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中小企業のモデル退職金は約1091万円…「少なすぎる」と落胆する前に注目したい制度

Finasee / 2023年10月25日 11時0分

中小企業のモデル退職金は約1091万円…「少なすぎる」と落胆する前に注目したい制度

Finasee(フィナシー)

日本の企業構成は、中小企業が99.7%で大企業の割合が0.3%(2016年経済センサス活動調査より)と、圧倒的な中小企業大国です。国の退職金制度の統計は、従業員数1000人以上の大企業が含まれるため、退職金額の平均額が「自分の会社とだいぶ違う」と感じる人も多いのではないでしょうか。

そこで、今回は、日本人の大部分が働いている中小企業の退職金制度にスポットをあてたいと思います。

そもそも中小企業とはどんな会社?

日本の企業はそのほとんどが「中小企業」というカテゴリーに分類されます。中小企業の範囲は、法人税法上の定義と中小企業基本法で定められた定義の2つの基準があります。法人税法では、資本金1億以下の企業を中小企業としています。

一方、中小企業基本法では、中小企業の範囲と小規模企業者の定義が以下のように定められています。

出典:中小企業庁FAQ「中小企業の定義について」

業種による資本金の違いはあるものの、おおむね常用雇用の従業員が300人以下の企業は、中小企業ということになります。一方、大企業の要件を示す明確な定義はありませんが、中小企業の基準を超える規模の企業が大企業に分類されます。

中小企業の「定年制度」は大企業とどう違う?

中小企業の定年制度や退職金制度については、東京都産業労働局が毎年発表している「中小企業の賃金・退職金事情」という調査データが参考になります。

調査対象が従業員10人~299人の都内中小企業であるため、地方の中小企業は含まれていません。全国的には少し事情が違っているかもしれませんが、圧倒的に企業数の多い東京都のデータは、全国的にも参考になると思います。

では、まず中小企業の定年制度についてみてみましょう。「令和4年版中小企業の賃金・退職金事情」によると、定年年齢を「全員一律」としている企業が86.7%で、「定年制なし」という企業が11.3%と報告されています。

この結果は、大企業とどれくらい差があるものなのでしょうか?

大企業の定年制度については、厚生労働省の「令和4年就労状況総合調査」に定年制度の調査が掲載されています。「就労状況総合調査」の調査対象には従業員数が30人~1000人以上まで幅広い企業規模の会社が含まれています。そのうち、大企業に分類される従業員300人以上の企業の結果を抜粋し、中小企業の結果と比較してみました。

厚生労働省令和4年「就労状況総合調査」と東京都産業労働局「令和4年版中小企業の賃金と退職金事情」より筆者作成

どの企業規模においても、全員一律定年制度を採用している企業が大半であることがわかります。しかし、中小企業においては、「定年制度なし」としている企業が約1割あるというのが特徴的です。

また、全員一律定年制を採用している企業が何歳を定年としているかも比較してみました。

厚生労働省令和4年「就労状況総合調査・定年制度等」をもとに筆者作成東京都産業労働局「令和4年版中小企業の賃金・退職金事情」をもとに筆者作成

大企業、中小企業ともに定年年齢は、60歳が最も多く、次いで65歳という結果です。ただし、わずかに中小企業のほうが65歳定年の割合が多く、70歳を定年としている会社もあるようです。

中小企業の退職金制度の充実度

定年年齢で比較すれば、大企業に比べて中小企業は、高齢になっても働ける会社が多いと考えられます。では、退職金についてはどうでしょう?

退職給付制度の導入状況

まずは、退職給付制度の導入状況を見てみましょう。

●退職給付制度の有無と退職給付制度の形態の割合

厚生労働省「平成30年就労状況総合調査・退職給付制度」と東京都産業労働局「令和4年版中小企業の賃金と退職金事情」「平成30年版中小企業の賃金と退職金事情」より筆者作成

中小企業は、退職金を一括でもらう一時金タイプの制度を導入している企業が大半であることが分かります。また、大企業に分類される企業に比べ退職給付制度がない会社の割合がかなり多くなっています。従業員規模が多い会社ほど退職金が充実しているという実態が見えてきます。

ただし、中小企業のデータは令和4年度のものですが、大企業のデータは、平成30年以来まだ新しい統計が発表されていません。そこで、括弧内に同じ平成30年度の「中小企業の賃金と退職金事情」の調査結果を掲載しています。5年前のデータと比較すると、退職金と企業年金を併用する企業がわずかに増えていますが、「退職金制度なし」の企業も増えていることがわかります。

退職金や企業年金のモデル金額

では、中小企業に定年まで勤めた人は、どれくらいの退職金や企業年金をもらうのでしょうか。「中小企業の賃金・退職金事情」に掲載されているモデル退職金額を見てみましょう。

