世界のビール会社を買収してきたアサヒ 株価急落から世界3位に成長した理由
Finasee / 2023年8月16日 18時0分
Finasee(フィナシー)
アサヒグループホールディングスは積極的な海外M&Aで拡大してきた企業です。2019年7月にはオーストラリアのカールトン&ユナイテッドブリュワリーズなどの買収を発表して注目されました。巨額な買収費用が嫌気されたのか、発表直後アサヒグループ株式は急落しています。
【当時のアサヒグループ株価(日足終値、2019年7月~2019年12月)】
出所:Investing.comより著者作成世界最大級ビール会社の豪州事業を1兆1400億円で取得アサヒグループの豪カールトン買収は、ベルギーの世界最大級のビール会社アンハイザー・ブッシュ・インベブから、オーストラリア事業の大半を譲り受ける形で実現しました。カールトンはその一環として取得したものです(最終的に55社を買収)。
買収総額は160億豪ドル、当時の為替(1豪ドル=71.35円)で1兆1416億円にも上りました。これはアサヒグループのM&Aで過去最大だとみられています。カールトンはオーストラリアのビール最大手で、単純計算で約1600億円の増収効果を得ることとなりました。
【豪カールトン事業の業績および財務(2019年12月期)】
・純資産:936億円
・総資産:9515億円
・売上高:1610億円
・営業利益:634億円
※1豪ドル=71.35円で計算
出所:アサヒグループホールディングス リリース
カールトン買収は借入金で賄ったため財務の悪化を招きます。これを補うため2020年に公募増資や劣後債の発行などで資金調達し、2021年3月に借入金を完済しました。コロナ禍での増資となったため株価への影響が懸念されましたが、その後はおおむね上昇しています。
【自己資本比率】
・2019年12月期:39.7%
・2020年12月期:34.2%
・2021年12月期:38.6%
・2022年12月期:42.7%
出所:アサヒグループホールディングス 決算短信
【アサヒグループの株価(月足、2020年1月~2023年5月)】
出所:Investing.comより著者作成海外事業が好調 世界3位のビール会社にアサヒグループは2009年頃から海外M&Aを積極化させてきました。米キャドバリーグループからシュウェップス・オーストラリア株式を約760億円で買収したほか、2016年には英SABとアンハイザー・ブッシュ・インベブから欧州のビール事業をそれぞれ約3000億円、約9000億円で取得しています。主要な案件だけでも、M&Aの総額は2兆円を超えています。
【アサヒグループの主な海外M&A】
・2009年:シュウェップス・オーストラリア社(豪州)
・2011年:インデペンデント・リカーグループ社(豪州)
・2016年:『ペローニ』『グロールシュ』などのブランド(欧州)
・2017年:『ピルスナーウルケル』などのブランド(欧州)
・2020年:カールトン&ユナイテッドブリュワリーズ社(豪州)
出所:アサヒグループホールディングス ファクトブック
巨額買収は2017年度から実を結ぶようになりました。アサヒグループの海外事業は2016年12月期に160億円の営業損失を計上しますが、翌期に売上高が6000億円に到達し黒字化して以来、2022年12月期まで6期連続の営業黒字を達成しています。10%台だった海外売上高比率も48%にまで上昇しました(2022年12月期)。今やアサヒグループはビール世界3位の巨大企業へと成長しています。
【海外売上高の推移】
出所:アサヒグループホールディングス 決算短信より著者作成【世界の主なビール会社の売上高(2022年末までの1年間)】
円ベース 外貨ベース アンハイザー・ブッシュ・インベブ 7兆6855.38億円 577.86億USD ハイネケン 4兆493.79億円 287.19億EUR アサヒグループホールディングス 2兆5111.08億円 ─ モルソン・クアーズ・ブリューイング 1兆4232.33億円 107.01億USD カールスバーグ 1兆3349.78億円 702.62億DKK※円ベースは1USD=133円、1EUR=141円、1DKK=19円で計算
※売上高にはビール事業以外も含む
出所:ロイター
苦しい国内事業 歴史ある工場も閉鎖へ好調な海外に対し、アサヒグループは国内に対しては慎重な考えを持っているようです。近年の増収は海外事業によってもたらされており、国内事業は停滞が続いてきました。少子高齢化やアルコール離れなど、日本のビール事業を取り巻く環境が年々厳しくなっていることが背景にあるようです。
【海外事業を除く売上高】
出所:アサヒグループホールディングス 決算短信より著者作成2022年には国内市場の拡大が見込めないとし、主要な生産拠点だった神奈川工場と四国工場(愛媛県)の閉鎖にも踏み切りました。また1959年から続くニッカウヰスキー西宮工場(兵庫県)も2024年に操業を終了し、生産機能を吹田工場(大阪府)へ移管することも決まっています。
苦しい国内で、アサヒグループが成長を見込む領域の1つが「酵母」です。2023年3月に日本事業の戦略を公表し、これまで主に食品向けに提供していた酵母を飼料添加物やサプリメント、基礎化粧品など、2兆円規模の市場への参入を目指すと表明しました。また「L-92乳酸菌」を軸とした商品開発を進めることも明かしています。
もっとも、これらは先行する国内大手との競争が見込まれることから、収益化は簡単ではないでしょう。アサヒグループの海外シフトは今後も続くかもしれません。
文/若山卓也(わかやまFPサービス)
若山 卓也/金融ライター/証券外務員1種
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。
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