固定金利 vs 変動金利、どちらがおトク? 住宅ローンの選び方をプロが伝授
Finasee / 2023年8月18日 11時0分
Finasee(フィナシー)
多くの人に最も関係が深い不動産取引といえば、やはりマイホームの購入です。しかし、ここでも「知っている人」「知らない人」では大きな差がついてしまいます。例えば「変動金利より固定金利がよい」「繰り上げ返済はすればするほどよい」などの“常識”とされている説は本当に正しいのでしょうか。不動産鑑定士の福田伸二さんが、住宅ローンのリテラシー向上に役立つ知識を解説します。
*** ペアローンの落とし穴。そのローン本当におトク!?前編(世帯年収1000万円パワーカップル「この物件を買えば破産」。盲点だった“ある出費”とは)でご紹介したSさんのご相談で、もうひとつ私が気になった点がペアローンを組もうとされていたことです。最近では共働きが増え、ご夫婦でペアローンを組んで住宅を購入する方が増えています。もちろんローン控除などの面では、ペアローンのメリットも大きいのですが、単独でローンを組めるのに、わざわざペアにする必要はないというケースも散見されます。
例えば、住宅ローンを組む時に加入する団体生命信用保険があります。これは借り入れをした方が死亡した場合、ローンの残債を支払わなくてよくなるという内容の保険です。この保険もペアで組むと、例えばご主人が亡くなった場合、奥さまのほうには半分ローンが残ってしまいます。
また、変な話ですが、万が一離婚をした場合も、住宅が共有名義になってしまうので、売却しにくくなるのです。不動産は権利関係が複雑になればなるほど価格が下がってしまうのがセオリーです。ご夫婦の年収にもよりますが、ペアローンにしたほうがトクなのか、単独でローンを組んだほうがトクなのかは、一度よく考えていただきたいと思っています。
固定金利、変動金利、どちらを選ぶか迷った時には?当社でのマイホーム購入のご相談で多いのが、「固定金利と変動金利のどちらがよいか」というものです。最近は「金利が上がってきそうなので、やはり固定金利でローンを組んだほうがいいのでしょうか?」という質問が多いですね。
住宅ローンにおける固定金利と変動金利の考え方ですが、基本的には、手元の資金に余裕がある方は変動金利、逆に手元資金が厳しいという方には固定をおすすめしています。現在、固定金利も上がってきていますのでおすすめしづらい面もあるのですが、基本の考え方はこれですね。
なぜ手持ち資金に余裕のある方は変動金利のほうがよいかというのは、わざわざ最初から高い金利でローンを組まなくても、金利が上がってきたら余裕資金でそのまま支払っていけるからです。また、いざ自宅を売却しようとした時に万が一ローンの残債より低い価格でしか売れなくても、手持ちのお金でマイナスを埋めて売却ができるからです。特に不動産価格が下がってくると、住宅ローンの残債金額以下でしか売れなくなるケースが増えてきます。このために住み替えをしたくてもできないという方もたくさんいらっしゃいます。
お金があっていざとなったら手持ち資金を出して売却できるくらいの人は、リスクをとれるので、変動金利でローンを組んで低い金利のメリットを享受したほうがいいということです。高い固定金利で払っていくよりは、安い金利のままできるだけ返済をしておくほうがおトクなのです。
一方で、経済的に厳しい方の場合は、金利の上昇を考えて、固定金利で払っていったほうが安心ですよね。35年先のことは予測できませんから、何かあった時に臨時の資金を出せない人にとっては、固定で払い続けるほうが安心ということになります。
「変動金利は怖い」というイメージがあるかもしれませんが、変動といっても急にガンと上がるわけではありません。少しずつ上昇していくものなので、余裕資金がある方は、リスクをとりながら低い金利を享受してもよいのではないかと思います。
「頭金は多ければ多いほどいい」はホント!?もうひとつ、「頭金をいくら入れたらよいですか?」というのもよくあるご質問です。これも考え方としては、固定金利、変動金利と同じです。手元資金に余裕のある方であれば、できるだけローンを“引っ張った”ほうがいい。変動金利であれば現在では約0.3~0.5%とかなり低いので、なるべくフルローンで引っ張っておいたほうがトクなのです。
