「年金がある」は甘い!? ある夫婦の試算に見る「老後は意外にお金がかかる」実態
Finasee / 2023年10月17日 11時0分
Finasee(フィナシー)
「老後2000万円問題」やNISA制度の拡充等をきっかけに、老後資金準備への関心は国内で高まっています。しかし、まさに今はデフレからインフレへの過渡期。資金を蓄えていても、実質的に目減りしてしまう可能性もあるのです。
話題の書籍『老後が不安……。貯金と年金で大丈夫ですか?』では、現金を貯めても実質的に目減りする“インフレの怖さ”や、老後資金の不安を解消する方法について、齋藤岳志氏が会話形式で優しく解説。今回は本書の第1章「老後が心配なので、貯金をしていますがいろいろ不安です」の一部を特別に公開します。(全3回)
※本稿は、齋藤岳志著『老後が不安……。貯金と年金で大丈夫ですか?』(現代書林)の一部を再編集したものです。
老後資金が不安で相談に来た「夫婦の現状」齋藤岳志(以下、CFP):CFP(Certified Financial Planner)
鴨下芳江(妻・以下、芳江):専業主婦 60歳
鴨下光男(夫・以下、光男):会社員 59歳
〈光男・芳江夫婦の経済状況〉
・2人暮らし(長男・次男は社会人・独立)
・光男は60歳で定年だが、その後も65歳まで継続雇用予定
・芳江は長年パート勤務を続けてきたが、現在は専業主婦
・自宅は横浜市内の持ち家(ローン完済)
・借金ナシ
・預貯金2000万
・光男の退職金は1000万円(予定)
夫婦:はじめまして!
CFP:はじめまして。このたびはよろしくお願いします。早速相談をお伺いしましょう。
光男:はい。ズバリ、老後資金についてです。私はずっと会社員で働いてきて、年収は現在でも600万円とあまり高くないのですが、なんとか2人の子どもを大学まで出して、住宅ローンも完済し、できる範囲で貯金もしてきました。
でも私が来月60歳で定年になるんです。65歳までは継続雇用で同じ会社で働けるのですが、給料は40%下がって、年収は360万円になってしまいます。退職金は入りますが、この先この資金で持つのか、心配になって相談に来ました。コツコツ貯金はしてきたけど、いろいろ不安で……。
どのぐらいの資金が必要?CFP:状況はわかりました。まず、お二人が今後どのぐらいのお金が必要なのか30年後、40年先を考えて計算していきましょう。
光男:30年というと僕たち90歳、40年で100歳か、ま、100歳までは無理として、30年先まで考えればいいか……。
芳江:あら、私は100まで生きるつもりよ。
CFP:人生100年時代です。ぜひその心意気でお願いします。
光男:私はそんな元気がなく……(笑)。でもまあ妻のほうは100歳いけそうですし、40年後までお願いします。
CFP:まず現在の貯金額が2000万円。これに光男さんの退職金が1000万円ですから、合計で3000万円。まずはこれが手持ちの資金となりますね。現在のお二人の毎月の生活費はどのぐらいですか?
芳江:37万円ぐらいです。2人にしては多めだと思うし、もう少し節約したいのですが、親の介護をしていて費用の一部を負担しているし、特に贅沢をしていなくても、このぐらいはかかってしまうんです。光男さんは糖尿持ちで食事を気にしないといけないのによく食べるし、お酒もたくさん飲むし。
CFP:まあ、夫婦2人で37万円は一般的な家計よりは少々多いかもしれませんが、引退後は現役時代より生活費が少なくて済むのが一般的です。大体7〜8割ぐらいにはなります。お二人の場合、37万円×0.8で約30万円としましょう。
いずれ資金が底をつく……?CFP:お二人の年金の見込み額はどのぐらいですか?
芳江:「ねんきん定期便」では年金見込額は夫が16万円、私が6万円の22万円となっています。
CFP:すると引退後の生活費30万円には8万円が不足しますね。
光男さんが60歳から65歳までは年収が360万円、生活費の年額も360万円とすれば、収支はちょうどトントン。この期間は貯金はできないけれど、資金の目減りもしないと考えましょう。
問題は65歳以降。ここからは年金だけでは不足するので、自己資金からの取り崩しとなります。差額は月8万円。年間96万円です。さらに65歳から95歳の30年では2880万円、40年で3840万円を手持ち資金から取り崩す計算になります。
光男:そしたら95歳で自己資金3000万円をほぼ使い果たしてしまうわけですね。それ以上長生きしたらマズイ……。「長生きリスク」ってやつですか。長生きリスクなんて他人事だと思っていたけど自分事に……。
芳江:でも80歳、90歳になったら、もうそんなにお金はいらないんじゃない?
CFP:もちろん、生活費を圧縮して年金の範囲で暮らしていくという選択もあります。ただ申し訳ないのですが、今の話は支出が月額30万円、年間360万円で収まった場合のことです。
光男:というと……?
CFP:毎月30万円が最低かかる生活費としたら、ゆとりの分が欲しいですよね。それに生きていくためには毎月の生活費だけでなく、臨時の出費、想定外の出費もあります。車の買い替えとか、家のリフォームとか。
光男:あ〜、そうだ! 今の車、もう10年経つんです。この先、どこかで1回、いや、もしかしたら2回は買い替えが必要だと思います。うちは車がないと不便な場所なので。
芳江:家の修繕費も考えておかないと……。うちは今、築25年だけど、水回りをそろそろリフォームしたいし、今後は屋根や外壁なんかも修繕しないといけないんじゃないかな。それって結構な費用がかかりますよね……。
光男:あれこれやってると1000万円ぐらいすぐになくなりそう……。そしたらやっぱり足りないですね……。
芳江:独立はしたけれど、子どもたちにかかるお金も考えないと。今は2人とも独身だけど、結婚するなら結婚費用も必要だろうし、孫が生まれたらお祝いもあげたいし……。相手の方の実家の手前を考えると、ある程度は出さないとカッコ悪いし。
光男:なに今から見栄張ってるの(笑)。
CFP:それから今後、時間の余裕ができたら旅行なども行かれませんか?
