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企業型DC加入者はなぜ金融リテラシーが高いのか? 一方で課題も

Finasee / 2023年10月31日 11時0分

企業型DC加入者はなぜ金融リテラシーが高いのか? 一方で課題も

Finasee(フィナシー)

確定拠出年金(DC)は制度開始から22年を迎えます。その間、制度の利用者数は着実に増え、2022年3月末時点で企業型DCの加入者数は782万人、個人型239万人で、双方あわせて1000万人を超えています。

同時期のNISA(少額投資非課税制度)は1179万口座と、人数では及びませんが、企業型DCは普通の会社員への投資の普及という点で大きな役割を果たしてきました。

DC加入者は非加入者と比較して金融リテラシーが高い傾向

DCは加入者個々人が資産運用を行う制度です。制度スタート時には、さまざまな意見や不安の声がありました。「(貯蓄一辺倒の)日本人に資産運用はなじまない」「会社員に資産運用ができるのか」「(プロが担っている)確定給付型でも運用結果が思わしくないのに、素人が運用できるのか」などです。

2000年代初頭を振り返ってみると、1996年の日本版ビッグバン以降、金融取引の適正化のルール作りが求められていました。それとともに消費者の「金融教育」の必要性が提言されています。つまり、当時の「教育」は、資産運用ではなく、消費者被害の防止のために位置づけられていたようです。

そうした環境下でスタートしたDC制度は、情報提供すべき内容がガイドラインで定められました。また、「資産運用」への不安や危惧があったがゆえに、企業型DCの実施事業主は基本的に全加入対象者に投資教育を受講させる必要性を認識していました。

現在では、制度導入時の投資教育の実施率はほぼ100%となっています(※1)。その結果として、各種アンケート調査においてDCの効用が示されています。

たとえば、金融経済教育を受けたことがある人(回答者の29%)の半分は「勤め先の企業で確定拠出年金の導入/継続/教育を受けた」となっています(※2)。また、DC加入者の金融リテラシーは、非加入者よりも高いという調査結果が出ています(※3)

※1 企業年金連合会「企業型確定拠出年金 投資教育ハンドブック 2022年9月改訂」
※2 投資信託協会「投資信託に関するアンケート調査」2023年1月 
※3  MUFG資産形成研究所「金融リテラシー1万人調査」

投資信託の活用有無で資産残高に倍近い開きが発生

DC加入者は非加入者と比較して、金融リテラシーが高い傾向がありますが、課題もあります。DC資産を定期預金などの元本確保型に放置し、何もしない層の存在です。

現時点の運用環境が好調のため、仮に2003年から同じ条件で掛金拠出があった人を比較すると、投資信託100%の人と定期預金100%の人では、運用結果としての資産残高に倍近い開きが発生している場合もあります。

企業型DCは事業主が主体となって実施しているため、これほど大きな差が生じることを問題視する事業主もあります。しかし、定期預金100%になっている人に行動変容を促すことは、かなり困難です。

DC継続教育の実施率は81.5%(※4)ですが、強制力を持った全員参加とする事業主は少なく、興味関心のない層への働きかけにはつながらないようです。その結果、熱心に考えて情報収集できる人が参加する一方、元本確保型に資産を放置している人の参加はなく、両者のギャップを埋めることにはならないようです。

また個人情報保護の観点から、加入者個々人の資産配分状況を事業主が把握することが禁止されており、誰に伝えていけばいいのか、がわからない点も改善をむずかしくしている要因として考えられます。

※4 企業年金連合会「2021年度決算 確定拠出年金実態調査結果」

OECD諸国ではデータ分析に基づくエビデンスも提示

2022年6月にOECD(経済協力開発機構)の「金融教育に関する国際ネットワーク(INFE)」は workplace(職域)での金融経済教育の課題や事例をまとめた報告書を出しました(※5)

諸外国の取り組みとして、政府機関などによる事業主への情報発信やサポートツールの提供、就業時間内での金融教育の実施を促すために、その費用を税控除できる仕組みやインセンティブ(表彰制度)の設定などが紹介されています。

こうした取り組みによって、従業員のファイナンシャル・ウェルネスが上がり、ひいては企業にとって重要な生産性の向上にもつながることを調査分析によるデータで示していることも特徴的です。

たとえばカナダでは、金融面でストレスを抱える従業員のうち、仕事中に集中力が低下している人の割合は、そうでない従業員の約5倍に達するとの調査結果が示されています。

また、イギリスでは、従業員が抱える金融面でのストレスにより、2016年のみで1200億ポンドと1750万時間の経済的損失を被ったとの推計結果を紹介しています。

同報告書では、以下のような行動経済学の考え方を応用した対応も報告されています。
・金融経済教育プログラムの参加率を高めるため、「原則参加」を設定する(「不参加」を積極的に選択しない限り「参加」)。
・金融経済教育の教材において、望ましい行動で得られる利得よりも、望ましくない行動により生じうる損失を強調する。

※5 Policy handbook on financial education in the workplace

WEBサイトにアクセスしたことがない人は今すぐアクセスを

加入者向けに提供されているWEBサイトには、さまざまな情報が盛り込まれています。加入者個々人の運用結果はもちろん、資産配分の見直しシミュレーションやライフプランニング、制度の簡単な説明動画などが搭載されています。

このWEBサイトの利用率は、野村證券受託の加入者等でみると、1カ月平均で15%程度、6カ月平均で25%程度となっています。一方で、一度もWEBサイトにアクセスしたことがない人は50%に達します。

定期的に発行される残高通知が書面で届くため、WEBサイトへのアクセスの必要性を感じない加入者も多いかと思います。しかし政府の「デジタル原則に照らした規制の一括見直しプラン」の影響により、残高通知は書面の交付から電磁的方法への切り替えが進む素地が整いつつあります。「無関心層」を減らすために、まずはWEBサイトの利用登録を促すことが重要です。

また、一度もWEBサイトにアクセスしたことがない方は、アクセスしてみましょう。WEBサイトの情報を定期的にチェックしていくことで、いつの間にか金融リテラシーが上がっているかもしれません。DCを通じて投資信託を活用することで、気づいたら老後資金形成が行われていた、という環境を整えることにもつながるでしょう。

 

津田 弘美/野村證券株式会社 確定拠出年金部

社会保険の専門出版社において、企業年金分野の編集記者として厚生労働省記者クラブ等に所属。厚生年金基金の隆盛期から企業年金2法の成立等を取材。その後、野村年金サポート&サービス(現在は野村證券に合併)に入社。確定拠出年金の運営管理業務に10年以上にわたり従事し、投資教育の企画立案、事業主サポート等を担当。業務の傍ら、横浜国立大学大学院において、理論と実務の両面から企業年金制度についての考察を行う。横浜国立大学大学院国際社会科学研究科博士課程後期課程修了(経営学博士)。

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