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注目が集まる中野晴啓氏の創業―日本の資産運用ベンチャーは後に続けるか

Finasee / 2023年10月6日 11時0分

注目が集まる中野晴啓氏の創業―日本の資産運用ベンチャーは後に続けるか

Finasee(フィナシー)

9月21日、岸田首相は訪問先の米ニューヨークで投資家向けに講演を行い、「資産運用特区」の創設を表明しました。資産運用立国に向けた政策のひとつで、日本の資産運用ビジネスを活性化させるため、外資系運用会社が参入しやすい環境整備を行うことをうたっています。

資産運用特区とは?

新聞などで報道されている、資産運用特区の柱を列挙すると、次のようになります。

①海外から優秀な運用者を招くうえで日本語の壁の高さが指摘されているので、英語のみで行政対応が完結できるようにする。
②バックオフィス業務のアウトソーシングを可能にする規制緩和を実施する。
③「運用資金獲得支援プログラム」を整備して新規参入の運用会社を支援する。
④投資家の意見を政策に反映させるため、日米を主体とした「資産運用フォーラム」を立ち上げる。

以上は日本経済新聞(2023年9月22日朝刊)にも詳しく書かれているので、あわせて参考にしてみてください。

課題は日本発の資産運用ベンチャーのための環境作り?

このように、資産運用特区の創設に向けた規制緩和の内容を見ると、日本の資産運用ビジネスを活性化するには海外勢の日本参入が大事だと言っているかのように聞こえます。

たしかに、米国は資産運用ビジネスの本場ですし、イギリス、アイルランド、ルクセンブルグなども金融立国、資産運用立国として広く知られています。こうした海外勢の日本参入を促進することにより、日本の資産運用ビジネスを活性化させたいという考えは分からないではないのですが、日本の資産運用ビジネスを活性化させるために、なぜ海外勢なのか、という点は疑問です。

資産運用特区のニュースが報じられた直後から、複数名の識者も指摘している通り、海外勢の日本参入を促進するための規制緩和を行う以前に、日本の資産運用ベンチャーが参入しやすい環境をどう作るかに注力するべきなのではないか、と思います。

中野晴啓氏の創業に高まる期待

そのための試金石のひとつが、恐らく「なかのアセットマネジメント」の行方でしょう。読者の方もご存じかと思いますが、セゾン投信の会長だった中野晴啓氏は6月28日に任期を終えて退社。先般、なかのアセットマネジメントを設立することを発表しました。

中野氏がセゾン投信を設立した時は、親会社であるクレディセゾンが全額出資。オフィスやスタッフも、すべてクレディセゾンから提供されるという、恵まれた環境のもとでの立ち上げでした。

その中野氏にとって今回の創業は、まさに裸一貫からのスタートになります。すでにオフィスは構えており、スタッフと資本を集めている最中です。この試みが成功すれば、日本の資産運用ベンチャーが後に続く可能性が高まってきます。

振り返ると、日本において「独立系」、「直販系」と呼ばれる投資信託会社の発端となったのは、さわかみ投信でした。その後、セゾン投信やレオス・キャピタルワークス、コモンズ投信、鎌倉投信などが相次いで設立されましたが、どこの金融機関の系列でもなく、投資信託会社のライセンスを取得して資産運用ビジネスに参入した会社は、鎌倉投信以降、1社も出てきていません。これが日本の資産運用ベンチャーの現実です。

このように、日本発の資産運用ベンチャーがなかなか輩出されない一方、だから海外勢を日本に呼び込むために資産運用特区を創設するというのは、いささか安易な印象を受けます。事実、そのような特区を創設しなくても、日本で個人が購入できる投資信託を設定・運用している外資系投資信託会社は、かなりの数にのぼっています。

日本の資産運用ビジネスを盛り上げるうえで大事なのは、資産運用特区を創設して海外勢を日本に呼び込むことではなく、日本発の資産運用ベンチャーを育成する環境を整えることではないでしょうか。

資産運用ビジネスにおける参入障壁とは?

そもそも、どうして日本発の資産運用ベンチャーが増えないのでしょうか。

最大の要因はお金がかかるからです。前出の、なかのアセットマネジメントは現在、資本調達と出資者間のさまざまな調整を行っている最中ですが、最終的な調達金額の総額は10億円に達すると見られています。

志半ばでセゾン投信を追われたことへの同情心と、日本に積立投資を広めた功績だけで、10億円超もの資本を集められるのだから大したものですが、日本で資産運用ビジネスを行うには、そのくらいのお金が必要だということです。

では、なぜそこまで多額のお金が必要なのでしょうか。

現状、日本で投資信託会社のライセンスを取得するためには、バックオフィス業務を自前でそろえる必要があります。そのためには人を大勢採用することが必要となり、採用すれば当然、給料の支払いが生じます。加えて、基準価額などの算出に必要なシステムも導入しなければならず、これにも莫大な金額がかかります。

ちなみにセゾン投信の場合、創業から単年度黒字化までにかかった年数は9年。累損を一掃するのに8年もの年数を要しました。中野氏が会長の座を去った時点における、セゾン投信の運用資産総額は約6200億円でしたが、それだけの資金を集めてもなお、完全に黒字化を果たすまでには17年もの時間を必要としたのです。

これは、資産運用ビジネスにおける事実上の参入障壁と言っても良いでしょう。

その点、バックオフィス部門をすべてアウトソーシングできれば、基本的に運用会社は運用に徹すれば良く、軽量経営が可能になります。資産運用特区に限ったことではなく、バックオフィス業務のアウトソーシングを可能にする規制緩和は積極的に推進するべきでしょう。

注目が集まる「なかのアセットマネジメント」の動向

そして今、設立に向けて動き出したなかのアセットマネジメントは、このバックオフィス部門を、資産運用プラットフォーム会社に委託する方針です。これが奏功し、ローコストで投資信託会社を立ち上げられることが立証されれば、日本発の資産運用ベンチャーが相次いで参入してくる環境が整備されたことになります。

なお、前出の資産運用特区の柱のうち、「海外から優秀な運用者を招くうえで日本語の壁の高さが指摘されているので、英語のみで行政対応が完結するようにする」については、すでに東京日本橋兜町に金融庁が「拠点開設サポートオフィス」を設けて、金融ライセンス取得に係る事前相談から登録手続き、登録後の監督まで英語で対応しているため、いまさらな感じを受けます。

また、「運用資金獲得プログラム」についてはかねてから政策提言がなされていたので、それがようやく結実するかどうかが注目されます。

いずれにしても、日本における資産運用ビジネスを活性化させ、2000兆円を超える個人金融資産を投資に向けるためには、日本発の資産運用ベンチャーが立ち上がり、着実にパフォーマンスを上げていくことに尽きます。

なかのアセットマネジメントがその重責を担えるのかどうか、大いに注目したいところです。

鈴木 雅光/金融ジャーナリスト

有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。

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