芳江:行きたいです!
CFP:そうしたらその費用も考えましょう。
光男:どっちにしても私たちが貯金してきた額では足りないってことですね。いざとなれば年金があると思っていたのに、ショックです。
CFP:そうお考えになる方は多いのですが、実際には年金だけでは足りない人のほうが多いんです。
〈鴨下家の老後資金〉
貯蓄2000万円
退職金1000万円
老後の毎月の生活費30万円
年金22万円
→不足分8万円(年間では96万円)
→30年間では2880万円が不足(手持ち資金からの持ち出し)
→40年間では3840万円が不足(手持ち資金からの持ち出し)
CFP:もうひとつ、ちょっと心配なことがあって、鴨下さまは資産のほぼ100%を現金で持っていらっしゃいますね。不安なお気持ちにさせたいわけではないのですが、資金を貯金で持っていることのリスクも考えていただきたいのです。
芳江:え、「現金」が一番安全だと思ってましたけど? 株とか外貨預金とかは下がったら怖いじゃないですか。
CFP:もちろんそうなんですが、今の時代は「インフレ」というリスクがあるんです。最近、物の値段がどんどん上がっていっていますよね。今まで100円で買えたものが130円、150円と値上がりしています。
するとたとえば1000万円を現金で持っていても、実質的には700万、800万円分の物しか買えない、つまり700万、800万円分の価値しかないということが起こり得るわけです。これがインフレの怖さなんです。
しかも時代は低金利です。1000万円を銀行に預けても、インフレ分に見合うだけの
利息がつくわけではありません。
光男:年金だって「インフレだから、ガッチリ上げて、多く出しておきましょう!」とはならないですよね……。
CFP:もちろん年金も本来はインフレに連動して上がるべきですが、年金の仕組み上、インフレへの対応力がかなり弱いんです。インフレだからといってポンと上がるというのは考えづらいです。そうでなくても年金財政は非常に厳しい状況にあります。だから、年金については今の見通し以上に上がることは期待しないほうがいいと思います。
「現金で持っていれば安心」時代は終わった芳江:となると、「現金で持っていれば安心!」ってわけじゃないんですね……。
CFP:「現金が安心」という気持ちはもちろんわかるのですが、それだけに頼ってしまうと、物の値段が上がったときに目減りしてしまうリスクがあるということを、ぜひ頭に入れていただきたいのです。
光男:今まで資産について、あまり考えたことなくて。「コツコツ貯めればいいんだろう」としか思っていませんでした。
CFP:実は鴨下さまのところだけではなく、そういう方は多いんです。
今、日本の金融資産は「貯金」が5割で、しかもその6割以上は60歳以上の方の貯金額という統計があります。株式や投資信託にはわずか10%しかまわっていません。これがアメリカだと逆転していて、貯金として持っている割合は10%あるかないかなんです。もちろんそれが無条件にいいというわけではないですよ。
しかし、ただ貯金として持っているだけで、あとは年金でやっていこうという考え方は、この時代には少々危険と言わざるを得ないんですね。確かにインフレは急に2倍、3倍と進行するわけではなくて、今日100円だったものが3カ月後は110円、半年後は120円というように、少しずつ進行するものです。
「今日から急に生活できなくなる!」というわけではないけれど、ボディブローのように少しずつダメージが効いてくる……というイメージで考えていただきたいのです。
まず「資金」「資産」の違いを知っておきましょう。「資産」というのは「持っていることで、そのものの価値が上がったり、新たなお金を生み出してくれるもの」です。不動産、株式、債券などの有価証券などが「資産」です。
これに対して「資金」は元手となるお金のこと。預貯金として持っているもののことです。今はやりの暗号資産や外貨預金も資金と考えていいと思います。資金は持っていても価値はあまり変わりません。
もちろん預貯金で多少の利子が付き、外貨預金として持っていれば為替の変動で価格が変わることはあるけれど、持っているだけで価値が変わるわけではありません。1ドルは1ドルのままという具合に、基本的には価値そのものは変わらないのが資金です。
日本では多くの方が財産を「資金」としてお持ちですが、「資金」として寝かせておくのではなく「資産」に変えて持つことで資産が価値を生み出す可能性があるわけです。
●第2回(「バブルの悪夢があるので、投資は怖い」という50代におすすめの“手堅い”資産形成)では、まず設定するべき投資の出発点や、人生が豊かになる「記憶の配当」の考え方などについて解説します。
『老後が不安……。貯金と年金で大丈夫ですか?』齋藤岳志 著
発行所 現代書林
定価 1,540円(税込)
齋藤 岳志/ファイナンシャルプランナー
2001年上智大学文学部哲学科卒。百貨店、税理士事務所、経営コンサルティング会社への勤務を経て、2013年FPオフィス ケセラセラ横浜を開設。信用取引や商品先物取引、投資信託、FXなど投資という名の付くものはすべて経験し、その中で自身に一番合った大家業を2007年にスタート。不動産投資に関するアドバイスを中心としたファイナンシャルプランナーとして活動中。著書に『FP大家だけが知っている資産形成に中古ワンルームを選ぶと失敗しない理由』(合同フォレスト)などがある。エフエム戸塚「戸塚井戸端会議。」レギュラー出演中。
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