なぜ警察はなかなか詐欺師を逮捕できない? ジレンマ残る「G&G事件」の結末
Finasee / 2023年9月14日 17時0分
![なぜ警察はなかなか詐欺師を逮捕できない? ジレンマ残る「G&G事件」の結末](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/finasee/finasee_12508_0-small.jpg)
Finasee(フィナシー)
かれこれ27年前になりますが、当時の橋本龍太郎元首相が掲げた大規模な金融制度改革がありました。「金融ビッグバン」などと称されたもので、「フリー」、「フェア」、「グローバル」を三原則として、金融領域においてさまざまな規制緩和が進められました。
この流れのなかで私自身、ふと気になることがありました。それは、「規制緩和によって金融詐欺が増えるのではないか」という懸念でした。
怪しい広告を出す運用会社へ、いざ直撃そんなことを考えているうちに、当時、勤務していた会社のポストに、1枚の新聞広告が入ってきました。見ると、「元本確保型外国籍投資信託」とあります。運用はニューヨークに本拠を構えるG&G(グース&グリドアイアン)という会社でした。
その紹介文によると、ニューヨークで各種ヘッジファンドの運用を行い、高い運用成績を収めているとのことでした。
この広告を見た時点で、「怪しい」と思いました。なぜなら当時、新聞の折り込み広告を用いた投資信託の宣伝は、できないことになっていたからです。しかも、その広告には、まるで確定であるかのように、利回りまでが提示されていたのです。
早速、G&G社に連絡を入れ、代表者と面談しました。彼が言うには、当時底値と思われていた日本の成長企業、および日本の不動産に投資することによって、着実にリターンを得ること。そして、広告の方法に対しては、あくまでもニューヨークに拠点を置く外国の運用会社であるため、日本の法律の制約は受けなくて済む、というものでした。
もちろん、それは詭弁です。たとえ海外の運用会社であったとしても、日本国内で不特定多数の人を相手に公募型の金融商品を販売するのであれば、日本の法律に則した販売方法をしなければなりません。外国籍とはいえ投資信託である以上、元本確保や利回りの表示は認められないのです。
まさに、うそで塗り固められた真っ黒な詐欺商法でした。
事件化しなければ警察も動けないジレンマこの商品のうさん臭さについては、雑誌の記事で警鐘を促したものの、具体的な被害者が出て来なかったため、そのまま販売が続けられました。
これは他の多くの金融詐欺にも当てはまりますが、事件化しない限り、警察はアクションを起こしません。よほどの確証をつかめない限り、疑わしいという段階では、捜査に着手できないのです。
もちろん、それ以前に金融庁など金融を監督している省庁が動いて、詐欺的な事業者に勧告を出すケースはありますが、そもそも悪意を持ってお金集めをしている連中ですから、金融庁の勧告程度で活動を止めることはありません。警察も事件化しない限りは捜査に着手しませんから、この間に詐欺の被害はどんどん増えていきます。
しかも、金融詐欺を行う連中は、そう簡単に尻尾を出しません。発足して数年間は、他の人から巻き上げた資金を使って元本の償還や利払いに応じるのです。
これは完全な自転車操業なので、必ずどこかで破綻するのですが、そうなる前に元本の償還や利払いを行って信用させ、さらに多くの資金を引き出そうとします。こうして詐欺被害はどんどん大きくなるのです。
したがって、怪しい業者に対してはいち早く、その活動を停止させるようにする必要があるのですが、現実問題としてそれがなかなかできないところに、ジレンマがあります。
G&G社の被害も、こうしてどんどん広がっていきました。G&Gが国内で営業を開始したのが1998年8月。同年12月には、当時の金融監督庁が「投資信託に該当しない」ということで注意処分を行いましたが、そのまま販売は続行され、結局、首都圏を中心にして約600人から、合計約18億円もの資金を集めてしまったのです。
この時点でG&G社の自転車操業が破綻して被害者が出ていれば、これで被害は食い止められたところですが、事態はさらにとんでもない方向へと進んでいきました。
その後も続いたG&G社代表の悪行ここから先に出てくる人物名は一応、イニシャルにしておきましょう。G&G社の代表はHで、Sという共犯者と共に詐欺を働いていたのですが、1999年に全国紙の地方版に、Hのインタビュー記事が掲載されました。
「革新的証券経営者」という見出しで、群馬県前橋市に本社を置く南証券という証券会社を買収、その経営者に納まったという内容です。
南証券の顛末については、インターネットで「南証券事件」と入力して検索すれば、すぐに出てきます。Hは南証券を通じて、「ミナミ・ハイ・イールド・ボンド」という名前の債券を発行して、資金集めを始めました。
仮にもライセンス業である正式な証券会社を、G&Gのファンドを通じて集めた資金を用いて買収。それを隠れみのにして、あたかも合法的な金融商品であることを装い、資金集めを続けたのです。しかし、Hの悪行は意外な結末を迎えました。
迎えた意外な結末実は南証券の内部通報者を確保して、ミナミ・ハイ・イールド・ボンドの実態を記事にしようというその日の夜。なんとHが南証券の金庫にあった、顧客から預かっている株券約32億円相当を、持ち逃げして行方をくらましてしまったのです。
もちろん、この32億円相当の株券を、簡単に換金できたとは思えません。株券の番号が控えられているので、仮にその株券を証券会社に持ち込んで換金しようとしても、断られるのがオチです。ちなみに、現在は株券という本券は発行されておらず、すべて電子化されていますが、当時はまだ株券が存在していました。
結局、この32億円相当の株券はどうなったのか。事件直後、関西の証券会社に、行方不明となった株券が持ち込まれたといった報道もありましたが、金額は非常に小さく、大半の株券はそのまま行方不明。一部では、地下経済に流れたといった話もありましたが、実際のところは何も分かっていません。
Hが行方をくらましてから3年がたった2003年9月。とうとうHは沖縄で逮捕されました。インターネットの検索サイトにホームページを登録するなどと持ち掛け、手数料目的で62万円をだまし取ったということで逮捕されたのです。懲役11年。健在なら今ごろは57歳で、社会復帰しているはずですが、果たしてどうしていることやら。
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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