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補正予算はもはや“年中行事”化…政府が「バラマキ」を続ける根本的な要因

Finasee / 2023年10月11日 11時0分

補正予算はもはや“年中行事”化…政府が「バラマキ」を続ける根本的な要因

Finasee(フィナシー)

2023年1月、岸田首相が年頭会見で検討を表明した「異次元の少子化対策」。その中で、岸田首相は「少子化問題は待ったなしの課題」であり「将来的なこども予算倍増に向けた大枠を提示していく」考えを示しました。今後、さらなる財政拡大が予測されます。

話題の書籍『教養としての財政問題』では、膨張傾向にある財政や社会保障制度の立て直しや経済を成長軌道に乗せる前途について、経済企画庁(現内閣府)勤務経験をもつ島澤諭氏が解説。今回は、本書第1章「財政破綻しなくても財政再建が必要な理由」の一部を特別に公開します。(全3回)

●第1回:このバラマキのツケは若者世代に…日本の財政の「膨張」が止まらない実態

※本稿は、島澤諭著『教養としての財政問題』(ウェッジブックス)の一部を再編集したものです。

「風が吹けば桶屋が儲かる」カラクリ

ではなぜ、予算の膨張が続くのだろうか?

読者の皆さんは「風が吹けば桶屋が儲かる」という諺を御存じだろう。風が吹けば砂塵が舞って、砂塵が目に入ったため目が悪くなる人が増え、そのため三味線弾きで生計を立てる人が増えるので三味線が売れる。三味線には猫の皮を使うためあちこちで猫が捕まえられてしまい、ネズミが増殖し、増えたネズミによって桶がかじられてしまう。そこで、桶の買い替え需要が生じ、したがって、桶屋が儲かるという内容だ。

予算(政府支出と呼び変えても構わない)については、乗数効果が働くことが知られている。例えば、予算を1兆円増やすと、1兆円以上の国内総生産が生み出されるというのが、乗数効果の意味するところである。では、どのようなメカニズムでこのようなことが起きるのだろうか。

理屈は簡単だ。政府が1兆円使うと、それと同額だけGDPが生まれることになる。政府に財を売却した企業は、その見返りに対価1兆円を政府から受け取ることになる。そしてその企業で働いている従業員は、政府に財を納入するために働いて得たお金で、スマホを買い替えたり、レストランで食事をしたりするだろう。

こうした金額は消費として新たにGDPに付け加えられる。さらに、スマホの販売会社やレストランの従業員の給料も増えることになり、彼らもどこかで買い物をするはずだ。

このように、1兆円の政府支出の増加は、GDPを直接的に1兆円増やすだけではなく、間接的にもGDPを増やすことになるので、直接・間接の効果を含めればトータルで1兆円以上GDPを増やすことになる。

要するに、政府が使うお金を増やすと、風が吹いたかの如く、経済のあちこちに支出と購買の連鎖反応が起きて、結果的にGDPが増える。

GDPは増えても金額が小さい

内閣府によれば、公共投資の乗数効果は1.08なので、公共投資の予算を1兆円増やせば、乗数効果でGDPは1.08兆円増えることになる。ただし、1.08兆円の乗数効果のうち1兆円は公共投資の増加分であり、派生的に増えたGDPは800億円に過ぎないことには留意が必要だ。

つまり、政府が総需要を増やせば、それが呼び水となって民需も誘発されることが期待できるものの、その額は小さいのが現状なのだ。

政府予算の乗数効果が発揮されるには、前年度よりも予算規模が大きくなければならない。

今、乗数効果が2あるとき、前年度の予算規模が100だったとする。今年度は緊縮予算が組まれ予算規模が80になったとする。このとき、今年度の予算規模は前年度より20だけ縮小しているので、乗数2×予算縮小額20=40だけマイナスの乗数効果が働き、同額だけGDPが前年度より縮小するマイナス成長に陥ってしまう。

つまり、次の年度の当初予算が前年度の予算総額を超えない限り、マイナスの乗数効果が働いてしまい、GDPが縮小してしまう。

このように、当初予算では厳しめに査定されたとしても(それでも過去最大を更新し続けてはいるが)、政府支出がマクロ経済に与える効果を見る際に重要になるのは、前年度の当初予算に補正予算を加えた総予算額に対する今年度予算の規模である。

より大きな乗数効果を生むためには、当初予算だけでは力不足なため、ブーストをかけるためにも補正予算の編成が必須であり、しかも前年度の補正予算規模を上回らない限り、乗数効果が発揮されなくなってしまう。

年中行事化する補正予算

まとめると、予算の乗数効果がきちんと発揮されるためには、いったん引き上げられた予算総額をそれ以降も維持するか、拡大させていく必要がある。

もちろん、予算の乗数効果により、景気がいったん上向き順調に力強く回復していけば、それ以降は予算総額を少し絞ったぐらいでは景気回復の足を大きく引っ張ることもない。だが、近年の日本のように民間消費や企業の設備投資に力強さを欠く場合、予算総額を元の水準に戻したり、削減したりすると、またたく間に景気が失速し、予算はむしろ景気の押し下げ要因になってしまう。

