【金融ジャーナリストは見た】14年間で約8000人の被害…巨額詐欺事件で悪用された“ある投資手法”
Finasee / 2023年9月28日 17時0分
Finasee(フィナシー)
MRIインターナショナルは当時、日本で初めて医療保険請求債権(MARS)を投資対象とした資産運用手段を提供する運用会社、という触れ込みで登場しました。本社は米国のネバダ州にあるのですが、これから日本で幅広く募集活動を行うということで、大々的に記者会見まで開きました。
約8000人もの被害者を出した巨額詐欺事件この事件の問題点は、何と言っても摘発まで時間がかかり過ぎたことです。日本国内での募集を開始したのが1998年10月のこと。それに対して、実際に同社が詐欺行為をしていたことが発覚したのは、それから14年と6カ月を経た2013年4月でした。
同社は実に14年6カ月もの間、摘発されることなく、日本国内で資金集めを行ったのです。その結果、預かり資産約1300億円、約8000人もの被害者を出す巨額詐欺事件になりました。
詐欺師が悪用した「MARS投資」の仕組みまず、MRIインターナショナルが募集していた「MARS投資」の仕組みから説明していきましょう。
これは実際に先方の担当者に直接会って聞いた話です。それによると、米国において医療保険は個人加入が主流で、患者を診察した病院が直接、その患者が加入している保険会社に対して、診療代金を請求します。この請求権が「医療保険請求債権」になります。
しかし、保険会社からすればできるだけ診療代金の支払いを抑えた方がもうかるため、保険会社は治療内容などを厳しく精査し、診療代金の支払いの先延ばしや、減額を行おうとします。一方、病院からすれば、できるだけ多くの診療費を受け取りたいので、両者の間で交渉することになります。
とはいえ、病院側からすれば、このような交渉ごとは面倒だし、できるだけ早く医療保険請求債権を現金化したいと考えます。そこで病院側は、保有している医療保険請求債権を、請求代行をする専門業者に対して譲渡し、早期の現金化をはかろうとします。
MRIインターナショナルは表向き、この医療保険請求債権を病院から買い取り、保険会社に対して保険金の支払い請求を行う会社であることをうたっていました。同社が日本で募集したMARS投資とは、この医療保険請求債権を買い取る際の原資を、広く個人投資家から募るというスキームです。
そして、この会社は医療保険請求債権を買い取る際の価格をある程度、安くなるように病院と交渉する一方、保険会社に対してはできるだけ高い価格で売却できるよう交渉し、両者の差額を個人投資家に還元するというものでした。
ありえない条件に違和感MRIインターナショナルの出していた条件は次のようなものでした。
償還までの期間は5年。投資金額1500万円に適用される利回りは、年10.32%。それも確定利回りで元本確保という条件付き。しかも、この条件は円建ての場合ですが、米ドル建ても全く同じ利回りを提示。
筆者はこれを見た時点で、明らかにおかしいと思いました。当時、米国の金利は日本のそれを大きく上回っていました。このような金利情勢のもとで、円建てと米ドル建ての利回りが同じなどということは、絶対に起こりえないのです。
なぜならヘッジコストがかかるからです。MARS投資の場合、日本で集めた円を米ドルに替えて医療保険請求債権の買付資金としますが、一定期間を経て償還される際は、米ドル建ての償還金を円に替えて、日本の投資家に償還させます。
仮に預入期間が5年なら、医療保険請求債権を買い付けた時点で、5年後に米ドルを円に戻す際の為替レートを、為替先物予約で確定させる必要があります。
しかし、5年後に円を買い戻す際の為替レートを現時点でフィックスすると、米国と日本の金利差分が、ヘッジのコストとしてかかってきます。たとえば日米金利差が5%だとすると、その5年分ですから25%程度、5年後に米ドルを円に替える際の為替レートは、ドル安方向に設定されてしまうのです。
つまり、どう考えても米ドル建てと円建ての利回りが、全く同じになることはありえないのです。
直接取材をするも、不審点が増えるばかりどう考えても仕組みが理解できないため、当時、実際にMRIインターナショナルの日本事務所に電話して取材を申し込みました。
取材に応じてくれた人物は、日本進出から21年後に、ラスベガスの連邦地裁で懲役50年が確定した、エドウィン・ヨシヒロ・フジナガでした。
他にも設立メンバー数名がおり、一人一人に過去の経歴を確認したところ、これだけ金融スキームを活用した商品なのに、金融機関関係者は1人もいませんでした。元不動産業者、元観光事業者、といった人たちばかりだったのです。
それと共に、いろいろ話を聞いていくと、今回の商品はバンク・オブ・アメリカという銀行と共同開発したと言います。そこで実際にバンク・オブ・アメリカに事実確認をしたところ、「そのような事実は全くございません」という返事が来ました。
証書にまさかの誤字さらに言うと、実はこの商品を実際に購入したことのある人が、私の知人にいたので、証書を見せてもらいました。非常に立派な表紙で飾られた証書の券面には、誇らしげに「Certificate of inbestment(投資証書)」と書かれていたのですが、スペルが間違っていました。「inbestment」ではなく「investment」です。
果たして、このような間違いは起こりうるものなのでしょうか。海外法務を扱っている某大手法律事務所に確認したところ、「券面は非常に重要な役割を持っているため、証書のスペルに間違いがあることは絶対にありえない」という回答でした。
こうして野放しにされた結果……ほぼ間違いなく「クロ」だと思ったので、疑問点を記事にして発表したのですが、MRIインターナショナルからは一切、クレームが来ませんでした。その後も幾度となく、この商品のいかがわしさについて書いたのですが、警察も金融庁も一切動かず、そのまま時間だけが過ぎてしまいました。
そのうち、あまり表立って商品を募集しているという話を聞かなくなったので、いつの間にか私も日々の忙しさにかまけ、MRIインターナショナルに関する情報収集・発信を怠ってしまいました。ところがその間も、MRIインターナショナルは有名人を広告塔に起用した広報誌を制作したり、メディアとタイアップしてセミナーを開催したり、既存客を率いてラスベガスツアーなどを開催し、さらに資金を集めていたのです。
そして2013年に、日本の顧客から集めた約1300億円の大半に運用実態がなく、関東財務局にも虚偽の事業報告書を提出していたことが発覚。巨額詐欺事件として報じられました。
その後、被害者弁護団も組まれたものの、何しろMRIインターナショナルは米国企業ということもあり、預けた資金の返還問題は困難を極めました。最終的に、2018年5月(米国は6月)に和解が成立し、被害者約8700人に対し、総額約50億円が分配されることになりました。
被害者の中には高齢の方も結構いた様子であり、何とも気の毒な結果になってしまいました。「もっと警鐘を促すべきだった」と、深く後悔させられた事件です。
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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