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「お父さん、喜んでもらえて良かったね」不公平な相続に困惑も、娘が父を許せた理由

Finasee / 2023年10月20日 11時0分

「お父さん、喜んでもらえて良かったね」不公平な相続に困惑も、娘が父を許せた理由

Finasee(フィナシー)

母の再婚相手だった父は、母が事故死した後も連れ子の私をわが子同然に扱ってくれました。父の支援のおかげで私は音楽大学を卒業して楽器販売店に就職し、現在の主人と出会うことができました。

その父が7月に76歳で亡くなり、帰郷して葬儀を行いました。生前に葬儀から埋葬に至るまで一切合切を取り決めておいたのは、いかにも堅実な父らしいと思いました。

法要の後、父の友人でも会った弁護士の柳沢さんから、「お父さんの遺言を預かっている」と伝えられました。柳沢さんの事務所で遺言を開封した時、そこには衝撃的な内容が記されていたのです。

母と3人で暮らした思い出の詰まった実家は私に、しかし、実家以外の全財産は丸山耕太という人に相続させるとあったのです。名前は知りませんでしたが、それが、父の最初の結婚の際に生まれた息子さんだということは分かりました。

●前編:娘が唖然…血のつながらない父が財産の大半を残した“驚きの相手”

弁護士に遺言の内容を問い詰めると……

ショックの余り、柳沢さんに「この内容、ご存じだったんですよね? どうして教えてくれなかったんですか?」と詰め寄ると、苦しげな顔で「奈保子ちゃんには絶対言わないでくれって言われていたんだ」と弁明されました。そして、私の目を見ることなく、こう続けたのです。

「法律上、お父さんの相続人は実子である耕太君だけだ。奈保子ちゃんは戸籍上娘だけれど養子縁組をしたわけじゃないから相続人になれないんだ。相続人なら遺留分と言って本来の相続分の2分の1を請求する権利があるけれど、奈保子ちゃんはそれができない。つまり、この遺言を受け入れてもらうしかないということだ」

遺されたのは築40年超えの実家のみ

郊外にある実家は築40年を超えていて、大した広さもありません。最寄り駅から遠いこともあって相続税評価額は1000万円に満たないということでした。これに対し、預貯金や債券、株式などを合計した父の金融資産は総額でゆうに6000万円を超えています。

私からすれば、最後の最後に強烈なしっぺ返しをくらった感じでした。実の娘のように思ってくれているというのは、私の一方的な思い込みに過ぎなかったのでしょう。本心では、私のことをうとましく感じていたのかもしれません。

我慢ならず、ついに興信所へ調査を依頼

それからしばらく、ふさぎ込む日が続きました。

主人に事情を話したら、「うちは経済的に不自由しているわけではないし、別に奈保子もお父さんの遺産が欲しいわけじゃないだろう? 逆に、息子さんの方に物入りな事情があったのかもしれないじゃないか」と指摘されました。

それにしても、長年家族として暮らしてきた私でなく、何十年も会っていなかったと思われる息子に多くの財産を渡すというのは納得できません。いくら、「血は水より濃い」にしても、あんまりです。

私は夫に内緒で興信所に依頼し、耕太さんが今何をしているのか調べました。耕太さんは同じ長野県内で代々続く造り酒屋の跡取り息子でした。

調査報告が届いた日の翌日が土曜日だったこともあり、私は夫に子供たちを任せ、友人と日帰り旅行に行くと言って家を出ました。

酒屋に様子を見に行くことに

その造り酒屋は、失礼ながら、「みすぼらしい」という表現がぴったりな古びた建物でした。直売所があり試飲ができるようだったので、蔵の名前を冠した純米吟醸酒を飲ませてもらいました。私は日本酒に詳しいわけではありませんが、これといった特徴のない、普通の味でした。

飛び込みの客が珍しかったのか、若い女性店員から「ご旅行ですか?」と尋ねられました。「ええ、日本酒好きなのでちょっとのぞいてみたんです」と言葉を濁し、申し訳程度に750ml瓶を購入して、そそくさと蔵を後にしました。滞在時間が短かったこともあり、耕太さんらしき人の姿を見ることはありませんでした。

100%納得はできないけれど……娘が父を許せた理由

数カ月後、柳沢さんを通して耕太さんから私への手紙が届きました。

便箋10枚以上に及ぶ長い手紙には、教職を続けたかった父が先代と衝突して家を出たという話や、その際に「跡取りは置いていけ」と言われて自分と別れたこと、さらに、私が父の遺言を受け入れたことへのお礼と、受け取ったお金で醸造所の設備投資をして、新しい日本酒を開発したいという決意がつづられていました。

高齢化や人口減少で消費が先細りする中、コロナ禍で出荷が激減して一時期は廃業も考えたそうで、父の遺産が大きな救いとなったことが読み取れました。思わず心の中で、「お父さん、喜んでもらえて良かったね」とつぶやいていました。

だからと言って、まだ私自身、父のやり方に100%納得したわけではありません。

それでも、いつか耕太さんと父の話をしてみたいと考えるようになりました。父の記憶がほとんどないという耕太さんに、父がどんな人だったか、父とどんな暮らしをしてきたのかを伝えるのは私の義務ではないかと思うからです。

※個人が特定されないよう事例を一部変更、再構成しています。

Finasee編集部

金融事情・現場に精通するスタッフ陣が、目に見えない「金融」を見える化し、わかりやすく伝える記事を発信します。

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