4きょうだいで実家の相続をめぐり骨肉の争い…きっかけとなった「姉の一言」とは
Finasee / 2023年10月2日 11時0分
Finasee(フィナシー)
不動産は、居住用、投資用などさまざまな目的で取引されていますが、頻繁に経験するものではないことや、不動産業者との情報の非対称性が大きいことなどから、「こんなはずではなかった」というケースが後を絶ちません。この連載では、不動産にまつわる数々の相談に乗ってきた不動産鑑定士の福田伸二さんが、皆さんの「不動産リテラシー向上」に役立つ情報を事例と共にお届けします。今回はトラブルがつきものの「不動産相続」について解説してもらいます。
*** 不動産はなぜ相続税に悩む人に利用されるのか相続税の負担が多い方に不動産が有効だという話はお聞きになったことがあると思いますが、その理由をご存じでしょうか? 今回はその仕組みと、だからこそ起こってしまう相続トラブルについてご紹介したいと思います。
当然ですが、預金・現金は1億円があれば1億円の資産として相続の際に税金をかけられてしまいます。では、不動産はどうでしょう? 1億円で売れる不動産があれば1億円の資産として税金をかけられるのかというと、そうではありません。税制の資産評価の基本は時価ですが、個々の不動産について公平に正しく時価を算出することは極めて難しい。そこで、不動産については、誰でも分かりやすく公平に評価できるよう、土地については国税庁が公表している「相続税路線価」に基づき、建物については、個々の固定資産税評価額に基づき、税務上の時価(相続税評価額)とすることができるルールになっています。
そして、この相続税路線価や固定資産税評価額は、実際に取引される土地価格や実際の建築費と比較して、かなり低い価格に設定されています。都心部であるほど、この実際の時価と税務上の時価が乖離する傾向があり、近年何かと注目を浴びているタワーマンションの高層階などは、特にこの乖離が大きくなります。
ですから、預金・現金で資産を残すより、不動産に代えて残すほうが、相続税の基になる資産の評価額を抑えることができるのです。逆に、人口減少が止まらない過疎地では、実際の時価と税務上の時価が逆転してしまっているケースも見られます。
このように誰もが納得する価格を見いだすことが難しい特性があるので、上手に残さないと争いの種になることも事実です。
意外な申し出に、仲のよかったきょうだいが一変!?当社にも日々、相続にまつわるご相談があり、すでに親族間で「もめている」ケースも多々あります。典型的な例をご紹介しましょう。
<ご相談事例>
Kさんプロフィール
東京都在住の50代男性
職業:自営業
家族:同年代の妻と2人暮らし
きょうだい:姉、妹、弟
実家:東京都下の一軒家。父親は数年前他界、母親も認知症で1年間要介護
Kさんは都内在住で小さな会社を経営しています。お父さまは他界され、お母さまもここ1年は認知症を患いご自宅で要介護状態でした。
きょうだいはそれぞれ独立し、実家とは別の場所に住んでいます。お母さまが認知症を患われてからは、長男であるKさんがお金を出してホームヘルパーを雇いつつ、独身の妹が時々面倒を見に通っていました。ご実家は資産家というほどではありませんが、実家の建物と土地以外にお父さまが残した現金や証券もあり、お母さまが亡くなったあとには全てを現金化し、きょうだい全員で分けることになっていました。
ご実家はアクセスも悪くはなく、ベッドタウンとしても人気のエリアでしたが、郊外にあるため、都心に住んでいるきょうだいたちは誰も住みたがっていませんでした。当然、Kさんはお母さまが亡くなったり、施設に入られたりした場合は、ご実家を処分されるつもりでした。
そんな時、お母さまが急に亡くなられました。もともと持病もあったため、急なこととはいえ、きょうだいたちも覚悟はしていたようです。全員が集まって、つつがなくご葬儀を終えられました。
落ち着いた頃に相続の話になりました。Kさんはお母さまの生前に取り決めていた通り、すべての資産を現金化して、きょうだい4人で公平に分けるつもりでした。ところが、時々認知症の母を見舞っていた妹が、実家に戻りたいと言い始めたのです。
