「一家で地方移住」を決めた40代男性、苦痛になった田舎ならではの”生きづらさ”
Finasee / 2023年9月14日 11時0分
Finasee(フィナシー)
南裕二さん(仮名)は都内の広告代理店に勤務していましたが、コロナの感染拡大によって会社の経営が行き詰まり、一念発起して一家で山梨県への移住を決めました。
当初は恵まれた自然環境や住環境に加え、人情あふれる地元の人々に囲まれ、充実した毎日を過ごしていました。しかし、徐々に田舎暮らしの生きづらさを感じるようになります。
移住から2年がたち、成績優秀な長男が都内の私立高校を受験したいと言い出したことから、真剣に都内へのUターンを考え始めます。そんな時に南さん一家の背中を押してくれたのが、あるお金の専門家でした。
南さんは「Uターンの鍵を握る私の仕事探しや家探し、長男の受験体制について、大変有用なアドバイスをいただきました。おかげで私たち一家は早々と東京に戻ることができたんです」と振り返ります。
移住からUターンを考えるようになった経緯や、経済的な余裕もない中でいかにしてUターンを実現したかを、南さんが話してくれました。
〈南裕二さんプロフィール〉
東京都在住
45歳
男性
広告代理店勤務
妻と息子2人の4人暮らし
金融資産500万円
一家で都内から山梨県に移住を決めたのはコロナ禍の2020年でした。
当時私は各種イベントを手掛ける広告代理店に勤務していましたが、新型コロナウイルスの感染拡大でイベントの中止や撤回が相次ぎ、稼働案件はゼロに。それどころか予定していたイベントの後始末に追われ、疲弊しきっていました。旅行代理店でパートをしていた妻も仕事がなく自宅待機を強いられ、ほぼ無収入となりました。
とはいえ、当時小学生の2人の子供を抱え、月々の生活費に加えて教育費もそれなりにかかります。そこで先行き不透明な仕事に見切りをつけ、新天地に活路を求めることにしたのです。
魅力は「支援金」と「家賃の安さ」山梨県には移住支援金制度があり、都内から移住した世帯には諸条件を満たせば100万円が支給されるところが魅力でした。
また、自治体の世話で4LDK・2階建ての空き家を月額2万円で借りられました。都内の賃貸マンションの家賃は15万円を超えていましたから、住居費だけでもかなりの負担減です。
ちょっと車を走らせれば地元の道の駅で、新鮮な肉や野菜、卵、乳製品などを格安の値段で購入することもできます。
新しい勤務先となる地元企業の給料は前の会社に比べると3割ほど減ってしまいますが、妻も道の駅のパートという職を得たこともあり、「この環境なら十分やっていける」と思っていました。今となっては全くの思い違いだったのですが……。
田舎暮らしを楽しめたのはわずか半年間最初は全てが順調でした。高齢化が進むこのエリアでは40代の私たちでも「若い移住者」として歓迎されます。
地域のイベントに声をかけてくれたり、収穫したフルーツや手製のおかずを持ってきてくれたりと何かと親切にしてもらいました。子供たちも転校先の学校にすぐに慣れ、親しい友達ができたようでした。
私はほぼ毎日定時帰宅、子供たちも塾やスイミングスクールなどの習い事がなくなったせいか、家族で過ごす時間がぐんと増えました。
しかし、移住生活を心から楽しめたのは、最初の半年間くらいでした。私も妻も首都圏の出身で田舎生活の経験がなかったため、地方独特の密な人間関係を次第に苦痛に感じるようになったのです。
密すぎる人間関係、一向に改善しない家計周囲が高齢者ばかりという事情もあり、地元の祭りや運動会など、男手が必要な時には必ず私に声がかかります。そうした場合は何を差し置いても駆けつけなければなりません。
菓子作りが得意な妻の作るケーキやプリンはお年寄りや子供たちから大好評だったのですが、それが裏目に出て、妻は老人会や子供会の行事に頻繁に駆り出されるようになりました。
ご近所付き合いもなかなか大変です。妻がパートから帰宅すると、家の中にお隣のおばあさんが座っていたなんてことはしょっちゅう。お裾分けのおかずも私たちが留守の際は「傷むから」と勝手に冷蔵庫に入れておいてくれます。
下の息子はゲーム好きで最新のゲームソフトを買い与えていたせいか、子供部屋がいつの間にか近所の子供たちのたまり場になってしまい、上の息子から「勉強に集中できない」と文句を言われました。
意外に負担が大きかったのが冬場の雪かきです。そもそも、山梨にこれほど雪が降るとは知りませんでした。30~50cm近い降雪があれば、わが家だけでなく、周囲のお年寄りたちの家の前の道まで雪かきをする必要が生じます。まだ辺りが真っ暗な朝6時頃から始めても、毎回8時近くまでかかりました。
また、家計も正直それほど改善されたわけではありませんでした。
私の3割の減収はやはり痛手ですし、この地域で暮らしていくにはどうしても車が2台必要となり、その維持費がバカになりません。特に最近はガソリン代の値上がりが大きな負担になっています。
きっかけは子の進学と仕事への意識の変化「都内へのUターン」という考えが生まれた決定的なきっかけは、中学2年生になった上の息子の進学と、私自身の仕事へのモチベーションの問題です。
上の息子はわが子ながら成績優秀で、データサイエンティスト志望です。地元の公立高校は大半が就職組で、中学の進路指導の先生からは、上の子が目指す都内の大学への進学は相当自助努力が必要と言われました。それもあって都内の私立高校に通いたいと言い出したのです。
また、私の仕事へのモチベーションも移住した当初から変化しました。
前の会社は小さな広告代理店だったので、営業職ですがプランナーも兼ねていました。ですから今の企画の仕事でも、「こうした方がもっと魅力的なサービスになる」「こんな告知をするとクライアントに刺さる」といった提案を心掛けてきました。
最初のうちは上司も面白がって「南君はなかなかのアイデアマンだ」と褒めてくれたのですが、コロナ禍で予算が厳しいこともあり、私のちょっとした提案はなかなか通らなくなりました。そうなると、ルーティンワークをこなしながらこのまま年を取っていくのがむなしく感じられるようになったのです。
もやもやした現状を学生時代からの親友にメールで愚痴ったら、「本気で東京に戻ってくるつもりなら、仕事のことなんかも含めて一度、専門家に相談した方がいいんじゃないか」と言ってファイナンシャルプランナー(FP)を紹介されました。それが香川さんでした。
●南さんの背中を押した、FPの有用なアドバイスとは? 詳細は、後編【地方移住から2年でUターン…一家が“勇気ある撤退”を決断できた理由】で解説します。
※個人が特定されないよう事例を一部変更、再構成しています。
Finasee編集部
金融事情・現場に精通するスタッフ陣が、目に見えない「金融」を見える化し、わかりやすく伝える記事を発信します。
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