年収1200万円の会社員は年金、いくらもらえる? 年収600万円の人の“倍”ではない理由は?
Finasee / 2023年10月6日 19時0分
Finasee(フィナシー)
誰にとっても老後生活の重要な基盤となる年金。多くの会社員は毎月、給与から天引きされ、保険料を納めているにもかかわらず、その結果として自分がいくら年金を受け取れそうか把握できている人は少ないようです。
確かに、個々人の年金額を求めるには、少々複雑と言わざるを得ないのが現在の年金制度です。まずは“ざっくり”と把握するところから始めてみませんか?
そこで、「平均年収※1200万円だったら」と仮定した計算結果を解説します。
※本来は、年ごとによって得られる収入(給与)は異なる場合がほどんどですが、ここでは計算を分かりやすくするために、現役時の年収の平均が1200万円として計算をします。
65歳から受けられる年金65歳から受け取れる老齢年金は老齢基礎年金(1階)と老齢厚生年金(2階)の2階建て。
老齢基礎年金は全国民共通で、20歳から60歳まで40年の保険料納付がある場合は満額で受給できます。
一方、会社員で厚生年金に加入していれば受けられる老齢厚生年金は報酬比例部分として、在職中の給与や賞与の額、そして加入期間によって計算されます。在職中の給与・賞与が高いと負担する厚生年金保険料はその分高くなりますが、将来受給できる年金額も高くなる計算です。
また、老齢厚生年金には他に経過的加算額がありますが、今回は老齢厚生年金への上乗せと覚えていただければ十分です。
この前提を押さえたうえで、実際に計算してみましょう。
年金額の計算以下の条件で計算します。
・1983年4月生まれで2023年4月に40歳
・大学生在学中は国民年金に加入し、20歳から3年間保険料を納付
・2006年4月に就職し、以来42年間(504月)、65歳まで、会社員として厚生年金に加入
・2023年時点のルールを適用
では、いくら受け取れるでしょうか。まずは、報酬比例の部分(2階)から計算していきます。
報酬比例部分(2階部分)2006年4月から厚生年金に加入しているため、1月あたりの厚生年金加入中の給与(標準報酬月額)や賞与(標準賞与額)の平均(平均標準報酬額)から算出します。
平均年収で1200万円ですので、月額の平均では100万円となります。標準報酬月額については上限があり、2020年8月以前は62万円、2020年9月以降は65万円です。一方、標準賞与額についても、賞与1回につき150万円が上限となります。
年収1200万円もあると、標準報酬月額、標準賞与額の上限に達してしまうことにもなるでしょう。どの時期にいくら給与や賞与を受け取り、その内訳がいくらであったかによって金額も変わることにはなりますが、この標準報酬月額と標準賞与額のそれぞれの上限額、つまり標準報酬月額は62万円あるいは65万円、標準賞与額は夏冬の賞与150万円ずつの年間300万円とした場合で算出してみます。
ただし、平均標準報酬額は加入年度ごとの再評価率によって、それより少ない報酬として再評価されます。その再評価後の平均標準報酬額に一定の乗率や厚生年金加入月数をかけるなど、所定の計算をすると、報酬比例部分の額は235万円程度/年と算出されます。
この報酬比例部分に老齢基礎年金と経過的加算額が加わります。
基礎年金(1階部分)保険料納付済期間が20歳から60歳までの40年ある(厚生年金に加入していた期間は基礎年金の計算に含まれます)ことから老齢基礎年金が満額(2023年度の67歳以下の額で79万5000円/年)となります。
経過的加算20歳以上60歳未満の厚生年金加入期間は23歳から60歳までの37年(444月)のため、その後、63歳まで合計40年になるまで厚生年金に加入することで経過的加算額も増えます。6万円弱/年支給されます。
結果、老齢基礎年金と経過的加算額は合計85万円程度/年になります。
235万円と85万円の合計で約320万円の年金額になると言えます。つまり、月27万円弱の公的年金収入となります。
年収1200万円の人の年金は年収600万円の人の倍にはならない!?平均で1200万円の年収という人はごく少数の超富裕層で、現実には非常に少ないと言えます。ただし、年収の内訳によっては年金額も変わります。もし、同じ年収1200万円でも年俸制で賞与が全くない場合は、賞与から保険料が発生しない代わりに、標準報酬月額(月給)が62万円(年間744万円。※2020年8月まで)あるいは65万円(年間780万円。※2020年9月以降)のみで年金が計算されることになりますので、年金額は年収約750万円の人と同じく約254万円程度となります。
ところで、平均年収が1200万円の人は平均年収600万円の人の倍の年金額を受給できると思われている方もいらっしゃったかもしれませんが、今回平均年収600万円、700万円、800万円、900万円、1000万円、1200万円と計算してきて、けっして倍増にはなっていないことにお気づきでしょうか? これは年金の「所得再分配機能」と言われるものです。
これは所得格差を是正する機能であり、現役時代の収入が、そのままは年金受給に反映されないような仕組みとなっています。今回計算してきた中ですと、平均の年収が600万円の人と、1200万円の人では収入に倍の差がありますが、基礎年金が「定額」であったり、さらに報酬比例の計算のベースとなる、標準報酬月額・標準賞与額に「上限」が設けられたりすることで、年収600万円の人の受給額は1200万円の人の半分にはならず、むしろ半分よりも多くなるのです。
「ご自身の年金がいくらもらえるか?」、「 理想とする老後のために年金は足りるか否か?」が個人の老後資金準備のうえでは重要ですが、年金には「分配の装置」もあると知っていただけたら幸いです。
井内 義典/ファイナンシャルプランナー
よこはまライフプランニング代表取締役、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®認定者、特定社会保険労務士、日本年金学会会員。専門分野は公的年金で、3000件を超える年金相談業務を経験。さらに、年金事務担当者・FP向けの教育研修、ウェブメディアや専門誌への記事執筆も行っている。横浜市を中心に首都圏で活動中。
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