そうであるからこそ、予算規模は毎年過去最大を記録し続けなければならず、年度途中に補正予算が組まれるのが年中行事化しているのだ。

乗数効果を押し下げる高齢化の進行

しかも、高齢化の進行が予算の乗数効果を押し下げてしまうので、予算の乗数効果を維持するには、予算規模を年々拡大していかざるを得ない側面もある。

なぜ、高齢化の進行が乗数効果を抑制するのかについては、先ほどの乗数効果の説明で挙げたような政府による総需要の増加が民需を誘発して所得を増加させるという流れが保てないからだ。

高齢化の進行は、景気の良し悪しにかかわらず固定された所得(年金)で生活している者の割合を高めることに他ならず、所得の増加が消費を増やし、さらに別の人の所得を増やしさらに消費を増やすという乗数効果の好循環の勢いを削いでしまうからだ。

例えば、若者の消費は所得に依存し、高齢者の消費は所得ではなく年金に依存するとしよう。そして年金は一定の水準で変化しないものとする。

今、GDPが800で若者と高齢者の消費の総額(マクロの消費額)が500、若者は全人口の80%、高齢者が残りの20%である経済を考える。このとき、若者の消費は400となり、一定の条件の下では若者の所得が1円増えた場合に何円消費に回るかを示す限界消費性向が0.5となる。※1

※1 今、ケインズ型の長期消費関数C=cY(C:マクロの消費水準、c:限界消費性向、Y:GDP)を考えると、限界消費性向c=マクロの消費水準C÷GDP、Y=400÷800=0.5と求められる。

乗数効果は1から限界消費性向を引いた数の逆数で表されるため、経済全体での乗数効果は2[=1/(1-0.5)]と計算される。つまり、政府が1兆円支出を増額すれば、2兆円GDPが増加することになる。

次に、高齢化が進行して若者の人口が総人口の40%、高齢者が60%となったとすると、若者の消費は200、そして経済全体の限界消費性向は0.25に低下するため乗数効果も4/3≒1.3[=1/(1-0.25)]と小さくなってしまう。

つまり、高齢化が進行する前と同様に政府が1兆円支出を増額させたとしても乗数効果は1.3兆円に過ぎず6700億円も効果が減じてしまっている。

実際、宮本弘曉東京都立大学経済経営学部教授・吉野直行慶應義塾大学名誉教授『高齢化が財政政策の効果に与える影響』(財務省財務総合政策研究所『フィナンシャル・レビュー』第145号、2021年)では、経済協力開発機構(OECD)諸国を、高齢化が進んでいるグループと高齢が進んでいないグループとに分けて乗数効果を推計している。

高齢化が進むと財政拡大に対して個人消費と雇用の反応が低下するため、高齢化は財政政策の景気浮揚効果を弱めることを明らかにしている。

このように、高齢化の進行により乗数効果が落ちてしまうため、景気浮揚もしくは下支え効果を高めるには、予算規模を大きくする以外手がなくなってしまう。こうして予算は、マイナスの乗数効果と高齢化の押し下げ阻止のため、バラマキと揶揄(やゆ)されるレベルにまで肥大化してしまったのだ。

もはやバラマキでも税収増をもたらさない状態

一方で、バラマキだろうとなんだろうと予算を増やせば景気が回復してその分税収も増えるから、問題はないという立場もある。しかし、乗数効果をもってしても、他の条件が一定ならば、予算の増加額を上回る税収増をもたらすことはない。

もし、政府が追加的に使った金額以上に税収が増え続けるのであれば、財政再建など随分前に終了しているはずだ。現実は異なる。

しかも、日本の場合、財政赤字のうち、景気変動による財政赤字(循環的財政赤字)よりも構造的な財政赤字(構造的財政赤字)が圧倒的に大きいのが現状であり ※2、財政や社会保障の歳出・歳入構造の改革なくして、景気が少しばかり良くなったからといって、財政赤字が自然に解消されることはあり得ない。

※2 IMF(国際通貨基金)「World Economic Outlook Database」(2022年10月)によれば、循環的財政赤字▲0.5%であるのに対して、構造的財政赤字▲7.3%と推計している。

確かに、今般のコロナ禍のような緊急事態には、機動的な財政運営が必要なのだとしても、危機が去った後もなおエンジンをフルスロットルでふかしバラマキ続ければ、いずれガス欠に直面することになるかもしれないし、場合によってはエンジン自体が破損してしまうかもしれない。

しかも、そのツケを負わされるのは、私たちの子や孫であることも肝に銘じておきたい。

●第3回(インフレや経済成長では力不足…低金利の今、国の「財政健全化」を進めるべき理由)では、債務残高対名目GDP比急増の原因や日本の財政再建への道筋について解説します。

『教養としての財政問題』

島澤諭 
発行所 ウェッジブックス
定価 1,980円(税込)

島澤 諭/関東学院大学 経済学部 教授

1994年東京大学経済学部卒業 同年4月経済企画庁入庁。調査局内国調査第一課、総合計画局計量班、調査局国際経済第一課等を経て2001年内閣府退官。02年秋田経済法科大学経済学部専任講師、04年10月秋田大学教育文化学部准教授。15年4月から中部圏社会経済研究所研究部長を経て、22年4月より現職。著書に『シルバー民主主義の政治経済学』(日本経済新聞社)、『年金「最終警告」』(講談社現代新書)など多数。

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