9月は調味料・お菓子など約2000品目が値上げ。物価上昇が家計に与える影響は…
Finasee / 2023年8月28日 17時0分
Finasee(フィナシー)
最近、どこへ行っても、何を買っても、全体的に物価がどんどん上がっている印象を受けます。印象だけではアテにならないこともあるので、本稿では具体的な数字を見てみましょう。主には、この1カ月くらいの間、ニュースで報じられたものや、リサーチ会社が公表したレポートに記されているデータを活用して、実際にモノの値段が上がっているのかどうかを考えてみます。
消費者物価指数で見る「物価上昇」の流れまず、全体的な物価動向を見るうえで参考になる、「消費者物価指数」(令和5年8月18日)の最新データを見てみましょう。今、公表されている最新データは、2023年7月時点のものです。
対前年同月比で見ると、「総合」が3.3%、「生鮮食品を除く総合(コアCPI)」が3.1%、そして「生鮮食品およびエネルギーを除く総合(コアコアCPI)」が4.3%となりました。
ここでは、コアコアCPIの数字に注目します。
これは消費者物価を見る際の基本ですが、生鮮食品の価格は、天候など気象条件によって大きく左右される傾向があり、エネルギー価格は、国際情勢・政治の動向に影響を受けやすいため、これらの影響を除外した消費者物価指数の方が、国内の経済情勢をよりクリアに反映すると考えられるからです。
生鮮食品やエネルギーも含めた総合は、2023年1月時点の対前年比が4.3%でピークを付けた後、上昇率は徐々に低下し、7月時点で3.3%です。対してコアコアCPIの前年同月比を見ると、2023年1月が3.2%だったのが、7月時点で4.3%まで上昇してきました。
このように、コアコアCPIの前年同月比上昇率が徐々に切り上がっているのは、さまざまなところで価格転嫁が進んでいるからと考えられます。
食品は9月に2000品目が値上げ予定では、次はもう少し身近なところの物価に、目を向けてみましょう。
帝国データバンクが食品メーカー主要195社の価格改定動向を調査したところ、2023年8月に値上げされた品目数は1102品目となりました。同月に値上げされた食品は、乳製品や調味料、シリアル製品など多岐にわたった模様です。
さらに9月は、調味料やお菓子を中心にして約2000品目の値上げが予定されているそうです。
2023年通年における値上げ品目数は、累計で3万710品目と見られていて、これは2022年通年で値上げされた2万5768品目を大きく上回っています。
ちなみに消費者物価指数には、品目別の物価動向も調査されており、そのうち「生鮮食品を除く食料」の前年同月比を見ると、2021年6月が▲0.1%で、2022年1月が1.3%と低めに推移していたのが、2022年中、2023年を通じて上昇し続け、2023年7月のそれは9.2%となりました。
それだけ幅広い食品において価格転嫁が進んできた証拠です。スーパーの店頭で、思わずため息が出てしまいそうな数字ですね。
賃金が上がれば物価も上がる“堂々巡り”もちろん、物価がどんどん上昇しても、一方で賃金も増えるような環境であれば、何も問題はありません。物価が1年で4%上昇したとしても、それと同等か、少し上回るくらい賃金が上昇すれば、賃金上昇によって物価上昇を吸収できます。
このところ「最低賃金」という言葉を、さまざまなところで目にします。これは最低賃金法に基づいて国が定めた賃金の最低額のことで、賃金を支払う側は、定められた最低賃金額以上の賃金を支払わなければなりません。
今年10月から適用される、最低賃金の平均引き上げ幅は43円で、これにより全国平均の時給は1004円になりました。
ただ本来、賃金の上昇は業績の上昇があっての話です。東京商工リサーチが8月18日に公表したアンケート調査の結果によると、「最低賃金上昇の影響はない」と回答した企業は27.7%に過ぎず、61.0%は「何らかの対策を取る」、11.2%は「できる対策はない」と回答しました。
では、どういう対策を取るのかと言うと、「商品やサービスの価格に転嫁する」が最も多い36.3%で、「設備投資を実施して生産性を向上させる」が23.4%、「雇用人数を抑制する」が12.4%でした。
しかし、インフレによる生活水準の悪化を防ぐために賃金の上昇が必要だとしても、賃金上昇の原資を商品やサービス価格に転嫁すれば、さらに物価が上昇してしまい、堂々巡りになってしまいます。
設備投資による生産性の向上は、これから人口減少社会に入っていく日本としては、望ましい方向性であるとは言えますが、雇用人数を抑制して最低賃金をクリアするような企業が増えたら、今度は雇用情勢が悪化します。物価が上昇するなかで職を失えば、生活水準は最悪の状態に陥ります。
また、東京商工リサーチが8月に実施した「賃上げに関するアンケート」によると、企業の賃上げ実施率は84.8%を記録したものの、厚生労働省が発表した2023年6月の実質賃金は、前年同月比▲1.6%でした。
実質賃金とは、賃金の額面金額から物価上昇分を差し引いた、正味の賃金のことですが、それがマイナスということは、賃上げが行われたにもかかわらず、物価上昇分を吸収し切れていないことを意味します。
倒産する企業が増えているワケさらに問題なのは、企業倒産がかなりのピッチで増加していることです。
これも東京商工リサーチの「全国企業倒産状況」の調査によるものですが、2023年7月度の全国企業倒産(負債額1000万円以上)の件数は758件で、前年同月比53.44%増と大幅に膨らみました。
コロナ禍による行動規制が行われていた時は、各種補助金・助成金で一時的に資金繰りが改善され、倒産を免れていた中小企業も少なくありませんでした。
しかし、経済活動が正常化していくなかで政府の資金繰り支援が終了し、実質無利子・無担保で実行された「ゼロゼロ融資」の返済が本格化してきました。
その上、物価の高騰に人件費の上昇が加わり、特に中小企業の資金繰りが急速に悪化しているのです。業績が大幅に改善すれば、何とか乗り切れるのかもしれませんが、コロナ禍明けの景気回復ペースは鈍く、それを反映して業績の伸びも望み薄です。
大企業のように、多額の内部留保を持っていない中小企業を取り巻く環境は、決して楽観視できません。ちなみに中小企業庁の調査によると、日本で雇用されている従業員全体のうち約7割は、中小企業で働いています。
つまり、この先も物価上昇が続けば、全体の7割を占めるとされる中小企業で働いている人たちの家計が、一段と苦しくなる恐れがあるのです。
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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