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借金証書だけではない…有価証券、長期金利etc. 国債の持つ“多様な役割”

Finasee / 2023年10月30日 18時0分

借金証書だけではない…有価証券、長期金利etc. 国債の持つ“多様な役割”

Finasee(フィナシー)

日常生活のなかで国債と直接関わることはあまりないかもしれません。しかし実際、国債は金融市場全体を支えるインフラ。日本経済を理解するのに国債の知識は欠かせません。

話題の書籍『知っているようで知らない国債のしくみ』では、知っているようで知らない国債に関する仕組みや役割について、金融アナリストの久保田博幸氏が解説。今回は本書序章「国債の3つの役割」、第1章「国債の種類」の一部を特別に公開します。(全4回)

※本稿は、久保田博幸著『知っているようで知らない国債のしくみ』(池田書店)の一部を再編集したものです。

国債とは国・政府の借用証書

国債は債券の一種です。個人でも購入することができます。

債券とは、国や企業が多数の人々から資金を集めるために発行する、いわば借用証書のようなものです。もともとは紙に印刷された証券であり、1枚ごとに額面金額 ※1が印刷されています。債券が償還 ※2される際には、この額面金額が返済されます。

※1 債券が償還(満期)を迎えたときに受け取れる金額。
※2 満期日に投資したお金が返金されること。

債券の紙自体に財産価値があり、このような紙は「有価証券」と呼ばれます。ちなみに紙でなくても有価証券という用語は使われています。有価証券には株式・債券・手形・小切手などがあります。有価証券はそれ自体に財産的価値を有しており、売買が可能です。

国債には3つの重要な役割があります。それは、「国の債務としての役割」「投資対象としての役割」「長期金利としての役割」です。今回は、これらの役割について解説していきます。

国の債務としての役割

まずは、「国の債務としての役割」について解説します。これを理解するためには、国債の歴史を振り返ることが必要です。国債の歴史は、債券や有価証券の歴史とも密接に結びついています。じつは国債の歴史は債券の歴史であり、有価証券そのものの歴史でもあります。

中世ヨーロッパでは、国王が自らの領地などを担保に商人たちからお金を借り入れていました。借金を踏み倒されたり、国王の寿命が尽きて、債務が引き継がれなかったりする可能性があるため、国王に直接お金を融資するにはリスクが伴います。このため、国王の借金には商人の借金よりも高い金利が必要とされていました。

その後12世紀の中頃になると、ヴェネツィア、ジェノヴァなどの北イタリアの都市で、政府による本格的な債務の調達が開始されました。たとえば、ジェノヴァの議会は将来の税収を担保とした債券を発行し、その資金を国に貸しました。これが国債の起源といわれているものです。

この仕組みを取り入れて、国債の制度を確立させたのが16世紀のオランダです。当時、ハプスブルグ家のカール5世は、フランスとの戦争のために巨額の資金を調達する必要がありました。そこで、領地であったネーデルラント連邦ホラント州の議会に元利金の返済のための税収を与え、その議会への信用をもとにして国債を発行します。国債という仕組みが生まれた背景には、戦費の調達という要因があったのです。

国債は国王や皇帝による個人の借金とは異なり、今後も永久に存続する議会の信用をもとに、税収を担保に発行されます。このシステムを運用するためには強い徴税権 ※3を持った国家の樹立が必要不可欠であり、北イタリア諸都市からオランダ、そしてオランダの制度を取り入れ充実させたイギリスなど、近代国家の形成とともに国債制度が育まれていきました。

※3 租税を取る権利。

現在の日本の建設国債や赤字国債なども、徴税権を有する政府のもと、永久に存続する国会(衆議院および参議院)の承認をもとに、将来の税収を担保にして発行されているものなのです。

投資先としての役割

次に「投資先としての役割」について解説します。国債がどのように投資対象として機能するのかを理解するために、まず債券自体の仕組みを理解することが重要です。

債券は小口 ※4の額面金額に分けられて発行されることで、不特定多数の人から大きな資金を借入れることが可能となります。債券は市場で取引できるため、投資の対象になります。そのなかでも、国債は最も安全性が高い金融商品とされています。