本来なら「頭金1000万円を入れようか、どうしようか」と考えると思うのですが、頭金を入れずにフルローンを組んでしまえば、手元の1000万をほかの投資に振り分けられます。0.5%で調達して5%の運用をすれば、運用益は4.5%になります。そういう考え方をすれば、頭金に回すよりも、ほかの投資に回したほうが利益は大きいのです。
反対に、手元のお金に余裕がない方は、月々のローン金額を抑えるために、ある程度頭金を入れたほうが安全です。不動産を売却したくても、ローン残債より低い価格でしか売れないため住み替え出来ない、といったことを防ぐことができます。自宅についても、保有が苦しくなれば何時でも売却して、無理のない範囲でのマイホームに住み替える柔軟性が大切です。
一般には「お金がある人ほど頭金を多く入れたほうがいい」という考え方が主流だと思いますが、われわれの発想は逆です。
同様に、繰り上げ返済も低金利で借りられているうちは無理にやる必要はない、という考え方です。繰り上げ返済というのは手元のお金をそこに注ぎ込むことです。低金利で調達しているのだから借りておけばいいのに、という話です。手元にお金があるのなら、違うもので運用すれば利益になります。
また、繰り上げ返済をするということは、ペアローンの項目でも触れた団体信用生命保険の保険額を減らしていることになります。これは非常にいい保険ですから、なるべく長く入っておいたほうがおトクなのです。
ローンを放置していないかもう一度見直す一方で、ローンの借り換えに関しては、メリットがあるなら積極的にやったほうがよいですね。いまは上がってきたとはいえ、超低金利といわれるほど金利の低い時代です。金利が高い時に住宅ローンを組んでそのままにしている方も多いので、借り換えは積極的に検討してほしいと思います。
金利2%くらいの時に買った方はローン残高も減ってきていてリスクも減少しているので、変動金利に借り換えるというのもありだと思います。銀行の借り換えの商品などが新しく出てきたら、チェックしていただいたほうがいいですね。
ただし、ローン残高が1000万円を切るのであれば、トクをする金額よりも手数料のほうが高くなってしまうので、借り換えはおすすめできません。諸費用まで入れた総額を比べていただいて、しっかりメリットが出るかどうかを判断して、借り換えを検討してください。
「終の棲家」の時代は終わり。マイホームも売却を意識して今回は、住宅ローンに関するさまざまな疑問について解説をしました。最後に、注意していただきたいのは、これからの時代は自宅とはいえ、将来の売却を意識したほうがよいということです。自宅を購入する時も、「次に売れるかどうか」は、慎重に考えたほうがいいですね。
例えば戸建てを購入しても、お子さんが結婚して出られたりすると、夫婦で戸建てに住み続ける必要はなく、売却してマンションに住み替えるなど、ダウンサイジングしていくほうが合理的ですよね。その時に「売れる物件」ではなかった場合は、住み替えたくても住み替えられずに、元の家に住み続けるしかありません。
特にこれからの時代の不動産は、売れる物件・売れない物件で二極化が進みます。すでに「自宅が売却できない」悩みはよく聞きますが、もっと売れない時代がやってきます。今後、不動産価格が上がり続けるとは考えづらい状況です。特に地方などでは、値段がつくうちに売却しておくことをおすすめします。
不動産投資では必ず「出口」を意識しなければなりません。しかし、これからの日本ではマイホームも「出口」を意識する時代です。購入前に物件の価値を見極め、迷う場合は専門家に査定を頼むなどして、後悔しない家選びをしていただきたいと思います。
福田 伸二/不動産鑑定士
POLUSグループを経て、大和不動産鑑定株式会社に入社し、東京本社鑑定部課長、鑑定証券化部次長を最後に退社。その後、売買仲介・コンサルティング業務に従事し、J-REIT上場のアドバンス・レジデンス投資法人の運用会社で外部委員も務める。毎年100件以上にわたる収益物件の鑑定評価書の発行や、東京都税事務所のアドバイザーとして相続税路線価のアドバイス業務に従事。2020年にファイナンシャルスタンダード入社。
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