聞けば、妹はこの不景気で家賃を払っていくのが苦しく、この機会に実家を守っていきたいとのこと。姉、弟はそれぞれ家庭があります。反対する人はいませんでした。妹は実家と土地を相続することになり、Kさんとほかのきょうだいはそれ以外の現金などの資産を遺産として相続すると決め、これで万事収まるかと思いましたが、これが意外な騒ぎに発展しました。
「家をもらったじゃないか!」「介護までしたのに!」口論で泥沼冒頭でご説明した通り、相続財産としての不動産を評価するための方法は、誰でも分かりやすく公平に出せるように、公的価格で明確にルールが決まっています。ただし、実際に相続した不動産の本当の価値は、公正な市場で売却してみなければ分かりません。Kさんのご実家は、きょうだいで話し合った時に、相続税路線価と固定死産税評価額で出した税務上の時価を基に相続されました。その数字を見て、実際の不動産の価値としても妥当な数字だとKさんは思っていました。しかし、姉は「妹が相続した実家は、本当はもっと高く売れるので不公平だ」と言い始めました。
姉の夫は知り合いの不動産会社にその話をしたらしく、「いや、実はその周辺の土地は最近急激に値上がりしていて土地と家で1億はくだらないらしい。自分たちは一部を現金でもらわないと割にあわない」と騒ぎ出す始末です。それを聞いた弟は「しっかり話し合って決めたはずなのに、今さらなんだよ」と不機嫌です。
妹は妹で、「私は母を介護した、あなたたちは何もしていないくせに!」とヒステリックに反論し始めました。介護といっても、通いで時々様子を見ていただけで、ほぼ毎日依頼していたヘルパーの料金はKさんが全額負担しています。お金をめぐって、それぞれの配偶者も巻き込んだ騒ぎに、Kさんはあきれてしまいました。
「こんなことなら母には早く施設に移ってもらい、実家はさっさと処分しておくんだった……」。Kさんは頭を抱えました。
一般庶民も無関係ではない「遺産バトル」Kさん家族のように、ご家族同士で「トクをした」「損をした」という騒ぎになることが、不動産の相続では非常に多いのです。
ご実家を処分することが決まっているのなら、話は簡単です。しかし、いざというときになって「やっぱり住みたい」と言い出すご家族がいると、土地・家屋は現金のように割りたいように割って、分け合えないために話が複雑になります。ここが証券や現金と不動産が決定的に違うところです。そこに、誰が介護をした、しなかった、という言い合いが火に油を注ぎ、さらに“もめにもめる”のもよくあることです。
それは、投資用の不動産であっても同じです。最初の取り決めでは現金化してきょうだいで分けることになっていても、「家賃収入があるから相続したい」という方が出てきて、もめてしまったりします。さらに、ごきょうだいだけならよいのですが、その配偶者が口をはさんでくることも多く、仲の良かった親族がバラバラになってしまうことも……。
ただ投資用不動産でいうと、最近大きく注目されているのが「不動産小口化商品」です。まだまだ認知が浅く、市場も大きくはないのですが、実はこれからの時代に非常にマッチした不動産のありかたではないかと私は思っています。後編【相続対策、少額から投資etc. いいことずくめに見える!?「不動産小口化商品」の注意点)】ではこの商品について、詳しく解説をしていきます。
※個人が特定されないよう事例を一部変更、再構成しています。
福田 伸二/不動産鑑定士
POLUSグループを経て、大和不動産鑑定株式会社に入社し、東京本社鑑定部課長、鑑定証券化部次長を最後に退社。その後、売買仲介・コンサルティング業務に従事し、J-REIT上場のアドバンス・レジデンス投資法人の運用会社で外部委員も務める。毎年100件以上にわたる収益物件の鑑定評価書の発行や、東京都税事務所のアドバイザーとして相続税路線価のアドバイス業務に従事。2020年にファイナンシャルスタンダード入社。
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