「資産運用ってお金持ちのもの」という考えはNG! むしろ“普通の人”にこそ必須なワケ
Finasee / 2023年10月3日 11時0分
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Finasee(フィナシー)
デフレが終焉しインフレに突入――世界各国の経済が転換を迎えている今、“銀行預金だけ”を持つ危険性が語られています。ただ、適切にリスクを分散させた資産運用をすれば、インフレ下にあっても自分・家族の生活や資産を守ることはできると日銀出身の政策アナリスト・池田健三郎氏は説きます。
話題の書籍『「新しい資本主義」の教科書』では、日本や世界を取り巻く状況から、投資をはじめとする資産運用の意味について分かりやすく解説しています。今回は本書の『はじめに』、第1章『「5年後の世界経済」を予測したうえで投資を!』の一部を特別に公開します。(全4回)
●第3回:タンス預金は非常識に…デフレ→インフレの転換が資産運用にもたらす“大きすぎる影響”
※本稿は、池田健三郎著『「新しい資本主義」の教科書』(日東書院本社)の一部を再編集したものです。
危険がすぐ目の前に迫っているのに動かないのはなぜ?「我々は常に動くものの上に乗っている」―つまり自身は静止した状態を保っているつもりでも、実は自身が乗っている地盤自体は常にぐらぐらと動き続けているというわけです。この感覚は、地震大国・日本に住んでいる人々には理解しやすいかもしれません。
しかし、かなりの人は「今すぐに何か行動を起こさずとも大丈夫だろう」と、あまり本格的な対策をせずに生活しているでしょう。
これは資産運用においても同じです。私たちは先行き、大激震に遭遇する可能性があり、いつどの方向に動くのかもわからないグローバル経済の上で生活しているにもかかわらず、大事なお金をタンス預金や利息0.001%の銀行普通預金に放置していないでしょうか。
大激震がいつか来るかもしれないと予見されているのに、これまでと同じことを続けているのは、危機管理の観点からは、「何もしないという選択を『積極的に』していること」になります。ある日、危機が現実のものとなってから慌てても、まさに後の祭り、完全に自己責任です。
今、グローバル社会はインフレの潮流に入りました。それにもかかわらず、多くの日本人は「物価が高くなった」と嘆くだけで、これまで通り「何もしない」という選択をしているようです。
例えば、自分が住んでいるマンションで火災が起き、下の階から火の手が上がってくれば、さすがに「逃げない」という選択肢はないでしょう。しかし、単なる経年劣化だけでは、長年住み続けて慣れ親しんだ物件から退去する決断はしにくいものです。
とはいえ、そのマンションが耐火・耐震性に優れ、絶対安心という保証があるならまだしも、安全性能も心許なく、最近では空室が目立ち始め、管理状況が悪化し、共益費や修繕積立金は年々引き上げられ、これらを滞納する入居者も散見される、といった状況に直面したら、さすがにそこに積極的に居続ける理由はないはずです。
今私たちは、実際に火事こそ起こってはいないものの、老朽化したマンションに住んでいるようなものです。ただ手をこまねいているだけでは、さまざまなリスクが顕在化しかねない状況下にいるのです。
「家計の防衛戦略」ともいえる資産運用こうした話をすると、「言いたいことは分かるが、資産防衛などお金持ちだけの話で自分には無関係」と言う人が必ず現れます。
しかし、そもそも資産運用は、特定の人が一夜にして巨額の富を手に入れる(あるいは失う)ギャンブルのようなものではなく、誰もが身の丈に応じてリスク(危険)とリターン(危険の代償として得られる利益)のバランス調整を図りつつ、コツコツ続けざるを得ないもので、すでにほとんどの人が(意識しているか否かにかかわらず)大なり小なり行っている活動なのです。
つまりは過去からの惰性や無計画、ドンブリ勘定などを見直し「家計のやり繰りの精緻化」を行うことを指し、資産の多寡とは関係ありません。
例えば、最近の諸物価の高騰に際しては、「来月から食用油が値上げされるので、少し余計に購入して備蓄しておこう」、「スマホの契約を見直して、安いプランに変更しよう」とか「電気料金が3割もアップしたので、当初は高額な費用が必要だが蛍光灯をLEDに交換し、さらに節電に努めよう」などと考えるのは、ごく自然な家計の防衛戦略で資産の増減に一定の影響力を持つ行動と捉えることができます。
なお、消費税率が上がったり、年金の掛け金増額、支給開始延長、金額カットなどが行われたりすると、より大きな打撃を受けるのは、富裕層よりも経済的余裕がない人のほうです。したがって資産運用や投資は、富裕層の専売特許ではなく、むしろ一般の人々こそ、将来の安心・安全のために積極的に考えて行動すべきものなのです。
第1回で述べた「家計の経済安全保障」は、国の安全保障になぞらえたもので、少々おおげさな表現になっていますが、すなわち家計の資産運用戦略であり、これは自分の将来の生活を守ること――「生活防衛」と言い換えても良いかもしれません。
