「楽天モバイル」の赤字を凌ぐトラベル事業 躍進はライバルの買収から始まった
Finasee / 2023年8月23日 18時0分
![「楽天モバイル」の赤字を凌ぐトラベル事業 躍進はライバルの買収から始まった](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/finasee/finasee_12381_0-small.jpg)
Finasee(フィナシー)
「楽天モバイル」の不振が報じられて久しい楽天グループは、モバイル事業の赤字をその他のコア事業で凌ぐ状況が続いています。『楽天トラベル』はその1つです。
楽天トラベルは今でこそ業界トップクラスのシェアを握りますが、リリース直後はシェアを争うプレイヤーの1人に過ぎませんでした。しかし当時のライバルを買収したことで一挙に有力な宿泊予約サイトへと成長します。当時の経緯を振り返ってみましょう。
ライバルだった「旅の窓口」を323億円で買収1997年に『楽天市場』をリリースしEC市場で覇権を握った楽天は、旅行予約事業へ進出を目指します。当時はマイトリップ・ネットの『旅の窓口』が旅行予約サイト最大手とみられていました。
マイトリップ・ネットは日立造船グループから誕生したベンチャー企業です。これに対抗するため、楽天は2001年に楽天トラベルをリリースしシェア争いを始めます。
しかしわずか2年後、マイトリップ・ネットが楽天に買収される形で競争は終わります。当時、日立造船グループは業績不振に陥っていました。そこで楽天がマイトリップ・ネットの買収を持ちかけたのです。日立造船はこれに応じ、2003年9月に323億円で楽天がマイトリップ・ネット全株式を取得し完全子会社化しました。
買収費用はマイトリップ・ネットの純利益の58倍にも上りましたが、楽天は回収できると踏んだようです。
【マイトリップ・ネットの業績(2003年3月期)】
・売上高:31.84億円
・営業利益:10.93億円
・経常利益:10.98億円
・純利益:5.55億円
出所:楽天グループ リリース
また投資家も、マイトリップ・ネットは高い買い物とは思っていなかったようです。買収を発表すると、その費用が嫌気され株価が下落することは珍しくありません。しかしマイトリップ・ネットの買収を発表した楽天の株式は大きく値上がりしました。楽天市場と旅の窓口のシナジーは、投資家にも描きやすかったのかもしれません。
【当時の楽天の株価(日足終値、2003年8月~10月)】
![](https://finasee.ismcdn.jp/mwimgs/e/3/800m/img_e373da69337d3432ff2a1b1dd7e693b249853.jpg)
楽天の思惑通り、マイトリップ・ネットの買収は成功でした。マイトリップ・ネットは2004年、楽天が2002年に旅行事業を分社化して設立していた楽天トラベルに吸収合併されます(楽天トラベルは2014年に再び楽天へ吸収)。この統合で、月間宿泊予約数130万件(2016年3月)を超える国内最大級の宿泊予約サイトが誕生しました。業績への寄与も大きく、2010年12月期にはトラベル事業だけで100億円以上の利益を稼いでいます。
【楽天のトラベル事業の推移】
セグメント売上高 セグメント損益 2006年12月期 104.64億円 46.59億円 2010年12月期 232.84億円 102.85億円※トラベル事業は2011年12月期にインターネットサービス事業へ統合
出所:楽天グループ 決算短信
楽天トラベルの人気は今も健在です。日本観光振興協会がネット行動分析のヴァリューズと共同して調査したところ、推計閲覧者数ランキングで2位にランクインしました(2022年)。マイトリップ・ネットを買収して強化したトラベル事業は、今や楽天グループのコア事業へと成長しています。
【観光関連サイトの推計閲覧者数ランキング(2022年)】
PC スマートフォン 1位 じゃらんnet(3030万人) じゃらんnet(3190万人) 2位 楽天トラベル(2900万人) 楽天トラベル(2930万人) 3位 一休.com(1760万人) JR東日本(2100万人) 4位 JR東日本(1690万人) JAL(1410万人) 5位 JAL(1660万人) ANA(1410万人)
出所:日本観光振興協会、ヴァリューズ
マイトリップ・ネットをはじめ、かつてはさまざまな企業買収を演じた楽天ですが、今ではグループの売却を進めています。楽天銀行を2023年4月に上場させたほか、2021年にかけて取得した西武HD株式も同年5月に売却を発表しました。さらに楽天証券HDも、2022年にみずほフィナンシャルグループの出資を受け入れたほか、2023年7月に上場を申請しています。
楽天が子会社を相次いで手放す背景には「楽天モバイル」の赤字があります。楽天は2019年から自社回線を利用したモバイル事業をスタートしました。先行投資の状況が続いており、2022年12月期では4900億円以上の損失が生じています。
【楽天グループのセグメント業績(2022年12月期)】
売上高 セグメント損益 インターネットサービス 1兆858.72億円 782.03億円 フィンテック 6633.93億円 987.04億円 モバイル 3686.69億円 -4928.30億円
出所:楽天グループ 決算短信
マイトリップ・ネットの子会社化では買いで反応した投資家も、モバイル事業の不振には弱気のようです。楽天グループ株式は値下がり傾向を強めており、株価は2010年以降で最低水準へと沈んでいます。楽天はモバイル事業の収益化に強気ですが、それまでは株式市場で厳しい評価が続くかもしれません。
【楽天グループの株価(月足終値、2006年7月~2023年7月)】
![](https://finasee.ismcdn.jp/mwimgs/4/c/800m/img_4c082057769cc52fb742cd78d98e9b9974675.jpg)
文/若山卓也(わかやまFPサービス)
若山 卓也/金融ライター/証券外務員1種
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。
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