突然届いた内容証明… そのありえない「中身」と「依頼主の正体」
Finasee / 2023年10月19日 19時0分
Finasee(フィナシー)
一方的に異性から言い寄られた時、あなたはどうする?
石川彩花(27歳)が、内容証明郵便を受け取った時に最初に考えたのは、「内容証明って何?」という漠然とした疑問だった。受け取ってみて、その差出人が行政書士であること、そして、受け取った書面には、神崎樹(33歳)との婚約破棄の件で2週間以内に行政書士との面談を求めること、この面談に応じなければ簡易裁判所に調停を申し立てる準備があることなどが書いてあった。彩花は神崎と婚約した覚えはなかったが、調停や裁判という言葉から、大きな圧力を感じた。ちょうど、仲が良い佐々木楓(28歳)が離婚訴訟で担当してもらった弁護士が有能だったという話を聞いていたので、楓を通じて弁護士を紹介してもらうことにした。
彩花は、中堅化学メーカーの総務部に勤務し、楓ら数人の友達と年に何回かの旅行に行くことくらいが楽しみな普通の会社員だ。会社は東証プライム市場に上場しているとはいえ、特別目立った技術があるという企業ではなく、安定的な業績を堅実にあげ続けている企業だった。彩花が、その企業に就職を決めたのも、事業が安定していて過度な残業など厳しい業務を命じられるような心配がないことが大きな理由だった。
彩花の望みをあえていうならば、「ほどほどに勤めて、程よい年齢で結婚退社したい」というものだった。ただ、彩花は見た目が華やかで、中学の頃からよく男子生徒に交際を申し込まれた。大学の時には、学内のミスコンに出場すれば、絶対に入賞するとサークルの男子にしつこく言われたこともあった。彩花は、そんな男性からのアプローチを、ずっと迷惑に感じてきた。自分は、特段チヤホヤされたいわけではなく、むしろ、男性と交際するよりも女友達と話している方がずっと楽しいと感じていたのだ。
もっとも、彩花は男性とまるっきりかかわりなく過ごしてきたわけではない。幼なじみの田中優斗(27歳)とは、中学までは同じ学校に通い、高校、大学では学校が違ってもお互いの誕生日を祝い、初詣にも一緒に行っていた。親には内緒にしているが、高校3年生の夏休みに、二人は初めて男と女の関係になった。二人の関係は社会人になっても続いていたが、彩花が優斗に会うのは、せいぜい1カ月に1回くらいで、最も仲の良い楓ですら、彩花から優斗を紹介されるまで彩花に付き合っている男性がいることを知らなかった。彩花が「結婚退職」を考える時には、結婚の相手として明確に意識するのは優斗のことだった。
神崎は、彩花の会社の取引先の営業担当だった。神崎が商用で来社した折に、たまたま神崎を取り次いだのが彩花で、神崎はその出会いで、文字通り彩花に一目ぼれしてしまう。実は、出会った当時、神崎には結婚を前提に交際している女性がいたのだが、彩花のことが気になって仕方がなくなり、特段の要件がなくても、彩花に会いたい一心で彩花の会社を訪問するようなこともあった。そんな訪問の折に、彩花の上司である総務課長の山本健太(41歳)から神崎は、彩花が特に交際しているような相手はいないようだという情報を得ている。それを聞いたことで、神崎の彩花に対するアプローチは、周囲にもわかるくらいに積極的になった。
約200万の慰謝料で婚約を解消神崎は、まず、当時交際していた女性と別れた。互いの両親に結婚を前提に交際しているということであいさつも済ませた後だっただけに、婚約の解消にあたっては、かなり険悪な瞬間があったようだが、神崎が「他に好きな女性ができた」と言い切ったことで、相手の女性の方から、それ以上に離別を引き延ばしても自分の幸せにならないという気持ちになったようだった。ただし、女性の両親からは、一方的な婚約破棄に対する精神的な苦痛を受けたことに対する慰謝料を請求され、神崎は200万円近い金額を支払うことで合意した。その上で、神崎は彩花に交際を申し込んでいる。
彩花は、神崎の申し入れを、その場で断った。自分には交際している相手がいるので、「神崎さんとお付き合いはできません」ときっぱりと断ったつもりだ。しかし、神崎は、「その人とは結婚の約束をしているのか?」と問い詰め、彩花が返答に困ると、「自分も結婚相手の候補の一人として考えてほしい。今すぐに、付き合ってほしいとは言わない。自分の仕事ぶりなどをよく見て考えてほしい」と一方的に宣言した。彩花が、優斗との結婚の約束について返答に困ったのは、その頃、優斗が作家を目指して勤め先の企業を辞めたばかりで、優斗からは「自分勝手な夢のために、彩花を巻き込むわけにはいかない」といわれ、しばらくは距離を置こうといわれたところだったためだ。
彩花は、優斗の作家になる夢を一緒に応援していくつもりだった。小さな出版社が主催する新人賞で優斗が最優秀賞を受賞した時には、一緒に飛び上がって喜んだし、今回、作家として独り立ちするために会社を辞めて背水の陣で執筆に取り組むと優斗が言い出した時にも、彩花は反対をしなかった。むしろ、いつまでも中途半端に夢を追うよりも20歳代でシロクロを付けるような決断をした優斗が頼もしいと思った。たとえ作家としての芽が出なかったとしても、優斗となら生涯を供にしても悔いはないという思いを強くした。ただ、その際に優斗は、納得のいく作品が完成するまでは彩花とは会わないと宣言し、その間に、彩花が他の男性を好きになっても仕方がないということまで言った。
彩花が優斗と距離を置いている間に、神崎はさまざまな機会を使って、彩花に猛烈にアタックするようになる。そして、彩花の職場の先輩が神崎を応援するような態度にでたため、彩花は徐々に追い込まれてしまう。その時、神崎は……。
●神崎の驚愕の行動と彩花と優斗の未来は? 後編「一方的なプロポーズから一転…『精神的苦痛』を訴えた33歳男の行動に戦慄」にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
文/風間 浩
Finasee編集部
金融事情・現場に精通するスタッフ陣が、目に見えない「金融」を見える化し、わかりやすく伝える記事を発信します。
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