マネックスの“ディストレスト投資” コインチェックの買収は成功だったのか?
Finasee / 2023年8月30日 18時0分
Finasee(フィナシー)
危機的な状況に陥った企業にあえて投資する戦略を「ディストレスト投資」と呼びます。リスクが高く一般に高度な知識が求められる戦略ですが、成功すれば大きな利益を得られるかもしれません。
同様のケースは企業買収でも見られます。マネックスグループのコインチェック買収もその一つといえるでしょう。マネックスグループは2018年4月、不正流出事件によって窮地に陥っていたコインチェックの子会社化に踏み切りました。
「ネム流出事件」のコインチェックを36億円で買収コインチェックはビットコインといった暗号資産(仮想通貨)の交換業者です。2014年にサービスを開始し、暗号資産市場の拡大とともに大手の一角を占めるようになっていました。
しかし2018年1月26日、コインチェックは不正アクセスを受け、「ネム」という暗号資産のほぼ全額が外部に流出してしまいます。コインチェックは巨額の補償費用や信用の失墜などから、事業の継続が困難な状況へと陥りました。
このような状況で、マネックスグループは同年4月にコインチェックの子会社化を決断します。全株式を36億円で取得する内容で、PER(株価収益率)で7.6倍という割安な取得費用だったものの、当時は将来の事業が見通せない中での買収を危ぶむ声も聞かれました。
【当時のコインチェックの財務状況(2017年3月期)】
・総資産:38.68億円
・純資産:5.40億円
・売上高:772.30億円
・営業利益:7.86億円
・純利益:4.71億円
出所:マネックスグループ リリース
もっとも、投資家を好意的に捉えていたようです。コインチェック買収は報道が先んじて伝えますが、直後からマネックス株式は大きく値上がりしました。
【当時のマネックスグループ株価(日足終値、2018年3月~5月)】
出所:Investing.comより著者作成再建に成功 上場手続きもスタート投資家が期待したように、コインチェック買収は成功を収めています。
マネックスは買収後、それまで未開示だったコインチェックの2018年3月期の業績見込みを公表しました。営業利益が537億円と前期(同7.86億円)を大幅に上回り、不正流出に伴う特別損失473億円を差し引いても63億円の税引き前利益が残る内容でした。
翌期は営業損失に転落しますが、暗号資産市場が再び活況となった2020年度と2021年度は2期連続で130億円以上の営業利益をたたき出します。買収前のマネックスグループ全体の営業利益が約86億円(2018年3月期)ですから、コインチェックのインパクトの大きさがうかがえます。
【コインチェックの業績の推移】
売上高 営業利益 純利益 2019年3月期 21.15億円 -26.36億円 -27.43億円 2020年3月期 38.14億円 3.69億円 2.85億円 2021年3月期 208.25億円 137.72億円 103.05億円 2022年3月期 285.08億円 138.2億円 97.96億円 2023年3月期 74.84億円 -8.35億円 4.85億円
出所:マネックスグループ 決算公告 コインチェック
【ビットコイン価格の推移(月足終値、2018年4月~2023年4月)】
出所:Investing.comより著者作成マネックスは2022年3月、コインチェックの米ナスダック上場を発表しました。コインチェックを傘下とする持ち株会社を設立し、ナスダックに上場する特別買収目的会社(SPAC)との統合によって上場を目指す方法で、現在手続きを進めています。これに成功すれば、国内の暗号資産交換業者としては初の上場企業が誕生することとなります。
なお、上場にかかる審査が想定よりも長期化していることを受け、2023年7月としていた統合の期限を1年間延長させました。上場企業コインチェックの誕生は、もう少し待つ必要がありそうです。
次の成長事業は教育? 関連企業を相次いで子会社化マネックスグループは、「マネックス証券」を中核に国内外で金融商品の取引サービスを展開する企業です。商材は異なるとはいえ、暗号資産への参入は意外とはいえないかもしれません。
【セグメント業績(2023年3月期)】
売上高 セグメント利益 日本 326.35億円 57.81億円 米国 392.76億円 -2.27億円 クリプトアセット事業 75.83億円 -8.76億円 アジア・パシフィック 11.03億円 -1.58億円 投資事業 7.05億円 2.16億円
出所:マネックスグループ 決算短信
しかし、教育事業への参入を予想した人は少なかったのではないでしょうか。マネックスグループは2021年、「STEAM教育」(※)に取り組むヴィリングを完全子会社化して教育事業へ新規参入すると、翌年には英語教育を手掛けるセランを買収しました。
※STEAM教育:Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Art(芸術)、Mathematics(数学)の 5 つの領域を横断的に学習する教育理念。
マネックスは2021年4月、企業理念を「個人の自己実現を可能にし、生涯バランスシートを最良化すること」へと改定しています。従来は金融商品や暗号資産などプロダクトごとのビジョンを掲げていましたが、新しい企業理念からはより広い領域でサービスを展開する姿勢が読み取れます。教育事業への参入は、この実現を目指したものとみられます。
上述の2社の買収はどちらも業績に与える影響は小さいとしていることから、教育事業の収益への貢献は限定的でしょう。しかし、これまでにないサービスは生まれるかもしれません。マネックスがどのように教育にかかわっていくのか、要注目です。
文/若山卓也(わかやまFPサービス)
若山 卓也/金融ライター/証券外務員1種
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。
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