●定年時のモデル退職金

東京都産業労働局「令和4年版中小企業の賃金と退職金事情」「平成30年版中小企業の賃金と退職金事情」をもとに筆者作成

モデル退職金とは、学校を卒業してすぐに入社した人が、普通の能力と成績で勤務した場合の退職金水準です。

モデル退職金において、退職金を一括でもらう一時金形態の制度しかない企業では、大卒でも1000万円を下回る金額になっています。こちらのデータも、平成30年度における厚生労働省の退職金額の統計データを比較するため、括弧内に、「平成30年版中小企業の賃金と退職金事情」の数字を入れています。

厚生労働省が平成30年に発表した退職給付額の平均は、高校卒(現業職)1159万円、高校卒(管理・事務・技術職)で1618万、大学卒(管理・事務・技術職)で1983万円となっています。退職給付種類別では、一時金のみの平均は、高校卒(現業職)717万円、高校卒(管理・事務・技術職)1163万円、大学卒(管理・事務・技術職)1678万円。一時金・企業年金併用では、高校卒(現業職)1650万円、高校卒(管理・事務・技術職)2313万円、大学卒(管理・事務・技術職)では、2357万円という結果でした。

平成30年度で比較したとき、高卒の場合は、大企業よりも中小企業のほうが退職金額は高い場合もありました。しかし、令和4年度は、全学歴で中小企業の退職金額が減っています。

統計を比較してみると、日本の0.3%にあたる大企業の退職金が、日本の退職金の平均額を押し上げている現実が透けてみえます。実際は、99.7%という圧倒的多数の中小企業に勤めるサラリーマンの退職金事情はかなり厳しい状況になっているのかもしれません。

退職金ではない資産形成を支援する企業も

これまでのデータだけで考えれば、中小企業は退職金制度が充実していない印象を与えてしまいます。しかし、社員の資産形成を会社がバックアップする制度は、退職金や企業年金制度だけではありません。実は、社員が将来受け取れるお金をつくる仕組みは、多様化する傾向があります。

中小企業のなかには、福利厚生制度として「iDeCo+」や「職場NISA」といった制度を導入している企業もあります。これらの制度は、退職給付制度ではないため、東京都や厚生労働省の統計には含まれていません。

iDeCo+とは企業年金制度を実施していない、従業員300人以下の中小企業が導入できる制度です。福利厚生としてiDeCo+を導入した企業は、iDeCoに加入している従業員が拠出する掛金に、1000円以上2万2000円以内(従業員の掛金と合計で5000円以上2万3000円)で掛金を上乗せ拠出します。

会社は、掛金を全額損金に算入でき、従業員も会社が拠出した掛金は給料とみなされないため、税金や社会保険料に影響せず、将来受け取る私的年金を増やすことができます。受け取るしくみはiDeCo同様、原則60歳以降となっています。

一方、職場NISAは、来年から非課税期間が無期限になることで話題のNISA(小額投資非課税制度)を活用した福利厚生制度です。

職場NISAを導入する企業は、NISAを取り扱う金融機関と契約し、投資対象を選定します。掛け金は従業員の給料から天引きし、定時定額で積み立てます。従業員が積み立てる金額に、企業が規約に基づく奨励金を上乗せすることが可能です。この奨励金は給料の一部として課税対象になりますが、従業員はNISA口座に積み立てることで非課税運用の元金が増えます。

こちらは、iDeCoと違い、従業員はいつでも引き出しが可能で、結婚資金や住宅購入の頭金等にも活用できます。2024年からは、生涯非課税保有限度額が1800万円となることから、途中で資金を引き出しながら、将来の老後資金作りにも活用できるため、従来の財形貯蓄制度よりも使い勝手がよさそうです。

退職給付制度がないという企業でも、このような福利厚生制度を導入している場合があります。また、従業員からの提案で制度の導入を検討してくれる事業主もいます。「退職金が少なすぎる」と落胆せず、自らも積極的に資産形成に取り組みましょう。

加茂 直美/フリーライター・行政書士

主に年金、老後資金、行政手続きなどの細かい情報をリサーチし生活に活かすための記事を執筆。行政書士。2級DCプランナー。行政書士事務所オフィスリーガルブレーンを主宰。『役所や会社は教えてくれない! 定年と年金 3つ年金と退職金を最大限に受け取る方法』(大江加代 監修/ART NEXT)『アメリカ人が当たり前に知っているお金のこと全部』(西村隆男 監修/宝島社)『60歳からの得する年金!働きながら「届け出」だけでお金がもらえる本 2023-2024最新版』(小泉正典 監修/講談社MOOK)などの取材、企画、構成、執筆等を担当。

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