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「放置していた」高齢の両親に一切支援せず…長男が抱いていた憎しみ

Finasee / 2023年9月8日 11時0分

「放置していた」高齢の両親に一切支援せず…長男が抱いていた憎しみ

Finasee(フィナシー)

小栗知世さん(50代・既婚)の母親と祖母は、幼い頃から兄ばかりをひいきした。小栗さんは肉親に疎まれながら暮らす日々に息苦しさを覚え、結婚を機に家を出た。

しかし、家庭環境に辟易していたのは栗木さんだけではなかった。情緒不安定で、宗教に依存する母親が負担になったのか、自暴自棄になった父親もまたアルコールに依存した。そして、父親の飲酒運転をするたびに警察に呼び出される兄も、限界に達していた。

兄が無断で車を廃車にしてから2カ月後、父親は入浴中に亡くなった。

●前編:【依存症でトラブル頻発の70代両親…辟易した長男の“冷たすぎる”対応】

感じられた両親への憎しみの深さ

兄から父親の訃報を受けた時、小栗さんはその声の冷たさに驚きを隠せなかった。

「私の故郷は、車が無ければ生きられないほどの田舎町です。情緒不安定な母の気分転換や通院、買物に車が無ければ、ほとんど何もできません。遠方に住んでいる私は、兄に両親を託していました。兄に料理や洗濯などの家事は期待していませんでしたが、少なくとも親の買物や送迎くらいやってくれると思っていたのです。しかし、兄は驚くほど何もしていませんでした」

兄は電話で、両親があまり食事を摂っていないことを知っていながら、「放置していた」と言ってのけた。

「兄からは、後悔や罪悪感が全く感じられませんでした。ですが、兄の立場に立ってみれば、当然かもしれません。父は私のことは可愛がってくれましたが、兄には暴力を振っていました。母は兄を溺愛するあまり、女性との交際をことごとく妨害しました。その上、負債を抱える両親を、私たち兄妹は常に強制的に援助させられていたのです。憎しみに近い感情があっても全くおかしくないと思います。それでも、私はこれまでにないほどの冷たさを兄に感じました」

小栗さんに残る後悔の念

同時に小栗さんは、ここ数年ほど両親のサポートができなかった自分を責めた。実は父親が亡くなる数年ほど前、小栗さんは夫に、実家への帰省を禁止されていたのだ。

結婚後、夫は小栗さんの両親について知れば知るほど、不信感を募らせていた。約3年前、小栗さんの実家に高校生の子供と3人で滞在した際、泥酔して倒れた父親を、平気で放置する母親を目の当たりにした。そのうえ夫は、実家に届いた借金の督促状まで見つけてしまった。

あまりの惨状に絶句した夫は、ついに小栗さんに両親と距離を置くよう命じた。父親の死は、運悪くその間に起きた出来事だった。

通夜と葬儀のため小栗さんが帰省すると、母親はかつての“お嬢様”とは程遠い姿をしていた。何日も入浴していないようで、髪は固まり、ボタンが取れたカーディガンの前を安全ピンで留めていた。話しかけても目の焦点が合わなかった。小栗さんは母親を入浴させ、食事を与えた。少し元気になった母親は繰り返しこう言った。

「私がすぐに助けを呼んでやったんだ! 私がお父ちゃんの面倒を全部見てやっていたんだ! お父ちゃんは風呂に入らんでも良かったんだ!」

小栗さんは、やるせない気持ちになった。

「兄は父の車を廃車にした後、両親のために1円もお金を出していませんでした。パンの1つも、飲み物1本さえも……。一方、母は一生懸命、自分に非が無いことを訴えていました。私は母の言葉を聞いて、『これは母の本当の姿ではない。きっと認知症なんだ』と思わずにはいられませんでした」

その後、「認知症になるなんて一族の恥」と思っている80歳の母親は、人前ではしゃんとしてしまうため、なかなか認知症の診断がつかなかった。83歳になった頃、ようやく診断がついて要介護1と認定されると、調子を崩すことが増えた。85歳になる年には要介護3になり、特別養護老人ホームに入所した。

発覚した兄の借金

それから約1年後、兄から電話がかかってきた。内容は以下の通りだ。

・父親の生前、両親の借金を肩代わりするためにお金を借りていた
・その借金を、交際中の女性と入籍する前に完済したい
・その借金を、半分持ってくれないか

聞くと、借金は100万円ほど。半分の50万円も、今は手元にないと言う。

「長年公務員の仕事をしている兄が、50万円も出せないということに疑問を感じました。私は結婚後、ずっと専業主婦です。節約してコツコツ貯金したお金で時々帰省して、両親のために度々経済的な援助もしてきました」

それでも小栗さんは、入籍する兄へのお祝いのつもりで、50万円を渡すことにした。

借金は100万円どころではなかった

ところが兄へ50万円を渡した翌日、また電話があり、小栗さんから交際中の女性に、「俺が借金完済したと説明してくれ」と頼まれる。

「どういうことか」と聞き出すと、借金は本当は400万円あると言う。父親の生前、両親の借金を肩代わりするためにお金を借りたのは本当だが、その時の金額は50万円ほど。残りの350万円は自分の都合で借りていた。それを妻になる女性に知られたくない……というのが真実だった。

「兄は、タバコもお酒もギャンブルもやり、高級車をローンで購入するなど、貯蓄のできない浪費家でした。兄は親の失態に便乗して、自分の悪事を誤魔化していたのです。兄はよく私に、『俺は親とは違う! 嘘が一番嫌いだ!』と言っていたし、両親のことも無茶苦茶に責めていましたが、金銭搾取のやり方が両親にそっくりで、悲しくなりました」

それでも兄と関係を悪化させたくない理由

小栗さんは結婚後、帰省にかかった交通費や、両親に援助した金額をあわせると、1000万円は超えると言う。一方、兄は大学進学後、実家にはほとんど帰ってこなくなっていた。

「正直、私は兄のことをずるいと思いました。でも、私はそれを言うのを我慢しました。故郷に住む兄が主介護者から手を引いてしまえば、母の施設の手続きの更新も、実家の庭木や雑草のことも、役場やご近所からの苦情対応も税金対策も、すべてが滞ってしまうからです。私は、私自身の生活や家族を守るために、兄に“搾取されてあげた”のです」

実家は母親が特養に移ると同時に空き家になった。家屋は母屋と離れがあり、土地は広大な田畑の他に、墓所となっている山がある。小栗さんは、「将来的には、墓所以外はすべて更地にして現金化し、『兄妹で均等に分けよう』と、兄から提案されました」と話す。

“名家の分家”というプライドを持ち、一人娘をお嬢様として育てた祖母。そして長男を溺愛するあまり、交際を妨害し続けた母親。しかし、その長男は、生活のままならない両親を放置し、挙句の果てに借金を抱え、妹に金を無心している……。

小栗さんの祖母や母親は一体、何を目指していたのだろうか。

旦木 瑞穂/ライター・グラフィックデザイナー

愛知県出身。グラフィックデザイナー、アートディレクターを務め、2015年に独立。グラフィックデザイン、イラスト制作のほか、家庭問題に関する記事執筆を行う。主な執筆媒体は、プレジデントオンライン『誰も知らない、シングル介護・ダブルケアの世界』『家庭のタブー』、現代ビジネスオンライン『子どもは親の所有物じゃない』、東洋経済オンライン『子育てと介護 ダブルケアの現実』、毎日新聞出版『サンデー毎日「完璧な終活」』、日経BP 日経ARIA「今から始める『親』のこと」など。

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