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「特例」という言葉自体も意味をなさない…なぜ毎年度「特例国債」は発行され続けるのか

Finasee / 2023年10月30日 18時0分

「特例」という言葉自体も意味をなさない…なぜ毎年度「特例国債」は発行され続けるのか<br />

Finasee(フィナシー)

日常生活のなかで国債と直接関わることはあまりないかもしれません。しかし実際、国債は金融市場全体を支えるインフラ。日本経済を理解するのに国債の知識は欠かせません。

話題の書籍『知っているようで知らない国債のしくみ』では、知っているようで知らない国債に関する仕組みや役割について、金融アナリストの久保田博幸氏が解説。今回は本書序章「国債の3つの役割」、第1章「国債の種類」の一部を特別に公開します。(全4回)

●第2回:国会の成り行き次第? 常に発行可能なものも? 国債の知られざる“決まり事”

※本稿は、久保田博幸著『知っているようで知らない国債のしくみ』(池田書店)の一部を再編集したものです。

社会基盤を整備するための建設国債

国などの年度の収入のことを「歳入」、その年度の支出のことを「歳出」と呼びます。国は歳出が税収などの歳入では賄いきれない場合、不足分を補うために借金をします。このようなときに発行されるのが国債です。

道路や橋の建設など、社会基盤を整備するために発行される国債のことを、建設国債と呼んでいます。建設国債は財政法を発行根拠法としています。財政法の四条に記載されているため、四条国債とも呼ばれます。

財政法第四条
国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる。

2 前項但書の規定により公債を発行し又は借入金をなす場合においては、その償還の計画を国会に提出しなければならない。

3 第一項に規定する公共事業費の範囲については、毎会計年度、国会の議決を経なければならない。

財政法では、健全財政主義の原則に基づき、国債の発行で財政を運用することを原則として禁止しています。この背景には、戦前・戦時に巨額の公債が軍事費調達のために発行され、その大部分が日銀で引き受けられたことがあります。それが戦後の激しいインフレーションを引き起こし、その反省がひとつの契機であったとされています。

このため、国の歳出は原則として租税などにより賄うべしとの非募債主義(国の財政は基本的に国債によらないとするもの)を採っています。

しかし、公共事業費と出資金、貸付金の財源になる投資的経費に限っては、財政法第四条第1項ただし書により例外的に国債の発行が認められています。そのために発行される国債が建設国債なのです。建設国債は、国会の議決を経た金額の範囲内で発行できるとされて
おり、その発行限度額は一般会計予算総則 ※1に規定されています。

※1 予算総則とは、国会承認を受けた収支予算書に定める予算の相互流用や建設費予算の繰越しなど予算の運用などに関する規定。

建設国債の発行理由

建設国債は公共事業などの財源となり、国の資産を形成するために発行されます。道路や下水道、ダムの建設といった公共事業は多額の資金が必要です。我々は将来もでき上がった設備・施設の恩恵を受けることになります。

このような社会基盤が整備されれば、産業の育成などに貢献し、我々の生活にもプラスとなります。その結果、将来の税収入を増やすことも期待できるということが、建設国債の発行を正当化する理由となっているのです。

負担の世代間公平という考え方に基づいて、公共事業などに限り国債発行を認めているものともいえます。ドイツの連邦基本法115条やイギリスのブレア政権が1998年に策定したゴールデン・ルール ※2においても同様の原則が規定されています。

※2 景気循環の一期間を通じて、政府の借入れは投資目的に限り行い、国債発行額は純投資額(粗投資額-減価償却)を超えてはならないというルール。

建設国債の限度額の議決を受ける際に、財務省は償還の計画を国会に提出しなければなりません。この償還計画表は、年度別の償還予定額を示し、満期償還 ※3か年賦償還 ※4かという償還方法と償還期限を明らかにするものです。

※3 利子を払いながら償還期日に全額償還する。
※4 利子を払いながら均等に償還する。

もし何らかの理由で発行年限の変更(10年債の一部を2年債にするなど)が生じた場合には、この償還計画表の差し替えが必要になります。そのため、補正予算を含む予算の審議時においては国債の年限の振り分けなどの変更は可能ですが、それ以外の国債の年限別発行額変更などは難しくなっています(国債の発行年限を途中で修正するのはかなり困難)。

戦後初の国債は特例国債(赤字国債)

