「好成績の商品は?」「資金流出入状況って?」 etc. “投資信託のリアル”を知る方法
Finasee / 2023年8月14日 11時0分
Finasee(フィナシー)
国内で設定・運用されている公募投資信託の本数は、2023年6月末現在で約5920本あります。これだけ本数が多いと、投資信託の種類も多種多様です。
運用スタイルで言えばアクティブ型とインデックス型。投資対象では国内株式型、海外株式型、国内債券型、海外債券型、それらをすべてミックスしたバランス型、コモディティ型、REIT型に至るまで、投資信託というビークルを通じてアクセスできない資産クラスはないのではないか、と思えるくらい、さまざまな種類の投資信託が取りそろえられています。
ただ、人間とは不思議なもので、選択肢は多いほど良いと思っているフシがあるものの、目の前にたくさんの選択肢を並べられると、かえって選べなくなったりします。
ですから、つみたてNISAの対象商品は246本に絞り込まれていますし、来年1月からスタートする新NISAの成長投資枠で購入できる投資信託の本数も、2000本前後になると言われています。とはいえ、2000本でも選ぶのは難しいような気がするのですが……。
投資信託の全体像が分かりにくい2つの理由投資信託の全体像を把握しにくい要因は、①本数が非常に多いこと、②全体像を見渡すことのできる情報が少ないことです。
一般的に投資信託は、証券会社や銀行といった販売金融機関を通じて、個人に販売されていますが、たとえばA証券会社の窓口で、約5920本あるすべての投資信託が買えるわけではないのです。
これが株式であれば、どこの証券会社の窓口でも同じ株式を売買できますが、投資信託の場合、投資信託会社と特定の販売金融機関の間で販売契約を結んで販売されるため、A証券会社とB銀行とでは、取り扱っている投資信託に違いが生じてくるのです。
当然、販売金融機関を通じて個人受益者に流される投資信託の情報は、自社が扱っている投資信託のものに限られてきますから、一販売金融機関を通じて個人受益者が受け取れる投資信託の情報は、かなり限定的になってしまうのです。
具体的に言うと、たとえば直近、どのようなタイプの投資信託が好成績を収めているのか、新規設定された投資信託はどういうものがあるのか、資金の流出入状況はどうなっているのか、純資産が大きな投資信託にはどういうものがあるのか、などの情報は、インターネットを検索してもそう簡単にヒットしません。
投資信託の状況を知ろうそこで注目したいのが、三菱アセット・ブレインズが毎月定期的に発行している「投信マーケット概況」というレポートです。
速報版は、前月末の数字をベースにして、翌月の上旬にはリリースされます。最新版は2023年8月号ですが、これは7月末のデータをベースにして、8月4日にリリースされたものです。このレポートから、今の投資信託がどういう状況にあるのかを読み取ってみましょう。
分類別累積パフォーマンスまず「分類別累積パフォーマンス」を見ると、投資信託のタイプ別に2021年7月からの2年間の累積リターンが一目瞭然です。実は、この2年間で最も高いリターンを出しているのは、国内株式型でした。
それに次いで高いパフォーマンスを上げたのが「ハイイールド債券型(円ヘッジなし)」で、「エマージング株式型」、「エマージング債券型(円ヘッジなし)」と続いています。
ハイイールド債券型は格付がBB格以下のいわゆるジャンク債を組み入れて運用する投資信託です。信用力の低い債券を組み入れる一方、高い利回りが期待できます。また、エマージング株式、エマージング債券はいずれも新興国(エマージング国)の株式や債券を組み入れて運用するタイプです。
ハイイールド債券型にしてもエマージング債券型にしても、「円ヘッジなし」が好調な成績を上げたのは、この間、円が米ドルをはじめとする外貨に対して大きく売られたからです。円安が進んだ分、為替差益がリターンの押し上げ要因になりました。
新規設定ファンド次に「2023年7月 新規設定ファンド」ですが、設定額が最も大きかった(それだけ必死に営業してお金を集めたとも言えます)のは、三井住友トラストアセットマネジメントが設定した「半導体関連世界株式戦略ファンド」で、設定額は560億3100万円でした。販売金融機関はSMBC日興証券です。
次いで「あおぞら・新グローバル分散ファンド(限定追加型)2023-07」の160億700万円が続きます。このファンドは、運用開始から1年間で毎月5%ずつ株式の組入比率を高めていき、最終的に60%になった時点で、株式60%、債券40%のバランス運用を行うというものです。
基準価額が1万1500円以上になった時点で、安定した債券運用に切り替えるということで、安定志向の強い個人に人気とのことですが、この手の仕組みが十分にワークしたケースを、私はほとんど知りません。リスクコントロールは投資信託の仕組みで行うよりも、実際に投資信託を購入する個人が、他の保有資産とのバランスで考え、自分で行う方がシンプルです。
総じて、新規設定の上位には、国内株式や国内債券など国内の資産クラスを組み入れて運用するタイプよりも、外国株式や外国債券など海外の資産クラスに投資するタイプが多くを占めています。
資金の流入額、純資産額のランキングその他に注目したいデータは、資金の「流入額上位30ファンド」と「流入額下位30ファンド」、そして「純資産額上位30ファンド」です。
流入額下位は、つまり「資金が流出している」ことの意です。純資産総額はストック段階での規模、資金流入額はフローの規模を示します。したがって、純資産総額が上位でも、資金流入額が上位とは限りません。
両者ともに上位にあれば、人気ファンドと判断できます。例えば、三菱UFJ国際投信の「eMAXIS Slim米国株式(S&P500)」は、ストック段階での規模を示す純資産総額はトップの2兆4610億2700万円で、フロー段階の規模を示す資金流入額でも、2位の708億8100万円の資金流入となっています。
逆に、恒常的に「流入額下位30ファンド」の常連になっているような投資信託は要注意でしょう。もちろん、純資産の規模が非常に大きいファンドであれば多少、流出額が大きくなっても心配はいりませんが、純資産の規模は小さいのにも関わらず、資金流出額が大きい投資信託は、運用難に陥るリスクなども含めて注意しておく必要があります。
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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