※4 購入単位を小さくしたもの。

債券は発行時に利率や満期日(償還日 ※5)が決められ、満期日を迎えると額面金額を受け取ることができます。額面金額は、かつて証券の表面(券面)に印刷されていましたが、現在では券面そのものが発行されないペーパーレス化しています。そのため、額面金額は当初に取り決められた償還時の金額ということになります。

※5 保有者に額面金額を払い戻す満期日。

発行者から見て資金をいつまで借り入れるのかを示しているのが償還期限です。購入者の視点では、資金をどの程度運用できるのかという期間を示すことになります。

債券の購入者は資金運用を目的とするため、最も重視している要素が安全性と収益です。

その収益のひとつが債券の利子です。額面金額に対する年あたりの利子の割合を利率と呼びます。そして利子による収入のことをインカムゲイン ※6と呼びます。

※6 株式や債券、預金などを保有することで得られる配当や利子のこと。

さらにインカムゲイン以外の収益が発生する可能性もあります。債券は有価証券という商品であり価格が存在します。債券は市場で売買される有価証券で、株価などと同様に価格が変動するからです。

たとえば、額面金額100万円の債券を99万円で購入すれば、償還時には100万円を受け取るため、1万円の収益が発生します。100万円の額面金額であれば1万円の収益となります。このような収益をキャピタルゲイン ※7と呼びます。しかし、投資家にとっての利益はこれら2つを合わせたもので、それを年間あたりに換算したものが、債券の利回りとなります。

※7 保有している債券を売却することによって得られる売買差益。

長期金利としての役割

最後に「長期金利としての役割」を解説します。長期金利とは、直近に発行された10年国債の利回りのことで、これは現在の欧米などでも同様です。その国の金利を示す大事な指標となっているのです。

債券の利率と額面金額は一定のため、債券の「利回りが上昇」するためには、年間あたりのキャピタルゲイン(額面-買付単価)を増加させる必要があります。買付単価が下がる、つまり「価格が下がる」ことにより、キャピタルゲインが増えます。それを年間あたりに換算すると、「利回りが上昇」します。

反対に「価格が上がる」とキャピタルゲインが減少し、それによって「利回りが低下」します。このように、債券の利回りと価格は反対方向に動くのです。

これを国債に置き換えると、国債の利回りが低下すると国債の価格は上昇し、国債の利回りが上昇すると国債の価格が下落することになります。ここが債券を見るうえで最も注意すべきものとなります。

このように、債券は債券市場で売買されることで利回りが上下し、価格はその反対方向に動きます。利回りは物価や景気動向などに応じて動くものなのです。

国債の利回りである長期金利も同じであり、国債そのものの需給のバランスなどに応じて動きます。国が財政支出を増やし、その財源として国債を大量に発行すると需給バランスが崩れ、国債の価格が下落(利回りが上昇)します。

また、海外、とくに米国債の利回りの動向なども日本の国債利回りの変動要因になります。

このように、本来であれば長期金利は市場で形成されるものです。しかし、2016年9月から日銀が短期金利だけでなく、長期金利も誘導目標 ※8に加えています。長期金利、つまり10年国債の利回りを一定水準に抑え込むという政策を採ってきたのです。

※8 日銀がオペレーションによって操作する目標。

長期金利のコントロールを導入する前まで、日銀は「長期金利は市場で形成されるもの」として扱っていました。では、どうして日銀は金融政策の誘導目標にして、長期金利をコントロールしようとしたのでしょうか。この疑問についてもしっかり理解する必要があります。

●第2回(国会の成り行き次第? 常に発行可能なものも? 国債の知られざる“決まり事”)では、国債の種類や、憲法や財政法での取り扱いについて解説します。

『知っているようで知らない国債のしくみ』

久保田博幸 著
発行所 池田書店
定価 1,870円(税込)

久保田博幸/金融アナリスト

慶應義塾大学の法学部政治学科を卒業後、証券会社の債券部で14年にわたり、主に国債の債券ディーリング業務に携わった。その間、1996年に債券市場のホームページの草分けとなる「債券ディーリングルーム」を立ち上げる。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」(パンローリング )、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」(秀和システム)、「債券と国債のしくみがわかる本」(技術評論社)など多数。

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