あまりの無神経さに感情爆発…病床に伏す母に、父が耳元で囁いた“ある言葉”
Finasee / 2023年10月4日 11時0分
Finasee(フィナシー)
両親の健康状態
東北地方在住の春日暁美さん(30代・既婚)の両親は、父親が36歳、母親が31歳のときに社内結婚し、3年後に春日さんが生まれた。
アクティブで情に厚く、穏やかな性格の父親は大のお酒好き。家で宴会を開くことがよくあったが、母親は持ち前の明るさやコミュ力で、いやな顔ひとつせずもてなしていた。
「一人っ子の私には反抗期もなく、仲が良い家族でした。ただ、酔っ払って何度も同じことを言う父は、幼い頃から大嫌いでした。暴力などはありませんでしたが、父の泥酔した姿は今でもトラウマです」
やがて春日さんは大学を卒業すると、教育系の会社に就職。
その頃56歳だった母親は、友人に誘われて健康診断を受けると、乳がんが見つかり、手術を受けた。幸い全摘出にはならず、抗がん剤や放射線治療もせずに済んだ。
2016年11月。65歳で定年を迎え、嘱託雇用で働いていた68歳の父親も、健康診断でがんが見つかった。すぐに抗がん剤治療を開始し、翌年1月には腫瘍を取り除く手術を受けた。
父親の入院中、63歳の母親は、父親の物忘れがひどくなってきていることを心配し、主治医に相談。脳神経外内科を勧められ受診すると、初期のアルツハイマー型認知症との診断がおりる。以降、3カ月に1度定期的に受診することとなった。
二世帯住宅で始まった同居2018年。30歳になった春日さんは、仕事を通じて知り合った2歳年下男性と交際を始め、翌年に結婚。実家の近くで新婚生活を始めた。
「私が一人娘だったこともあり、母が、『結婚しても近くに住んでほしい』と言っていたのと、私も住み慣れたエリアで暮らしたかったので、実家から離れようとは思いませんでした。その代わり、職場は家から1時間半もかかります」
春日さんは結婚して家を出てからも、母親とは月に何度も会い、数日に1回は連絡するほど仲が良かった。
2020年。実家を二世帯住宅に。それまで1階は賃貸と2台分の駐車場で、2階と3階で両親が暮らしていたが、1階を1台分の駐車場だけ残してあとは春日さん夫婦の居住スペースにし、同居することとなった。
「婿に入ってくれた夫は、元の間取りのままで同居してもいいと言ってくれていましたし、義両親も、『別々に住んでいる方がお金がもったいない』と言って賛成してくれました」
リフォームにかかった費用は、春日さん夫婦が支払った。
出産後、再び母が体調不良に2022年1月。春日さんは女児を出産。コロナ禍で面会禁止のため、前日から夫は病室に泊まっていた。
春日さんは母親に娘を見せたくて、ビデオ電話をする。母親はとても喜んでくれたが、どこか元気がなく、「ちょっと喉が痛くてね。あと、なんか食欲なくて」と言った。電話の奥からは、「おーい、いつ帰ってくるんだー?」と父親の声。この頃父親は時間感覚が鈍り、数分おきに同じことを何度もたずねた。
春日さんと母親は、運転免許証を返納するよう父親に勧めてきたが、一向に聞き入れない。68歳でがんを患い、嘱託の仕事を辞めてからは、母親と気ままに過ごしていたが、家の外の掃き掃除と食器洗いだけは毎日欠かさなかった。
退院の日、母親が父親の運転で迎えに来た。予約してあったお寿司を受け取り、帰宅する。
目立ち始めた異変母親は食欲がない様子で、好きだったお酒も、「今日はお祝いだから、一口だけ」と言ってほとんど飲まなかった。春日さんは気になりつつも、自分の産後の痛みや初めての育児に忙殺された。
退院から約1週間後、娘の沐浴をしてくれていた母親の動きがおかしいことに気付いた春日さんは、「どうしたの?」とたずねると、「なんか、お腹が痛いの」と母親。すると夫が、「あとは僕1人でできますから、大丈夫ですよ」と言ってくれたため、母親はソファにうずくまるようにして座った。
