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一方的なプロポーズから一転…「精神的苦痛」を訴えた33歳男の行動に戦慄

Finasee / 2023年10月19日 19時0分

一方的なプロポーズから一転…「精神的苦痛」を訴えた33歳男の行動に戦慄

Finasee(フィナシー)

<前編のあらすじ>

石川彩花(27歳)は幼なじみの田中優斗(27歳)と「いつか」結婚したいと考えていた。ある日、会社の取引先の神崎樹(33歳)に一目ぼれをされてしまい、積極的なアプローチを受けるようになる。彩花の上司や先輩の協力もあって神崎の行動は徐々にエスカレートし、約200万の慰謝料を払って神崎は自分の交際相手と婚約破棄までしてしまうが……。

●前編:身近な人がストーカーに… 突然届いた内容証明の「ありえない」中身

一方的な恋心の押しつけは、取り返しのつかない結末に

幼なじみとの穏やかな交際を好む彩花に一目ぼれし、一方的に自分の思いを遂げようとする神崎は、彩花の同僚の助けを得て、徐々に彩花との距離を詰めようとする。

神崎が、彩花の会社を頻繁に訪れていたのは、ちょうど彩花の勤める会社と神崎の会社の間で、大きなプロジェクトが動き出していたことが関係していた。神崎はその契約書をまとめる担当で、総務課長の山本とは、契約書の書面の調整で頻繁に面談をしていた。神崎の人柄について男ぼれした山本は、総務部が定例で行っている食事会の機会に、彩花に神崎の仕事ぶりが非常に優れていること、神崎は出世頭の一人であることなどを力説した。「神崎さんから話は聞いている。特段、結婚の約束をしたような相手がいないのであれば、神崎さんをむげにしないで、食事にいくとか、普通の会社員どうしの付き合いをしてみてはどうだろうか」と彩花に話した。彩花は、山本にも、自分は他に好きな人がいるから、神崎とは付き合えないということを明確に伝えた。

しかし、その翌月の総務部食事会に、山本は神崎を招待した。山本としては、会社の目玉プロジェクトの担当当事者として相手方から頼まれたことを断れなかったのだろう。彩花は神崎がいることに驚いたものの、山本の立場もわからなくはなかった。ただ、その場で、彩花の先輩にあたる飯島瑠美(36歳)が、神崎を彩花の隣の席に座らせるなど、あからさまに神崎と彩花をくっつけようとしたことには心底驚いた。瑠美は、神崎が彩花に交際を申し入れ、それを彩花が断ったことが面白くなかったらしい。「あの娘はちょっとかわいいからって、いい気になっているのよ」と同僚の間で彩花に聞こえよがしに言うこともあった。

その食事会では、瑠美の取り計らいもあって、結果的に彩花は神崎と二人で残されることになった。瑠美は「後は、お二人でよろしくやってください」と、まるでお見合いの席の仲人のような口ぶりで捨てぜりふを残して立ち去って行った。

彩花は二人になった時に、改めて、自分は好きな人がいて神崎とは付き合えないことをはっきりと告げた。具体的に優斗の名前をあげて、幼なじみで高校生の頃から付き合っている男性であることを説明した。それでも結婚の約束はしていないことを神崎に突っ込まれたため、優斗が作家として一本立ちした後で、結婚については話し合うつもりだと現状をありのままに伝えた。それに対し、神崎は、「男のいちずな夢を応援する女性はすてきだ。幼なじみをいちずに思い続ける気持ちの強さも素晴らしい」と言い、「ほれ直した。自分の一方的な片思いなので、これからも好きでい続けさせてください」と頭を下げたのだった。

その後、彩花の会社と神崎の会社のプロジェクトは契約締結に至った。そして、神崎はプロジェクト管理者として彩花の会社に出向することになり、彩花とは毎日のように顔を合わせる関係になった。それを機に、瑠美は、あからさまに彩花と神崎を交際させようと画策するようになり、彩花も瑠美の誘いを断り切れずに神崎と昼食を一緒に食べるようなことが何度かあった。瑠美は、食後のコーヒーが届くころになると「後はお二人で」と含み笑いをして自分の勘定だけを残して退席するのが常だった。ただ、二人で残されても、彩花が神崎に特段話しかける内容もなく、多くの時間は沈黙のままに過ぎることが多かった。

神崎は、毎日のように彩花を目にするようになって、彩花への思いを一方的に募らせていった。彩花が交際している優斗とは当面は会えないと聞いたことも、自分にチャンスが巡ってきていると感じた。そこで、給料の半年分に相当するダイヤモンドの婚約指輪を購入した。指輪サイズの号数は、彩花と瑠美が話をしている中で偶然知り得た彩花の薬指に合わせたサイズにすることができた。指輪ができた月が彩花の誕生月であることも神崎には、何か運命のように感じられた。

突然のプロポーズ

その日は彩花の誕生日だった。前日に優斗から連絡を受け、久しぶりに優斗と会う約束ができたため、少しおしゃれをして出勤し、定時で退社できるように仕事もいつもより急いで切り上げるようにした。神崎は、瑠美を通じて彩花が退社した時間を聞き、彩花が会社を出る時間帯を待ち構えていた。そして、まるで自分のために着飾ってくれたかのような彩花を目の前にして、神崎は自分のプロポーズが半ば受け入れられたと思った。神崎は喜んで、人目も気にすることなく往来でひざまずいて、彩花に婚約指輪を受け取ってくれるように差し出した。

彩花は即座に拒否した。むしろ、優斗とのデートに割って入ろうとする神崎に怒りを覚えた。その感情のままに、「受け取れません」と強い口調で告げ、その場を足早に立ち去った。残された神崎は、周囲から漏れ聞こえる苦笑に耐えられず、顔を上げることもできずにうつむいたまま、その場を去るしかなかった。その時に浴びた嘲笑が、神崎を深く傷つけ、その苦い思いが、彩花への怒りに転嫁した。彩花に対して精神的苦痛を理由に損害賠償を求めようと動き出すことに時間はかからなかった。

このケースでは、彩花の上司や同僚から、彩花が神崎との交際を一貫して断り続けていたことの証言はすぐにとれた。むしろ、彩花と神崎の仲を取り持とうと半ば強引に彩花を昼食に連れだしていた瑠美の行為は、パワハラにあたる可能性があるとして社内のコンプライアンス委員会から叱責(しっせき)を受けた。そのような瑠美の行為を見て見ぬふりをしていた山本も管理者責任を問われた。

神崎が一方的に熱を上げていただけで、彩花が何かそそのかして神崎をその気にさせたのではないことは、神崎自身も認めるところだった。一時の感情の爆発で訴訟を起こすと振り上げたこぶしも、神崎が冷静になってみると大人げない行為だったと反省することになった。6カ月間の出向期間を終えて、神崎は元の会社に戻り、その後、彩花と関わり合いになることはなくなった。

その後、彩花は優斗と結婚し、妊娠を機に退社した。優斗の作家としての成功は大きなものではなかったが、会社員務めを続けることと変わらないくらいの収入は得ることができるようになったため、優斗からプロポーズして結婚に踏み切った。彩花は、優斗が作家として大成功しなかったことが、かえって良かったと思っている。自分が常にそばにいて優斗を支えてあげられることがうれしかった。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

文/風間 浩

Finasee編集部

金融事情・現場に精通するスタッフ陣が、目に見えない「金融」を見える化し、わかりやすく伝える記事を発信します。

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