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生活に必要なのに…モノの値段がなかなか下がらない“これだけの理由”

Finasee / 2023年8月21日 17時0分

生活に必要なのに…モノの値段がなかなか下がらない“これだけの理由”

Finasee(フィナシー)

お盆休みを利用して帰省していた方も結構いらっしゃると思いますが、自動車を使って帰省した方は、きっと2つの悩みがあったのではないでしょうか。

1つは渋滞。今年の夏休みは新型コロナウイルスの感染拡大に伴う行動規制が全くないため、高速道路はかなり渋滞しました。

それに加えて頭が痛いのは「ガソリン代」だったのではないでしょうか。ガソリン価格を調査している石油情報センターによると、レギュラーガソリンの小売価格は、7月末時点の全国平均で1リットルあたり176.6円となり、11週連続の値上がり。およそ15年ぶりの高値になりました。

ガソリン代が上がった理由

原油価格の値動きをさかのぼってみると、直近で高値をつけたのが2022年6月14日の1バレル=123.68ドルでした。そこから下落トレンドをたどり、2023年5月4日には一時、1バレル=63.57ドルまで下落しましたが、7月に入ってから上昇トレンドに転じ、8月10日は1バレル=84.89ドルの高値をつけました。

上記の数値は、米国における原油価格の指標的存在であるWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)という油種の価格ですが、そもそも原油を精製することによってできるのがガソリンなので、原油価格とガソリン価格は同じ値動きをします。原油価格が上昇すれば、当然のことですがガソリン価格も上昇します。

原油価格およびガソリン価格が上昇したのは、サウジアラビアなど主要産油国が原油の減産を表明していることに加え、世界的に景気の先行き懸念が薄らいだことによって、原油およびガソリンに対する需要が高まりつつあるからです。

さらに日本では、燃料価格の負担軽減策として、2022年1月から石油元売り会社に国が補助金を支給しており、ガソリン価格の上昇が抑えられてきたものの、今年1月からは補助金を徐々に縮小していることも、ガソリン価格の上昇につながっていると考えられます。

実際、経済産業省の見解として、補助金によってガソリン価格は1リットルあたり8.1円抑制されていると言っています。7月末のガソリン価格が1リットル=176.6円ということでしたが、補助金がなかったら184.7円になっていたとも言えるのです。

現状、物価上昇圧力は弱まりつつある

さて、ガソリンを一例として取り上げましたが、多くの方は最近の物価上昇に対して辟易していらっしゃるのではないでしょうか。ガソリンは言うまでもなく、食品関連の値段も上昇が続いています。

とはいえ、物価上昇圧力は一時期に比べると、やや弱まりつつあります。それは、企業物価指数の上昇がやや緩んできたからです。

一般的に、物価には2種類あります。1つが、私たちの生活実感に対して密接に関連している「消費者物価指数」です。総務省が毎月調査・発表しているもので、家計が購入するモノやサービスの価格を総合的に把握するためのものです。

これに対して、もう1つの物価である「企業物価指数」は、日本銀行が毎月調査・発表しているもので、企業間で取引される物品の価格水準を把握するのに用いられます。例えば、部品メーカーが完成品メーカーに販売した部品の値段などが捕捉されています。

別の見方をすると、企業物価指数は最終消費者が手にする製品を製造する際にかかる、さまざまなコストの値動きが反映されるとも言えるでしょう。したがって、企業物価指数と消費者物価指数は、基本的には連動します。

過去の物価の動きで分かる「企業努力」の限界

では、実際に過去、両者の動きがどうだったのかを比較してみましょう。

総務省統計局・日本銀行のデータを元に筆者作成

消費者物価指数は「生鮮食品を除く総合」、企業物価指数は「国内企業物価指数」の前年同月比です。

両者の推移を見ると、常に企業物価指数の方が、消費者物価指数の数字をはるかに高く上回っているのが分かります。2022年1月だと、企業物価指数が9.1%も上昇したのに、消費者物価指数はわずか0.2%の上昇に止まっています。

これは、企業段階で物価上昇を吸収して、最終消費者の手に渡る段階ではできるだけ値上げをしないように、企業努力を重ねていたからです。

しかし、企業努力にも限界があります。2022年4月以降、消費者物価指数の前年同月比が徐々に上昇し、同年12月に4.0%台に乗せたのは、最終消費者への価格転嫁が始まったからに他なりません。

今年に入ってからも企業物価指数の上昇に歯止めがかからなかったら、恐らく消費者物価指数は、少なくとも4%超の上昇が続いていたかもしれません。

値上げは一体いつまで続くのか?

では、これから先はどうなるのでしょうか。

幸いなことに、企業物価指数の上昇には歯止めがかかりました。昨年12月時点では10.6%の上昇でしたが、2023年7月のそれは3.6%の上昇に抑えられています。

そこから考えると、消費者物価指数の上昇もようやく一段落して、これから先は徐々に低下へと向かうのではないか、と期待したいところですが、私たちの生活に必要なモノの値段が下がるのは、まだしばらく先でしょう。

企業物価指数も、確かに以前のような2ケタの上昇率ではないものの、まだ上昇が続いていることに変わりはありません。

なかなかモノの値段が下がらない理由

第一生命経済研究所の定例経済指標レポートでも、企業物価指数を取り上げていますが、国内企業物価指数については「当面は高止まりに注意が必要」とされています。

高止まりの理由は、電気代に対する補助金が9月に半減された後、終了する予定であること、国のガソリンに対する補助金が9月末まで段階的に縮小されること、過去の資源高や円安などのコスト上昇分の価格転嫁が根強く続いていること、などを挙げています。

特に、資源高や円安によるコスト上昇分の価格転嫁については、現時点で、原油価格が上昇し、かつ円安も再び進み始めていることからすると、今後も当分は、企業間の取引における価格転嫁が続くと考えられます。

そうである以上、企業が最終消費者に販売する製品価格への価格転嫁も、そう簡単には終わらないかもしれません。

確かに企業物価指数の前年同月比は、徐々に上昇ペースを弱めつつあるものの、それによって消費者物価指数の上昇率が3%を割り込み、日本銀行が目標値にしている2%に落ち着くには、まだ時間がかかりそうです。

私たちは30年以上にわたって、物価の上昇が続くという経験をしていません。だからこそ、これからはさまざまな生活行動を、継続的な物価上昇局面にアジャストしていく必要があるのです。

鈴木 雅光/金融ジャーナリスト

有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。

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