そして、安全保障戦略である以上、専守防衛(ひたすら守るだけで攻めないこと)では成果が乏しく、当然に「守り」と「攻め」の両面が必要であると心得ねばなりません。
「マイナス金利」の狙いは景気浮揚近年、日本は「超低金利の時代」と言われてきました。その象徴となるのが大手銀行の金利で、普通預金の金利(利息)は2016年からずっと0.001%です。
他方で国債の金利はわずかながら上がってきました。個人向け国債の金利は、22年初頭までは期間にかかわらず一律で年0.05%でしたが、10年物が0.33%まで上がっています。1年ほどで実に6.6倍の高騰です。金利の面から見ると、デフレからインフレの局面に入ってきたことを感じさせます。
この日本の低金利は、90年代初頭にバブル景気が弾けたことと大きな関係があります。砂上の楼閣のごとく異常な好景気が急速にくずれた日本では、不景気とデフレのスパイラルに突入しました。
この不景気を脱するために、国と中央銀行(日本銀行)が行った金融政策が「金利の引き下げ」だったのです。これは、いわゆる「金融緩和」策の一つです。
なぜ金利を下げると景気が良くなると考えられるのでしょうか。
まず、金利が高いと、お金を借りてまで新事業を起こしたり投資をしたりする企業や人が増えません。世の中のお金が動きづらく、活気が生まれないため、景気はしぼみます。
そこで金利を下げると、借金をした場合の返済利息が少なくて済むので、お金を借りやすくなります。企業も新事業のスタートアップや設備投資が容易になりますし、個人では住宅などの高額なローンを組んでも返済負担が軽くなります。
銀行にお金を預けておいても、低金利で利息収入などスズメの涙ですから、人々が「お金は貯めるよりも使うことが有益」と考えがちになることでお金が世の中に回るようになり、景気が良くなるだろうと考えられるわけですが、政策当局の思惑通りにはいかず低金利を生かした積極的な経済活動を始める動きが盛り上がらなかったのは、ご存じの通りです。
そこで、さらなる景気テコ入れ策として導入されたのが、1999年からの「ゼロ金利」、それでもダメだということで、2016年には「マイナス金利」です。マイナス金利ということは、お金を貸す側が利子を取られて、お金を借りる側に利息が付くという、一般的な感覚からすると妙な現象になります。
ただし、日本でマイナス金利が適用されるのは、金融機関が日本銀行の当座預金口座に預けている資金の一部に対してのみです。銀行などの金融機関は、日銀に資金を預けたままにしておくとマイナス金利という形でペナルティを課せられるので、その分の資金が企業への貸出や投資に回ることを企図した政策だったのです。
ゼロ金利・マイナス金利下では、確かに企業や個人にとって借金はしやすくなり、新たなビジネスにチャレンジしようとする人々には追い風となり、一部の企業では、設備投資や研究開発投資を増やすなど、一定の効果はありました。
しかし、明るい将来が見えない中で、どんどん借金を増やした代表格は、皮肉なことに国(政府)自身であることも事実です。
政府・日銀は、財政金融政策を通じ経済の安定を図る責務を負っていますが、当の政府自体は、インフレになれば過去の借金の価値も実質で大幅減少する(仮に1億円借りて、100倍のインフレがくれば、その借金は100分の1すなわち実質100万円の返済ですんでしまう)のです。それゆえ今や借金まみれとなった政府は、「デフレを脱却し、年率2%程度のインフレを実現」と言いつつも、実は自身はインフレの「恩恵」を最も受けやすい立場にあります。
こうしたことから政府は、財政のツケを日銀に回す、つまり国債を発行しいったん市場で販売したことにして、それを日銀に購入させるという、「市場を迂回させた日銀による国債引受」(市場を迂回しない直接引受は財政法第5条で禁じられているため、脱法的に迂回させる手法がとられている)を続けているのです。
このようなことがサスティナブル(持続可能)であるはずもなく、最終的に政府・日銀が市場の信認を失うことでハイパーインフレが起これば、借金の大半を帳消しにできるという、モラルハザードにつながりかねない要素をはらんでいることは頭の片隅に置くべきでしょう。
『「新しい資本主義」の教科書』池田健三郎 著
発行所 日東書院本社
定価 1,760円(税込)
池田 健三郎/経済評論家、政策アナリスト
1992年日本銀行入行(総合職)、一貫して金融経済の第一線で研鑽を積み1999年6月円満退職。以降は個人事務所(シンクタンク)を設立し、「政策職人」として活動。現在、経済評論家・政策アナリスト、TVコメンテーター、シンクタンク代表のほか、ビジネス・コンサルタント、企業経営者として活動中。撮影:今津勝幸
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