「売れば老後の足しになる」は幻想!? 持ち家=資産と信じるのは危ない理由
Finasee / 2023年10月5日 11時0分
Finasee(フィナシー)
「老後のための貯金はないけれど、持ち家だからなんとかなるだろう」とおっしゃる方が少なくありません。しかし、不動産というものはなかなかやっかいなもので、思っているほど物事はうまく進みません。
「古い家でも、いくらかのお金にはなるだろうからそのお金で施設に入ろう」なんてぼんやりと目論んでいたら、大変なことになります。
まず不動産は、なかなか売れません。もちろんすぐに売れる物件もありますが、皆さんの持ち家は恐らくそれほどすぐには売れないでしょう。住宅購入を考えている方の多くは新しい物件を希望されます。最近の住宅ローンは今の時代にあった設備を備えた物件に対し金利優遇をする傾向があるので、古い住宅はますます売れにくくなります。
古い物件は当時の生活スタイルには合っていたかもしれませんが、その環境を買い手が希望するかというと違うことも多いです。当時最新の設備だったかもしれませんが、今となっては頻繁に故障し、その度に修理費用がかかる“お荷物”になっているかもしれません。また生活環境も新しい駅ができた、幹線道路ができた、スーパーができたなどの周辺の変化から、あなたの住宅の価値も変化します。
従って、老後資金対策に「住宅」を資産として活用しようと考えている場合は、少し冷静になる必要があります。我が家は売れるのか、売れるとしたらいくらか、売るために手を入れた方がよいのかどうかなどです。想定外のことが起こり、急に家を売る必要が出てきたなんてことになったら、それこそ「たたき売り」をするしかできなくなるので、できるだけ時間に余裕をもって取り組むことが重要です。
不動産の値段は、一つではありません。タイミングや売り方によっても値段が変動します。もし家を売却することを前提とした老後を考えているのであれば、早め早めに作戦を練りましょう。
ローン完済後「築35年」の家は年齢を重ねたときに快適とは限らない…50代だと住宅ローンの返済がまだ残っているという方も少なくないでしょう。その場合も今後の住まいをどうしたいのかを考えておきましょう。仮に「終のすみか」だと考えるのであれば、35年の住宅ローンの返済が終わる頃、あなたの住まいは35年分劣化しているので、これからはメンテナンスに費用がかかってきます。
35年前に購入した際に、気に入っていた間取りもこれから年をとって身体の自由が利かなくなった時でも不自由なく暮らせるのか考えてみましょう。お部屋のデザインとして魅力的だった立体的な構造も、高齢になれば転倒リスクにつながる段差になります。ゆったり身体を休めることができる大きめのバスタブも、高さがあれば入りにくく、捕まるところがないバスタブには危険がいっぱい潜んでいます。すてきな景色を生み出す坂道も、風の通りが良い2階のベランダも、若いからこそ楽しめる要素であり、年をとったら苦痛になってしまうかもしれません。お庭もしかり、夏にはプールを出し、子どもたちが遊んだ庭も、高齢になると手入れが難しく荒れてしまう一方です。
今の住まいがこれからの自分のライフスタイルに合うのかどうか考えることもメンテナンスの一つであると言えます。これから先の長い時間、なかなかイメージしづらいかもしれませんがぜひイメージを膨らませてみて下さい。
もちろん住宅ローンのメンテナンスも必要です。実際みなさんのローンは何歳が完済予定でしょうか? 何歳まで働きたいのか、いくらくらい稼げそうなのか、年金はいつから受け取りいくら受給できるのかなどいろいろお考えも固まってきているでしょうから、今一度何歳での完済が現実か考えてみましょう。年金生活になってまでも、今と同じ住宅ローンの返済が可能かというとかなり厳しいです。
繰り上げ返済をするべきか、借り換えの交渉をするべきか、このまま予定通り返済するつもりでその資金を今から別途“よけて”おくのか、ケースにより対策は異なります。退職金の全額を住宅ローンの残債にあてるといったことは無謀です。これからまだまだ続く人生にかかる資金は残しておかなければなりません。
賃貸の場合も同様です。毎月の家賃は経費ですから、年金生活になっても払っていけるのか判断しましょう。現役の時は職場に近い方が良いと少し値段が張っても交通の便を優先したかもしれませんが、これからは月の固定費は少しでも下げたいという気持ちもあるでしょう。今後の生活スタイルを考えると、恐らく住まいを選ぶ条件も変わるでしょうから、時間があるときに少しずつリサーチを進めましょう。やはり年金からでも余裕をもって支払える家賃に抑えたいものです。
認知症の発症や身体の状態によっては、1人で暮らすのが難しくなることもあるでしょう。その場合は、有料老人ホームやグループホームといったところに移ることもあるでしょう。こういった施設は、お住まい地によってかなり差があるのでどこに住んでいるのかによって使える介護サービスが異なるということは知っておいた方が良いでしょう。従って、これから引っ越しをする際は、介護を受ける立場を想定してリサーチすると良いかもしれません。
家賃収入で老後も安泰…は幻想!?「やっぱり老後は家賃収入があると安心だ」とまだまだ安易にアパート経営に乗り出す人もいます。アパート経営は、その名の通り「経営」なので、ただ器を作れば誰かがなんとかしてくれるといったものではありません。地域のニーズを把握し、それに合わせた建築をし、適切なマーケティングとメンテナンスでやっと満室となります。
空室リスクがイヤだからと安易に管理会社を頼むと、高額な費用が継続的に発生します。管理会社との契約期間が終了したら、空室だらけのアパートが残ったという方もいらっしゃいました。不動産経営は片手間でできるものではないと感じます。
不動産の難しさは、ひとえに物件によりその価値がずいぶん違うということに尽きると考えます。立地も、周辺環境も、建物の構造も、一つひとつ違いますから、それらを全部見極めたうえで素人が簡単に扱えるものではないのではないでしょうか。
もしそうであれば、REITという金融商品は一つの解決方法です。REITを一言で言うと、団体で複数の建物のオーナーとなりその家賃収入あるいは売買益を分配する仕組みです。扱う物件も、住居だけではなくオフィスビル、物流倉庫、商業施設などありますし、物件の所在地もさまざまです。このように大きな資本で分散投資を行うことで、リスクを低減することが可能です。
REITは、不動産投資信託と呼ばれ、主に証券会社を通じて購入できます。NISAでも購入可能です。少額から購入できるので、いきなりのアパート経営よりよっぽど建設的だと思います。
家をはじめとする不動産は、実際に目で見て触れられるものだけに、うまく行っている人の様子が非常に際立って見えます。しかし、人は人、自分は自分です。自分なりのスタンスをしっかり持って、惑わされないようにしましょう。単純に家が資産なのか負債なのかは状況によって異なるので言い切れませんが、活用するためにはやはりお勉強が必要です。
山中 伸枝/ファイナンシャルプランナー
FP相談ねっと代表。1993年米国オハイオ州立大学ビジネス学部卒業後、メーカーに勤務。これからはひとりひとりが自らの知識と信念で自分の人生を切り開いていく時代と痛感し、お金のアドバイザーであるファイナンシャルプランナー(FP)として2002年に独立。年金と資産運用、特に確定拠出年金やNISAの講演、ライフプラン相談を多数手掛ける。『50歳を過ぎたらやってはいけないお金の話』(東洋経済新報社)ほか著書多数、金融庁サイト 有識者コラム連載。心とお財布を幸せにする専門家、ファイナンシャルプランナー(CFP®)、株式会社アセット・アドバンテージ代表取締役、一般社団法人公的保険アドバイザー協会理事。
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