「言葉を失いました…」子供食堂スタッフが問題児の親に浴びせられた衝撃の言い訳
Finasee / 2023年9月22日 11時0分
Finasee(フィナシー)
私が働いている子供食堂の常連さんの1人が、当時小学4年生の瞬太君でした。シングルマザーのお母さんと2人暮らしですが、お母さんは美容外科医をしていて裕福なご家庭らしく、他の子供たちとは身なりや持ち物も全然違います。
しかも、見た目は色白で整った顔立ちなのに、自己チューで粗暴な言動で周囲から孤立していました。やがて他の子供たちの親御さんから苦情が寄せられるようになり、運営側もこのまま放っておけないと、忙しいオーナーに代わって私が瞬太君のお母さんと話をすることになったのです。
●前編:【子供食堂にブランドバッグで現れ…苦情殺到の“傍若無人”な問題児】
母親がまくしたてた身勝手な理論お母さんが面会場所に指定したのは、勤務先の美容外科の近くのカフェでした。早めに席を取って待っていると、ウェブサイトの写真で見た華やかな雰囲気の女性がやって来ました。忙しいので休憩時間が15分しか取れないと事前に聞いていたので、挨拶もそこそこに本題を切り出すと……。
「要は、瞬太のような子は子供食堂を利用するな、ということですね?」
私の話を遮るようにして、瞬太君のお母さんがきつい口調でまくしたてました。
「児童手当の収入制限だって廃止されたんですよ。子供は社会の宝だからみんなで大事に育てようというのが今の日本のスタンスじゃないですか」
「そもそも、あなたたちは国や自治体から補助金をもらって事業をやっているんでしょう? 補助金は税金です。失礼ながら、私は他の保護者の方よりずっと多くの税金を納めています。その私の子供に利用するなっていうのはおかしな話だと思いませんか?」
「瞬太は偏食がすごくて、学校の給食なんてほとんど手を着けないみたいなんです。その瞬太が、おたくの食事はおいしいと言って毎日通っているのを見てああ良かったなと思っていたんです。それなのに、あなた方の勝手な論理で瞬太の楽しみを奪うんですか?」
自己チューな母親を前になすすべなく退散般若のような顔で畳みかけるお母さんを前に、言葉を失いました。
自分の方こそ身勝手な論理を並べるスーパー自己チューぶりに「この親にしてこの子あり」だなと思いましたが、専業主婦歴30年の私が美容外科の先生を論破できるはずなどありません。不本意ながら、15分間ご高説を賜って退散しました。
私の報告を聞いたオーナーからは「嫌な思いをさせちゃってごめんね。まぁ、世の中、いろいろな人がいるってことよね」と慰労されました。その後も瞬太君は平然と子供食堂にやって来ました。そして、傍若無人な振る舞いも以前と何ら変わることはなかったのです。
突然姿を見せなくなった理由しかし、新学期に入ると、その瞬太君がぱたりと姿を見せなくなりました。気になって同級生に探りを入れると、なんと、他の区に転校したというではないですか。
事情通の親御さんから、転校の理由はお母さんの再婚だという話を聞きました。再婚相手は、お母さんの勤務先の美容外科の院長でお母さんより10歳以上年上だとか。
「桑原さん、知りませんでした? あの2人、この界隈でよく飲み歩いていたんですよ。だから私たちは『子供は子供食堂に預けて婚活なんていいご身分よね』と噂してたんですけどね」
お酒を出す店に勤務するシングルマザーの親御さんが、こっそり教えてくれました。またもやあのお母さんのしたたかな一面を見せつけられたようで、苦々しい気持ちになりました。しかし、話はそれだけで終わらなかったのです。
激変した瞬太君と1年ぶりの再会1年がたち夏休みに入ったある日、瞬太君が突然うちの子供食堂に姿を見せました。
「あら、久しぶりね」と声をかけると、「僕、引っ越したんです。ちゃんとご挨拶してなくてすみませんでした」とぴょこんとお辞儀をしました。
身長も伸びて大人っぽくなった感じで、ずいぶんイメージが変わったなと思いました。
その日のメニューはたまたま、瞬太君の大好物でいつもお代わりしていたトロトロ角煮の酢豚でした。あっという間に平らげた瞬太君に「お代わりはいいの?」と尋ねると、「いいんですか?」と遠慮がちに空いた皿を差し出しました。
食事を終えると瞬太君はスマートフォンでどこかにメールをしているようでした。5分ほどして、かっぷくのいい私と同年代の男性が瞬太君を迎えにやって来ました。瞬太君のお母さんの再婚相手の美容外科の院長でした。
私のネームプレートを見て「あなたが桑原さんですね?」と確認した上で、「以前は家内が大変失礼致しました」と深々と頭を下げました。
瞬太君の継父に差し出されたのは……「当時、妻は患者さんとの訴訟を抱えていて、精神的にいっぱいいっぱいだったと思うんです。暴言を許してやってください」
さらに、「今日は瞬太がどうしても子供食堂のご飯が食べたいというので連れてきました。去年までは反抗期で家内と口も利かない時期があったようですが、ここのご飯をいただくのが数少ない楽しみだったようです」と言い、「心ばかりですが、運営に役立ててください」と白い封筒を渡されたのです。
「料金をいただくわけにはいきません」という私に、「これはあなたたちの活動に共鳴した私からの寄付です」と封筒を握らせ、満足そうな瞬太君と共に帰って行きました。
後で見たら、中には10万円が入っていました。
「瞬太君、素敵なお父さんができて良かったわね」。その日の子供食堂の閉店後、洗い物をしながらオーナーに話しかけると、オーナーも大きくうなずきました。「私たち、なんだかんだで、瞬太君母子のお役に立っていたのかもね」
人は表面だけでは分からないものだなと思いました。今はただ、瞬太君とお母さんが新しいお父さんと3人で心穏やかに暮らしていかれることを願うばかりです。
※個人が特定されないよう事例を一部変更、再構成しています。
Finasee編集部
金融事情・現場に精通するスタッフ陣が、目に見えない「金融」を見える化し、わかりやすく伝える記事を発信します。
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