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高い利率が魅力の「個人向け社債」購入前に必ず確認したいリスクとは?

Finasee / 2023年8月7日 11時0分

高い利率が魅力の「個人向け社債」購入前に必ず確認したいリスクとは?

Finasee(フィナシー)

「個人向け社債」をご存じでしょうか。文字通り、個人向けに発行されている社債のことですが、基本的に社債は機関投資家向けに発行されており、個人向けに発行されるのはまれです。

ところが、大和総研のレポートによると、2022年度は個人向け社債の発行額が過去最高になりました。そこで今回は、個人向け社債とは何か、投資する際の注意点などについて、考えてみたいと思います。

個人向け社債の規模感

まず、個人向け社債を取り巻く環境から見ていきましょう。

2022年度における個人向け社債の発行額は、アイ・エヌ情報センター『発行市場レポート』(2023年7月20日)によると、2兆2162億円、案件数は45件でした。

ちなみに過去、発行額が大きく伸びたのは2008年度の2兆144億円と、2016年度の2兆1495億円でした。なお、2023年度については、6月30日時点で5985億円とのことです。

個人向け社債の発行額は、社債市場全体で見るとごく一部に過ぎません。2022年度における普通社債全体の発行額は12兆8598億円でした。また2021年度の発行額は約31兆円ですから、過去最高額とはいえ、個人向け社債の発行額は、それほど大きくはありません。

個人が社債を買うメリット

そもそも普通社債の最低購入金額は、多くが1億円であり、その意味では機関投資家向けのマーケットと言えるでしょう。

とはいえ、個人向け社債の歴史は意外と古く、その始まりは1992年に発行された近畿日本鉄道債にまでさかのぼります。それを発行する企業にとっては、資金調達先の裾野を広げることで、安定した資金調達が行えるというメリットがあります。

一方、それを購入する個人投資家にとっては、預貯金に比べて高めの利回りで運用できる点が魅力と言って良いでしょう。もちろん発行体となる企業の信用格付け次第のところもあります。

たとえば2023年4月14日に条件決定したソフトバンクグループ社債の利率は年4.750%です。ソフトバンクグループ社債は、他の個人向け社債に比べて、抜きんでて高い利率です。

その他も、たとえばGMOフィナンシャルホールディングス社債の年1.52%、光通信社債の年1.11%など、総じて預貯金利率に比べて高めとなっています。

ちなみに定期預金の利率は、預入金額の多寡、預入期間の長短に関係なく、メガバンクだと年0.002%程度です。

個人向け社債のリスク

恐らく、このように高い利率を見ると、個人向け社債に対して興味を持たれる方も多いのではないかと思いますが、当然のことながら高いリターンには相応のリスクがつきものです。

個人向け社債は債券なので、償還まで保有すれば元本が保証され、かつ定期的に利率に応じた利子を得られます。ただし、元本が保証されるのは、発行体である企業がデフォルト、つまり債務不履行に陥らなかった場合の話です。

同じ債券でも「国債」なら、国の信用力を担保に発行されるので、そう簡単にデフォルトに陥ったりはしないのですが、社債は一民間企業が発行しているため、国債に比べると信用力が下がります。

信用力を見極めるための判断材料

その信用力を見極めるための判断材料として、「債券格付け」があります。それを見れば、その社債がデフォルトに陥るリスクがどの程度あるのかを、おおよそ把握できます。

ちなみに、前出のソフトバンクグループ社債の発行体格付は、JCR格付でBBBです。

JCRとは日本格付研究所のことで、債券の発行体格付を行っている会社です。この他にも、R&I(格付投資情報センター)やS&P(スタンダード&プアーズ)、 Moody's(ムーディーズ・インベスター・サービス)といった格付会社がありますが、JCRはそれ以外の格付に比べて若干、甘いと言われています。これらの点をまず頭の片隅に入れておいてください。

債券格付け「BBB」の意味

さて、BBBという格付が何を意味するのか、ということですが、JCRの定義によると、「債務履行の確実性は認められるが、上位等級に比べて、将来債務履行の確実性が低下する可能性がある」というものです。

もう少し平たく言うと、「元本や利子の支払いがきちんと行われると思われるけれど、上位の格付を取得している債券に比べると、将来的に、元本や利子の支払いが滞るかも知れません」ということです。

ちなみに格付の最上位はAAA(トリプルA)で、以下、AA(ダブルA)、A(シングルA)、BBB(トリプルB)、BB(ダブルB)、B(シングルB)、CCC(トリプルC)、CC(ダブルC)、C(シングルC)というように複数の格付があり、このうちBB以下を「投資不適格債券」と言います。

つまり、償還前にデフォルトするリスクが高いとされる債券です。BBB以上は「投資適格債券」とされていますが、BBBはそのなかでも最も下位の格付になります。

加えて、前述したようにJCR格付は、他の格付会社に比べてやや甘めに評価されている可能性があることも考慮すると、BBBではあるけれども、それよりはややデフォルトリスクが高めであると考えるくらいで良いでしょう。そのリスクを織り込んだうえで、年4.750%という高い利率が提示されているのです。

償還年限の確認方法

また、ソフトバンクグループ社債の償還年限を見ると、「5年」、「10年」という年数が示されておらず、「35NC5」となっています。この意味するところも、個人向け社債に投資する場合は、理解しておく必要があります。

まず「35」という数字は、最長35年まで償還を先延ばしにできるという意味です。「NC」というアルファベットですが、これは「ノンコール」の意味です。これに対して末尾の5という数字は、5年後以降の利払い日に繰上償還できるという意味ですが、ただしNC5(ノンコール)なので、5年間は繰上償還されないという意味になります。

つまり、投資してから最短でも5年間は償還されないので、この間の現金化は難しく、したがって5年以上置いておくことのできる資金での投資が前提になります。そして、5年経過時点で繰上償還されない場合は、6カ月ごとに到来する利払い日まで償還が先延ばしされ、最長35年債になるという仕組みです。

このように最低でも5年間は保有しなければならない債券ではあるのですが、債券の場合、一応は償還日前でも現金化することは可能です。

個人向け社債の注意点

ただし、これは他の個人向け社債にもあてはまることですが、基本的に個人向け社債は債券市場における流動性が極めて低いという問題があります。つまり、売却したい時に、それを買いたいという投資家が見つかりにくいのです。

そのため、償還日前に現金化しようとすると、安い債券価格で買いたたかれる恐れがあり、下手をすると元本を割ってしまうリスクがあります。

債券は、償還日まで保有すれば、額面価格で元本が償還されますが、償還日前に売却する場合は、債券市場の需給によっては、売却価格が額面価格を割り込んだ水準でしか、買い手がつかないケースもあるのです。

これは、債券に投資する場合のリスクとして、覚えておく必要があります。

鈴木 雅光/金融ジャーナリスト

有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。

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