意外に知られていない!? 株式市場をも左右する「FOMC」が創設された経緯
Finasee / 2023年10月19日 11時0分
Finasee(フィナシー)
米国内の金利や株価だけでなく、日本株等多くのマーケットにその影響力が及ぶため、世界中の金融関係者が動向を注視しているといっても過言ではない、「FOMC(連邦公開市場委員会)」。投信投資家にとっても、自身の資産へ与える影響から、FOMCがどのような組織で何を目指しているのか知っておくことは重要です。
話題の書籍『FRBの仕組みと経済への影響がわかる本』では、FRBの仕組みや役割、そして世界経済への影響について、金利為替市場コメンテーターの工藤浩義氏がやさしく解説。今回は本書第1章「FRB(連邦準備制度理事会)とはどのような組織で、何を目的にしているのか」の一部を特別に公開します。(全3回)
※本稿は、工藤浩義著『FRBの仕組みと経済への影響がわかる本』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。
1913年に発足したFRB、雇用の最大化と物価の安定が目標連邦準備制度(FRS)の仕組み
日本で一般に「FRB」(連邦準備制度理事会)として知られる組織は、アメリカ合衆国の中央銀行に相当します。1913年の「連邦準備法」(Federal Reserve Act)※1 成立により「連邦準備制度」(FRS, Federal Reserve System)の組織として設立されました。
※1 連邦準備法
「連邦準備法」“Federal Reserve Act”というのは略称で、正式な法律名は以下の通りです。“An Act to provide for the establishment of Federal reserve banks, to furnish an elastic currency, to afford means of rediscounting commercial paper, to establish a more effective supervision of banking in the United States, and for other purposes.”(連邦準備銀行を設立し、弾力的な通貨供給を行い、商業手形の再割引手段を提供し、アメリカ合衆国における銀行業務の監督をより効果的に行う、などを定めた法律)
連邦準備法では、連邦準備制度の目的・構造・機能が定められています。また連邦議会に法改正の権限があり、実際に数年ごとに何度も改正が実施されてきました。
1977年には、政策目標として、“the goals of maximum employment, stableprices, and moderate long-terminterestrates”(雇用の最大化、物価の安定、適正な長期金利)といった文言が法改正により加えられ、FRBの法的な責務が明確に定められました。
この中で、「雇用の最大化」と「物価の安定」の2つが、FRBの政策目標として、FRB関連の会見や文書、あるいはメディアでも多く引用されています。
FRBは、効果的な経済政策を促し、さらに広くは公共の利益を守るために、以下の5つの機能を持つとされています(“The Fed Explained:What the Central Bank Does” - Federal Reserve System Publication - より)。
①金融政策の実施
米国経済における雇用の最大化と物価安定化の促進
②金融システムの安定化
米国内外での積極的な監視・関与を通じてシステミック・リスクを最小化、抑制
③個々の金融機関の安定性と健全性の促進
個々の金融機関が全体の金融システムに与える影響を監視
④支払決済システムの安全性と効率性の促進
銀行業界や米国政府に対して米ドル取引や支払いの円滑化促進
⑤消費者保護と地域開発の促進
消費者重視の監督と検査、新しい消費者問題とトレンドの研究・分析、
地域経済の開発活動、消費者に関する法規制の運用
このうち、個々の金融機関の監督・規制、消費者保護、金融システムの安定化などは、日本では中央銀行である日本銀行ではなく金融庁が主に担っています。
その意味では、米国FRBは日本でいう日本銀行と金融庁の役割をあわせ持つ組織だといえ、金融に関する権限がFRBに集中しています。
複数の組織から成り立っているFRBFRBは、英語では“Federal Reserve”、もしくは“Fed”といいます。日本語でFRBというときは、概ね「連邦準備制度理事会」のことを指すようです。
FRBは“Federal Reserve Board”の頭文字から来ていますが、広い意味では「連邦準備制度」、すなわちFRS(Federal Reserve System)のことを意味します。本記事でFRBという場合は、とくに断りのない限り「連邦準備制度理事会」を指すこととします。
一般に中央銀行というと日本銀行のように国家等の中核となる1つの銀行を指します。そして、1つの組織である「FRB」は以下3つの部分から成り立っています(前ページ図参照)。
1.連邦準備制度理事会(FRB, Federal Reserve Board)
2.連邦準備銀行(FRB, Federal Reserve Banks)
3.連邦公開市場委員会(FOMC, Federal Open Market Committee)
このうち、1913年の連邦準備法の制定当初から定められていたのは、「連邦準備制度理事会(FRB)」と「連邦準備銀行(地区連銀)」の2つです。
FRBの12の連邦準備銀行連邦準備銀行は全米を12に分けた各地区にあり、それぞれの地域の経済を把握するための情報収集、そして地区の銀行業界の監督を行います。12の地区の境界は、1913年当時の主要な商業地域を中心に、経済的なつながりを考慮して決められたもので、必ずしも州の境界線とは一致しません。
さらに、各地区の連邦準備銀行(地区連銀)は、それぞれ独立して運営されることになっており、下部に置かれた加盟商業銀行が地区連銀から資金を借り入れる際のディスカウント・レートは、地区連銀ごとに独自に設定されました。
また、公開市場操作(市場に流通する政府発行の債券を売買して、市場の資金量を調節し金利水準をコントロールすること)や市中銀行との取引も地区連銀が行いました。
当時(1913年)は、現在のように全米単位の経済政策を立案するといった考え方は発展しておらず、各地区連銀がそれぞれ地域経済のニーズに応じて行動していたため、公開市場操作も地域限定の影響力にとどまりました。そのため、理事会による政策決定と地区連銀による公開市場操作は、それぞれ独自の判断で行われました。
金融政策運営のためFOMCが創設されたしかし、通信や交通が発達するに伴い金融サービスも進歩し、州を超えた経済活動や金融取引が活発化するようになると、金融政策の効果的な運営のために、FRS全体の協力と調整が必要になってきました。
そこで、1933年の「銀行法」の制定と1935年の連邦準備法の改正を経て、「連邦公開市場委員会」(FOMC, Federal Open Market Committee)が創設されました。FOMCでは理事会と地区連銀の双方から参加メンバーが入り、両者の考えが1つの場で集約されます。
したがって、FOMCが設立される以前に問題とされていた理事会と地区連銀、あるいは地区連銀同士の間で見られた金融政策の齟齬(そご)をなくし、アメリカ全体で整合性のある金融政策を実施できるようになりました。
●第2回(世界中の投資家が注目するFRB―なぜこれほどに影響力があるのか)では、世界の金融市場に大きな影響を与えるFRBの決定事項とその具体的な内容について解説します。
『FRBの仕組みと経済への影響がわかる本』工藤浩義 著
発行所 日本実業出版社
定価 1,980円(税込)
工藤 浩義/金利為替市場コメンテーター、金融翻訳家
上智大学経済学部卒業。銀行にて融資・預金業務やSWIFT・コルレス業務など外国為替業務を担当。湾岸戦争時に有事のドル買いによる相場急騰を見て、リアルタイム情報の重要性を感じ、金融情報サービス業QUICK(日本経済新聞社グループ)に移る。経理部・財務部での業務、米ニューヨーク現地法人マネージャーとして米国の会計・税務全般を担当。その後、情報本部にて日経225オプション戦略や債券先物(JGB)の市場コメント執筆、米FRB関連情報の翻訳・配信を行う。米企業ブリッジニュース社に移り、同様のサービスを導入・発展させる。現在は金融市場のコメント執筆や金融・企業財務の翻訳業務に携わる。
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