い結果となったものの、撤退は完了しています。目下の課題は、苦戦するヘルスサイエンスの黒字化でしょう。
キリンは2019年にライフサイエンス領域を立ち上げ、孫会社だった協和発酵バイオを子会社化しました。健康に関する分野は国内外で市場拡大が続いており、これに参入することで収益の多角化を目指したものとみられます。
しかしヘルスサイエンス領域は投資先行が続いており、うまく利益を稼ぐことができていません。2021年度にはわずかに黒字化したものの、2022年には71億円の事業損失が生じました。
さらに昨今のインフレなどからコスト増に伴う収益性の悪化から、期待する収益を得られないと判断し、約430億円の減損を計上しています。2023年12月期も約48億円の事業損失を予想しており、しばらく出血は続きそうです。
当面は収益性の悪いアミノ酸事業を縮小し、シチコリンといったスペシャリティ素材に特化して業績の改善を目指すとしています。目論見通りヘルスサイエンス領域が黒字化すれば、停滞するキリン株式も上昇に転じるかもしれません。
文/若山卓也(わかやまFPサービス)
若山 卓也/金融ライター/証券外務員1種
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。
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