春日さんの産後の痛みが良くなっていくのと反比例するように、母親の腹痛は強くなっていった。そして春日さんの退院から1カ月たつ頃には、痛みで布団から起き上がれないほどになっていた。
最初は「尿路結石」と診断されたが……2022年2月。母親が近所の消化器内科を受診すると、「尿路結石」と診断された。その夜、母親は痛みのせいで眠れず、翌朝も同じ病院を再受診。すると、「念のため大きな病院へ」となり、紹介状を手に帰宅した。
翌朝一番で母親は、父親の運転で大学病院へ向かう。「検査に時間がかかるから一度帰っていて」と言われ、家に帰ってきた父親は、玄関やリビングを行ったり来たり。
「迎えに行ってくる」と突然言い出すため、春日さんは娘の世話をしながら、「連絡来るまで家で待っててって言われてるでしょ」とたしなめるが、「病院の玄関で待ってるから!」と言って行ってしまう。その日父親は、車で15分の距離を4往復した。
母親は17時に帰宅。検査結果はまだ出なかったが、大学病院の医師に「尿路結石ではない」とだけ告げられた。
母を追い詰めた父の言動その翌朝、春日さんは両親の揉める声で起こされる。両親のリビングがある2階へ行くと、母親が泣いていた。
なんでも、朝6時に起きた父親が日課である洗い物と掃き掃除をしたあと、痛みで眠れず、布団の中でうずくまる母親の耳元で、何度も何度も何度も「朝ごはんどうする?」と聞いた。母親は鎮痛剤を飲むために、何かお腹に入れた方が良いと考え、近所のおむすび屋の名前と、買ってきてほしいものをメモして父親に渡したが、父親が買ってきたのはコンビニのサンドイッチとポテトサラダ。いずれも父親の大好物だった。
「この頃の父は買い物はできても、〇〇というお店で☓☓を買ってきて、という頼まれごとはできなくなっていました。口頭で伝えても玄関を出るまでに忘れ、メモを書いてもポケットにしまった後、メモの存在を忘れてしまいました」
母親は早く鎮痛剤を飲みたくて近くのおむすび屋を指定したのに、倍以上の時間をかけて買って来られたのは父親自身の好物であったことに、悲しさと怒りとやるせなさがあふれたのだ。
その後、母親に2泊3日の血液検査入院が決まったときも、父親は毎日のように「病院へ行ってくる」と言い、春日さんが「コロナだから面会できないよ!」と止めても、「分からないじゃないか!」と言って聞かない。結局病院の受付で断られて帰ってくるということを、3日で15回繰り返した。
春日さんは、生まれたばかりの娘の世話だけでも精いっぱいなのに、認知症の父親の相手まで手が回らない。夫婦で話し合い、夫が会社に相談したところ、特別にテレワーク勤務を認められ、家族の食事作りや夕方以降の父親の相手を夫が担当してくれることになった。
●検査結果を待つ間、春日さんの母親は愛娘を思って“終活”を始めていた。後編【「すべての財産を娘に…」終活で“相続争いの泥沼化”を防いだ母の機転】で詳説します。
旦木 瑞穂/ライター・グラフィックデザイナー
愛知県出身。グラフィックデザイナー、アートディレクターを務め、2015年に独立。グラフィックデザイン、イラスト制作のほか、家庭問題に関する記事執筆を行う。主な執筆媒体は、プレジデントオンライン『誰も知らない、シングル介護・ダブルケアの世界』『家庭のタブー』、現代ビジネスオンライン『子どもは親の所有物じゃない』、東洋経済オンライン『子育てと介護 ダブルケアの現実』、毎日新聞出版『サンデー毎日「完璧な終活」』、日経BP 日経ARIA「今から始める『親』のこと」など。
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