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回収できなかった資金の行方とは? 「高金利」を売りにした“ある投資詐欺”の結末

Finasee / 2023年10月12日 17時0分

回収できなかった資金の行方とは? 「高金利」を売りにした“ある投資詐欺”の結末

Finasee(フィナシー)

これまで過去の記事で紹介してきたG&G事件(【なぜ詐欺師の逮捕に時間がかかる? ジレンマ残る「G&G事件」の結末】)やMRIインターナショナル事件(【14年間で約8000人の被害…巨額詐欺事件で悪用された“ある投資手法”】)と同様、これも海外投資スキームを用いた詐欺事件でした。

改正外為法の施行を中心とした金融ビッグバンが追い風(?)となったのか、海外投資スキームを利用した金融詐欺が、一気に増えた印象があります。エンジェル・ファンド・ネットワーク事件も、その1つです。

高金利を売りにした手口

エンジェル・ファンド・ネットワークは、米国デラウェアに本拠を構えるパーソナルファイナンスのフランチャイズチェーンという、うたい文句で登場しました。運用商品のリターンは、年16.43%から18.90%。90年代の前半から金利水準が低下傾向をたどっていた日本国内において、この高金利は大いに個人の目を惹きました。

問題は、いかにしてこれだけのリターンを実現するのか、です。

「エンジェル・ファンド」という名称からすると、投資信託の一種のようなイメージを持たれるかもしれませんが、実際の仕組みは投資信託とは全く違います。具体的に言うと、資金を運用したい個人と、資金を調達したい企業を結びつけることによって、個人資金を企業に直接、融資させるというものです。

そして、エンジェル・ファンド・ネットワーク・コーポレーションは、融資をしたいという個人と、資金を借り入れたいという企業との間を取り持つマッチング業者のような立場になります。

エンジェル・ファンド・ネットワークは、個人に対して自分たちのビジネスモデルの利点を、次のように説明していました。

「通常、個人は銀行預金を通じ、企業に対して間接的に資金融資を行っています。しかし、個人から企業へと資金が流れていく間には、銀行やノンバンクなどの金融機関が介在しているため、最終的に金融機関から企業への貸付金利が年24%~36%という高いものであったとしても、個人の手元に還元される預金利率は、普通預金にして年0.1%、定期預金で年0.3%程度に過ぎません(当時)。

これに対してエンジェル・ファンド・ネットワークは、エンジェルパートナーと称される個人加入者が、エンジェル社に融資を申し込んできた優良中小企業に対して直接、資金を融資するため、従来の金融の流れでは実現できなかった高金利を、個人加入者に対して還元できます」

セミナーで資金を集める手法

このシステムでは、個人加入者が直接企業に対して資金を貸す形になるため、個人加入者自身が金融取引業者として、都道府県に登録します。その手続きに際しては、エンジェル・ファンド・ネットワーク社が、4万3000円の金融登録費を個人加入者から受け取って代行していました。

では、融資先が破綻した場合はどうなるのかというと、エンジェル・ファンド・ネットワーク社が融資した元本を肩代わりしてくれます。そのため、個人加入者は受け取る収益に対して、一定率のロイヤリティをエンジェル・ファンド・ネットワーク社に支払います。

結果、年18.25%~36.50%まで5通りの利率で運用できるコースがあったものの、このロイヤリティを差し引いた実質的な利率は、年16.43%~18.90%になってしまいます。

エンジェル・ファンド・ネットワーク社の資金集めは、定期的に開催されたセミナーを通じて行われました。私も何度かこのセミナーに足を運びましたが、いずれもかなりの規模でした。

しかも、このセミナーには、大手出版社が出している起業家向け雑誌の編集長が、特別講演のゲストとして登壇しました。誰もが知っている大手出版社の社員を登壇させることにより、エンジェル・ファンド・ネットワーク社の信用力を高めようという魂胆です。

後日、エンジェル・ファンド・ネットワーク社が詐欺会社として問題になった時、エンジェル・ファンド・ネットワーク被害者弁護団の1人は、「この雑誌に広告が掲載されたことで、被害が全国的に広まった」と言っていました。

他にも、あの手この手を駆使して、資金を集めようとしました。前述したようなセミナーを通じて申込者を増やそうとしたり、某ファイナンシャル・プランナーが設立しているFP会社を通じて、エンジェル・ファンドを投資先とする元本確保型ファンドを組成したりしたのです。

背後にいた人物とは……

この手の金融犯罪にはありがちですが、エンジェル・ファンド・ネットワーク社の場合も、背後に黒い影がちらついていました。

エンジェル・ファンド・ネットワーク社は、2000年4月に福岡県警が福岡支店に強制捜査に入り、そのいかがわしさが白日の下にさらされることになりましたが、このエンジェル・ファンド・ネットワーク社の裏側には、Oという人物がいました。

Oは、80年代バブルの初頭に、世間を大いににぎわせた投資ジャーナルにいた人物で、投資ジャーナル社が詐欺事件で破綻した後、日本ファイナンス育成機構という会社を設立。実はこの会社こそが、エンジェル・ファンド・ネットワーク社の前身だったのです。

しかも、Oがエンジェル・ファンド・ネットワーク社を立ち上げる際に協力したKという人物は、パチンコの景品買取会社を経営していて、その背後には関西暴力団の存在がちらついていました。

こうした経緯、人脈を見ると、エンジェル・ファンド・ネットワーク社には何らかの形で闇勢力が絡んでいたと思われ、「エンジェル・ファンド・ネットワーク」という企業を通じて、闇勢力のフロント企業などに多額の個人資金が流されたであろうことは、想像に難くありません。

また、融資先には経営実態のないペーパーカンパニーも数多く含まれており、そのなかには、投資ジャーナルの元会長だった中江滋樹(故人)の株式投資資金を集めるための会社も含まれていたそうです。

なお、この事件の首謀者とされるOは、2000年4月に福岡県福岡市にて逮捕。2001年9月25日、同事件主犯格の大隈が逮捕。詐欺罪によって懲役7年の刑に処せられました。

また、被害者の債権について、破産管財人による回収が進められたものの、到底、全額回収はかないませんでした。2000年4月に福岡県警が捜査に踏み切った時点で、すでに52億円程度の資金が焦げ付いていたとも言われています。

結局、O以下、主犯格が自分たちの遊行費として使い込んだだけでなく、個人加入者をだますために数多く設立されたペーパーカンパニーにも資金が流れ、そのうちのかなりの部分が、闇勢力へと渡ったと考えられます。

いったん、地下に潜った資金が、再び加入者の手元へと返ってくることは、まずありません。だから、だまされないようにしなければならないのです。

鈴木 雅光/金融ジャーナリスト

有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。

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