お得に見える金融商品も実は…売り文句の“トリック”を見破るシンプルな考え方
Finasee / 2023年9月4日 11時0分
Finasee(フィナシー)
福島第一原子力発電所の処理水の海洋放出が始まりました。私は専門家ではないので、この方法が正しいかどうかを判断する立場にはありません。ただ、恐らくこれは資産運用などにも役立つのではないか、という1つの視点が得られたので、それを紹介しつつ、いろいろと考えてみたいと思います。
日本の損失を強調する報道が多数処理水海洋放出が始まったのと同時に、中国政府と香港政府が、日本産水産品の輸入全面禁止措置を打ち出してきました。そのことを盛んに取り上げたニュースもあったので、中には「日本にとって大変なダメージだ」などと思った方もいるのではないでしょうか。
実際、この件について取り上げたレポートが複数機関から出されていますが、いずれも「大変なことが起きてしまった」という印象を植え付けるような見出しと内容でした。
例えば、企業の倒産情報などを扱っている帝国データバンクは、8月25日に「緊急調査」として「中国の日本産水産品『禁輸』 食品輸出700社に影響」という見出しのレポートを発表しています。
「実際に、中国へ直接・間接的に輸出を行う食品関連企業は、対中輸出全9270社のうち700社超におよび、1社あたりの取引における中国向けの割合も50%を超える企業が多いなど、『最大の得意(販売)先』として中国市場の存在感は大きい」と書かれています。
確かに「700社超におよび」、「50%を超える」などといった数字を見ると、「これは大変なことが起きている。日本経済、日本の水産事業者は大丈夫なのか?」などと思ってしまいがちなのですが、よく数字を見て考えてみましょう。
実は国内でも十分カバーできる金額日本から中国本土と香港への水産物輸出額は、2022年の1年間で1626億円(中国本土向けが871億円、香港向けが755億円)でした。何しろ1626億円ですから、1000万円にも満たない年収で日々の生活を送っている私たちからすれば、大変な損失であるように思えるかもしれません。
しかし、1626億円を日本の総人口に照らして考えてみたらどうでしょうか。
日本の総人口は、総務省の「人口推計 2023年7月報」(令和5年7月20日)によると、2023年2月1日時点(確定値)で、約1億2463万1000人います。
このうち、魚を比較的積極的に食べると思われる15歳以上の人口は、約1億1023万6000人です。1626億円を、約1億1023万6000人で割ると、1人あたりの金額は約1475円になります。
つまり、私たち日本人が1年間で1475円、現在よりも余計に水産品を食べれば、中国マーケットがなくなったとしても、十分、国内でカバーできることになります。この数字を見ると、ニュースでそこまで騒ぐほどのことなのか、と疑問に思ってしまいます。
もちろん、中には打撃を受ける漁業関係者もいるでしょう。大半を中国シフトに切り替えた漁業関係者がいたとすれば、その人は大きなダメージを被り、倒産に追い込まれるかもしれませんが、大きな視座から1626億円を見る限りでは、ほぼ取るに足らない問題と言っても良いでしょう。
ちなみに、日本政府が新型コロナウイルスの感染拡大時に補正予算を通じて行った財政出動の金額は77兆円ですから、1626億円はそのわずか0.21%に過ぎません。その程度の話を大げさに取り上げているだけのことなのです。
サブスクに用いられる“割安に見える”トリック前述したような話を数字のトリックと言います。数字はうそをつきませんが、うまく利用することによって人の目をだますことができます。このような数字のトリックにだまされないようにするためには、何か1つ基準を見つけて、それと比較したり、掛け算や割り算を用いて、より現実的な数字に修正したりすると良いでしょう。
例えば前出の1626億円については、日本の人口で割ることによって、水産品の1人あたり年間購入額に修正しました。同じように、サブスクリプション型のサービスを利用する時は、掛け算で金額を計算すると良いでしょう。
先日、アマゾンプライムが年会費を4900円から5900円に値上げすると報じられ増したが、一般的にこの手のサブスクリプション型のサービスは、月額を提示しておトクな印象を植え付けようとします。
「月額会費は600円。たったの600円で、映画が見放題、音楽も聴き放題」ということになるのですが、月額600円ということは年額にすると7200円。10年で7万2000円です。
ちなみに映画にしても音楽にしても、常に自分が観たい、聴きたいコンテンツが必ずそろっているとは限りません。それに対して10年間で7万2000円を払う価値があるのかどうか、という点を考えないと、サブスクリプション型サービスは案外、おトクではないということになってしまう恐れがあります。
複数のサブスクリプション型サービスを利用している人は、特にこの点を慎重に考える必要があるでしょう。
金融商品のお得そうな売り文句にだまされないためにさて、こうした数字のトリックは、資産運用の世界でも実在します。例えば詐欺的商品が典型的で、「月利2%確定・元本確保型」などといった表記をするものがあります。
月利2%と言うと、何となく達成できるような気がするのですが、これを年利にすると24%です。元本確保で年24%を達成できる金融商品など、今の時代に存在するはずがありません。
また、銀行の定期預金のキャンペーン金利なども、表記されている条件をしっかり確認する必要があります。例えば「3カ月物定期預金のキャンペーン金利年6%」などと表記されているケースが、まさにその典型と言っても良いでしょう。
このように表記されていると、何となく「1年で6%か。ということは100万円を預けると1年で6万円も利息がもらえるのだな」と思うでしょうが、これは錯覚です。なぜなら、冒頭に「3カ月物」と表記されているからです。
確かに年6%のキャンペーン金利が1年間適用され続けるのであれば、1年で6万円の利息が得られますが、この手のキャンペーン金利は最初の満期が到来した時点で自動継続すると、その後からは通常金利に戻されてしまいます。つまり年6%の利率が適用されるのは、わずか3カ月間だけなのです。
ということは、1年で6万円ですから、3カ月はその4分の1なので、1万5000円になります。しかも昨今のような超低金利局面では、そこから自動継続で1年間運用したとしても、適用される通常金利は年0.002%程度なので、ほとんど利息は付きません。
数字は人をだますことがあるという考えを常に持つようにすると、数字のトリックにだまされるリスクを減らすことができます。
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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