財政法に基づいて発行される建設国債に対して、特例国債(赤字国債)は、発行されるたびに特別法を制定し、特例により発行される国債です。

特例国債は建設国債の発行をもってしてもなお歳入が不足すると見込まれる場合に、公共事業など以外の歳出に充てるための資金調達を目的として発行されます。

1965年、東京オリンピック直後の日本経済は、昭和40年不況と呼ばれる深刻な不況に陥りました。企業の倒産が続出し、政府の税収も大きく落ち込みます。当時の佐藤栄作首相や福田赳夫大蔵大臣などが議論を重ねた結果、1965年11月19日の第二次補正予算で、戦後初めてとなる国債を発行する方針を決定しました。

この国債発行に対して、佐藤首相は「あくまでも特例としての発行である」と発表し、これにより特例国債(赤字国債)が生まれたのです。

戦後初の国債は、なるべく発行したくなかったので特例として出しました。しかしその後も国債の発行を続けざるをえなくなり、特例としてではなく「建設国債」として発行されるようになります。

国債発行額の推移(出所:財務省)オイルショック後の特例国債発行

その後、しばらく特例国債は発行されませんでした。しかし、1975年度に石油ショック後の影響により巨額の税収不足が予測されるようになります。建設国債の発行により賄われる公債発行対象経費 ※1を上回る部分を補うために、改めて特例としての国債を発行せざるをえなくなったのです。

※1 国債の発行で得られる資金によって使われる決められた額の経費。

戦後初の国債を「特例で」出したことで、これを使えばよいとの発想だったのかもしれません。このため「昭和50年度の公債の発行の特例に関する法律」が国会に提出され、成立しました。この法律が単年度立法として提出されたことで、それ以降も類似の法律(略称は「特例公債法」)が毎年度制定され、特例国債が発行されます。

1990年度から1993年度の間、好景気による税増収や財政再建の努力の結果として、特例国債が一時的に発行されない期間がありました。しかし、すぐにまた発行が再開され、1994年度から現在に至るまで特例国債は毎年発行され続けています。

このように特例国債は、建設国債の発行をしても歳入が不足すると見込まれる場合に、一般会計の財源不足を補うために発行されます。おもに社会保障、防衛費や人件費などの経常的経費を調達するために充てられています。

しかし、人件費などの経常的経費は、将来世代に資産を残すことはありません。国債残高のみ増加し、そのための利払いと償還のための税負担というかたちでの費用負担だけを残すことになるため、財政法ではこのための国債発行は認めていません。それにもかかわらず、一時期を除いて毎年度特例法が制定されています。もはや特例という言葉自体も意味をなさないものになっているのです。

2021年1月には「財政運営に必要な財源の確保を図るための公債の発行の特例に関する法律」の一部を改正する法律案が提出されました。

建設国債のほか、「財政運営に必要な財源の確保を図るための公債の発行の特例に関する法律」により、2021年度から2025年度までの間の各年度の一般会計の歳出の財源に充てるため、当該各年度の予算をもって国会の議決を経た金額の範囲内で、特例公債を発行することができることとなりました。つまり毎年度、特例公債法を定めなくとも特例国債が発行できるようになったのです。

特例国債は、建設国債と同様に国会の議決を経た金額の範囲内で発行できます。その発行限度額は、一般会計予算総則に規定されています。

出納整理期間の発行

実際に特例国債を発行する際は、議決を経た範囲内で、税収などの実績に応じ発行額を極力抑える必要があります。このため、毎年度の税収の収納期限である翌年度の5月末までの税収実績などを考慮して特例国債の発行額を調整する必要があります。

そこで、特例国債の発行時期を翌年度の6月末までとする、いわゆる出納整理期間発行の制度が設けられています。

前年度予算で税収が予想より上振れして、予定された国債を全額発行しなくて済みそうな場合に、翌年度の出納整理期間の発行に回すことで、翌年度の国債発行額をその分減らすことが可能となります。

翌年度の国債発行額については、補正予算編成時に改めて修正が可能となります。

●第4回(国債の「60年償還ルール」延長論、なぜ起きた? 国家財政にとって意味はある?)では「60年償還ルール」によって発行される借換債の背景などについて解説します。

『知っているようで知らない国債のしくみ』

久保田博幸 著
発行所 池田書店
定価 1,870円(税込)

久保田博幸/金融アナリスト

慶應義塾大学の法学部政治学科を卒業後、証券会社の債券部で14年にわたり、主に国債の債券ディーリング業務に携わった。その間、1996年に債券市場のホームページの草分けとなる「債券ディーリングルーム」を立ち上げる。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」(パンローリング )、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」(秀和システム)、「債券と国債のしくみがわかる本」(技術評論社)など多数。

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