インデックス型のコスト競争激化で消耗戦に突入? 引くに引けない投資信託会社のジレンマ
Finasee / 2023年9月20日 17時0分
Finasee(フィナシー)
ニッセイ基礎研究所が9月8日にリリースしたレポート「研究者の眼」では、2023年8月の投資信託動向が取り上げられました。本稿では、特に注目すべきポイントを取り上げて解説していきます。
8月の流入額は9400億円で今年最大に!国内籍追加型投資信託の資金流出入額推計値は、外国株式や国内株式を投資対象とした投資信託を中心に資金流入が活発化し、全体で9500億円の資金流入があったとされています。7月の流入額が9400億円ということで、今年最大の流入額になったとのことです。
タイプ別で資金流入額が大きいのは外国株式ファンドです。SMA(ラップ口座)専用は資金流出になったものの、一般向けに販売されているものはインデックス型、アクティブ型を問わず資金が流入しました。内訳を見ると、インデックス型が3500億円、アクティブ型が2200億円の資金流入です。
また国内株式ファンドは、1900億円の資金流入ですが、このうち500億円がSMA用のファンドであり、一般向けに販売されている国内株式ファンドへの資金流入は、7月に比べてややペースがダウンしたそうです。
ちなみに国内株式ファンドの資金流入は、インデックス型よりもアクティブ型が優勢です。アクティブ型の資金流入は、7月の1000億円に比べて鈍化し、8月のそれは800億円でしたが、同レポートによると今年5月から毎月600億円以上の資金流入が続いています。
資金流入額上位ファンドは2位S&P500、1位は……?個別ファンドで資金の流入額上位ファンドは、以下のようになっています。
1位 インベスコ世界厳選株式オープン<為替ヘッジなし>(毎月決算型)・・・・・・803億円
2位 eMAXIS Slim米国株式(S&P500)・・・・・・739億円
3位 eMAXIS Slim全世界株式(オールカントリー)・・・・・・694億円
4位 ウエリントン・企業価値共創世界株ファンドBコース・・・・・・391億円
5位 アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信D毎月(ヘッジなし)予想分配金提示・・・・・・307億円
6位 高成長インド・中型株式ファンド・・・・・・281億円
7位 SBI・V・S&P500インデックス・ファンド・・・・・・256億円
8位 高成長インド・中型株式ファンド(年1回決算型)・・・・・・239億円
9位 楽天・米国株式インデックスファンド・・・・・・213億円
10位 あおぞら・新グローバル分散ファンド(限定追加型)2023-07・・・・・・192億円
以上が上位10ファンドです。
eMAXISシリーズは安定的な強さ個別ファンドで安定的に強いのは、三菱UFJ国際投信が設定・運用しているeMAXISシリーズです。資金流入額上位10本のうち2本が、同シリーズのファンドとなっています。
ちなみに同レポートでは、つみたてNISA対象ファンド(ETFを除く)の運用会社別純資産総額がグラフで示されているのですが、圧倒的に純資産総額が大きいのは三菱UFJ国際投信です。
2位の楽天投信と3位のSBIアセットマネジメントがほぼ同額で1.5兆円程度ですが、三菱UFJ国際投信のそれは、その4倍超の6兆円超となっています。同社がつみたてNISAでこれだけ純資産総額を積み上げられた背景は、ひとえにeMAXISシリーズに多額の資金が集まったからと考えられます。
とはいえ、上位10本のうちインデックス型は4本です。その意味では、アクティブ型に再び脚光が集まっているようにも見えます。
上位で注目したいのは「インド株ファンド」この資金流入額の上位ランキングで気になるのは、インド株ファンドが入ってきていることです。
インドの株価インデックスである「ムンバイSENSEX30」は、この10年間、右肩上がりで上昇してきました。2020年3月のコロナショックで25638ポイントの安値をつけたものの、そこから大きく切り返し、直近の高値は66766ポイントです。
当然、インド株を組み入れて運用するファンドのパフォーマンスも絶好調ということで人気化したものと考えられますが、新興国の株式市場は総じてボラティリティが高めになります。
マーケットの流動性が、先進国の株式市場に比べて薄いため、多額の資金が流入すると、本来の実力以上に株価が高めに押し上げられる一方、その反動で大きく下げることが往々にして起こり得るのです。
したがって、人気化しているからといって、実際に購入する際には、自分の資金の大半をつぎ込むようなことは避けなければなりません。新興国の株式市場に投資するファンドをポートフォリオに組み入れる際は、あくまでもポートフォリオ全体の味付け程度、たとえば5%とか10%程度の比率に抑えるようにしてください。
気になるインデックス型の「コスト競争」の行方もう1つ気になるのが、インデックス型のコスト競争です。同レポートには代表的なインデックス型の信託報酬比較が掲載されているので、これはぜひとも見ていただきたいところですが、もはやここまで信託報酬率が下がると、運用コストはゼロに近いと考えてよいでしょう。
たとえばインデックス型では、国内投資信託会社最大規模の運用資産総額を持つ三菱UFJ国際投信のeMAXIS Slimだと、全世界株式指数連動型が9月8日から、それまでの年0.11330%から年0.05775%に引き下げられます。
また、野村アセットマネジメントが7月10日に新規設定した「はじめてのNISA」シリーズにおける同タイプの信託報酬率が、同率の年0.05775%です。仮に年平均の純資産総額が100億円だとすると、年間のコストは577万5000円です。
これを運用会社と受託銀行、販売金融機関の三者で分けあいますから、実際に運用会社が受け取ることのできる信託報酬の額は、さらに少なくなります。投資信託会社の社員の給与水準を考えると、恐らく「社員1名の給与も賄えない水準」と言えます。
もちろん、eMAXISシリーズのように数兆円規模の巨大なインデックス型ファンドになれば、規模のメリットが働いて何とか採算に乗ってくるとは思いますが、数千億円規模では採算に乗らないのが現実です。この際限ないコスト競争の激化による消耗戦が続けば、どこかで限界を迎えるでしょう。
ただ、そうなった時、繰り上げ償還できるのかどうかという問題が浮上してきます。特に長期の積立投資を前提にしたつみたてNISA(2024年1月からつみたて投資枠)は、長期間の積立投資による投資効果をうたっているだけに、どの投資信託会社も、採算には乗らないけれども、簡単に手を引くわけにはいかないというジレンマを抱えることになります。
2018年1月からつみたてNISAがスタートしたのと同時に、アクティブ運用ではつみたてNISAの対象になれないと踏んだ多くの投資信託会社は、インデックス型を中心にして、つみたてNISAの対象ファンドに選定してもらったという経緯がありますが、この安易な考え方によって、大きなツケを払うことになりそうです。
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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