赤字からテンバガー達成へ リーマンショックから立ち直ったレーザーテックの構造改革
Finasee / 2023年8月29日 17時0分
Finasee(フィナシー)
大きく値上がりしていたレーザーテック株式で調整が続いています。2022年1月に3万6000円の高値を付けたあと、2022年に1万4000円台まで下落しました。2023年に入ってからは2万円前後で推移しています。株価の下落を受け、買いを検討している人も少なくないのではないでしょうか。
【レーザーテックの業績】
売上高 純利益 2021年6月期 702.48億円 192.50億円 2022年6月期 903.78億円 248.50億円 2023年6月期(予想) 1520.00億円 450.00億円※2023年6月期(予想)は、2023年7月公表の同社による予想
出所:レーザーテック 決算短信およびリリース
【レーザーテックの株価(月足、2020年7月~2023年7月)】
出所:Investing.comより著者作成JPX総研は2023年7月、「価値創造が推定される我が国を代表する企業で構成される指数」をコンセプトに「JPXプライム150指数」の算出を始めました。レーザーテックは2つの選定基準(資本収益性・市場評価性)をどちらも満たす企業として採用されています。
今回は半導体マスク検査機器大手のレーザーテックに注目してみましょう。
レーザーテックはなにがすごい?世界シェア独占のハイテク企業レーザーテックは1960年に設立された企業です。当初は医療用X線テレビカメラの設計・開発を手掛けていました。現在では半導体製造に用いるフォトマスクやマスクブランクスの検査機器でトップクラスのシェアを持つ企業として知られています。
さまざまな電子部品に用いられるICチップは、回路を形成した半導体シリコンを一つ一つ切り出したものです。この回路は感光材を塗布した半導体シリコンに光を照射して形成しますが、その回路パターンの原板となるものがフォトマスク、さらにフォトマスクの材料となるものをマスクブランクスと呼びます。
フォトマスクやマスクブランクスは、製造過程でどうしても一定の不良品が生まれます。従来は顕微鏡を使い目視で確認していました。レーザーテックは1976年に世界で初めてフォトマスク欠陥検査装置を開発し、検査工程の自動化に貢献します。その後、ライバルの米KLEテンコール社との競争も制し、レーザーテックはこれらの検査装置で高いシェアを占めるようになりました。
特に回路形成にEUV(極端紫外線)を用いるEUVマスクの検査機器では、世界シェア100%をほぼ達成しているとみられています。EUVは波長が非常に短い光で、より微細な回路を形成できることから、2019年から大手メーカーで導入されるようになりました。
小型化・高性能化が求められる半導体業界において、EUVマスクは主流になっていくとみられており、その検査機器に対するニーズも当然高まることが予想されます。この領域を独占するレーザーテックには恩恵が期待できるでしょう。
テンバガー達成 PBR 23倍まで買われる人気銘柄に半導体に対するニーズの高まりもあり、近年のレーザーテックの業績は目を見張るものがあります。2022年6月期に売上高426億円を記録し、2018年6月期(同92.5億円)から6.8倍に拡大しました。これは1年あたり成長率が60%にも達する驚異的な伸びです。
【売上高と営業利益の推移(2015年6月期~2022年6月期)】
出所:レーザーテック ファクトシートより著者作成この成長を反映してか、レーザーテック株式は市場で人気化しました。2019年ごろから値上がり傾向を強め、株価は2018年末比で2021年1月に10倍化、同年12月末ではおよそ25倍の水準まで上昇します。
【レーザーテック株価(年足、2015年~2023年)】
出所:Investing.comより著者作成その後は値下がりしますが、まだ足元のPBR(株価純資産倍率)は23倍を超えており、東証プライム市場に上場する電気機器企業の平均(同1.8倍)を大きく上回っています。これは投資家の評価が高いということを意味しています。レーザーテック人気はまだ健在といえそうです。
【PBRの市場平均比較(2023年7月末)】
・レーザーテック:23.36倍
・東証プライム市場平均連結PBR:1.2倍
・東証プライム市場平均連結PBR(電気機器):1.8倍
※レーザーテックのPBRは2023年3月末時点の1株あたり純資産、2023年7月末時点の株価で算出
出所:レーザーテック 決算短信、日本取引所グループ その他統計資料
成長のきっかけはリーマンショック?赤字転落で半導体へシフト半導体向け検査機器の優良企業として評価が高いレーザーテックですが、実は以前はディスプレイ(FPD)向けの製品が主力でした。現在のように半導体を中核事業に据えたのは、リーマンショック後に取り組んだ構造改革がきっかけです。
リーマンショックが起こると、ディスプレイの主要な需要を占めていた液晶テレビの販売が低迷します。検査機器に対する需要も縮小したことで売り上げが激減し、6.5億円の最終赤字に転落しました(2009年6月期)。
【当時のレーザーテックの業績】
売上高 純利益 2007年6月期 158.74億円 23.75億円 2008年6月期 141.36億円 18.88億円 2009年6月期 92.66億円 -6.51億円
出所:レーザーテック 決算短信
業績不振から脱却を目指し、レーザーテックは収益の大部分を占めていたディスプレイ向け製品の縮小を決断。技術力を生かせる半導体向けに注力することを決めました。売上高に対するディスプレイ向け製品の構成比は2013年6月期で2%ほどまで低下しています。
【製品部門別の売上高構成比(2009年6月期~2013年6月期)】
出所:レーザーテック 決算短信より著者作成先述のように、今ではレーザーテックは半導体業界で欠かせない存在へと成長しました。現在のポジションは、苦しい中で断行した改革が奏功した結果といえるでしょう。
文/若山卓也(わかやまFPサービス)
若山 卓也/金融ライター/証券外務員1種
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。
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