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父の入院を通じて…「自分が要介護になったら誰が手続きを?」50代独身男性の複雑な胸中

Finasee / 2023年10月26日 17時0分

父の入院を通じて…「自分が要介護になったら誰が手続きを?」50代独身男性の複雑な胸中

Finasee(フィナシー)

大輔さん(男性、52歳)は食品会社で営業部に所属する会社員。いわゆる“バツイチ”で、離婚して以来ずっと父(82歳)、母(79歳)と同居しています。大輔さんには兄と妹がいますが、2人とも他県に住んでいます。

ある時、父が事故に遭って大けがを負い入院することに。やがて、入院生活の終わりが見えてきましたが、1つの問題に行き当たります。それは、事故前ほど足が動かない状態の父にとって、書斎が2階、トイレは1階、手すりもない自宅は生活する上では非常に不便だということ。

大輔さんはソーシャルワーカーから、介護保険の申請を勧められますが、父にその話をすると急に不機嫌になってしまったのでした。

●前編:「まだ世話になる必要はない!」80代父が要介護認定や手すり設置を拒否した“言い分”

会社で貴重な情報源を発見

次の日、すぐに仕事をする気にならずに、社員向けのホームページをのぞいていたところ、介護のページがあることに気づきました。これまでも見ていたはずですが、目に入っていなかったようです。

会社で利用できる、柔軟に働ける制度のほか、介護をしている社員同士が交流する掲示板がありました。親だけでなく、配偶者や子どもの介護をしている人の話もあり、普段一緒に働いている人たちも、みんないろいろと苦労があるのだなあと、改めて周りを見回してしまいました。何人かは名前を知っていますが、皆、仕事ができる印象です。そういえば、その人たちはあまり残業をせずに、会議でもハキハキ話して効率的に物事を進めているような気がします。

思い切って大輔さんも今の状況を書き込んでみました。早速、要介護認定がどのくらいになるか、認定調査の時に少し聞いておいて、段取りをするのがいいとか、ケアマネジャーの選び方など、アドバイスが返ってきました。同じ会社で働いている人のリアルな話は、どこで聞くよりも参考になります。

大輔さん自身は独身なこともあり、残業せずに早く帰ろうという気持ちはこれまでほぼなかったのですが、もしかしたら働き方を見直すきっかけになるのかもしれません。

介護休業・休暇=「介護をするために休む」だけに限られない

介護休業や休暇と聞くと、「家族の介護をするために仕事を休む」というイメージがあるかもしれません。ですが、「仕事と介護を両立させるための体制を整える期間」としても位置付けられているのです。

これから大輔さんの父は、日常生活に何らかの手助けが必要な状態で長く生活することになると考えられます。その期間を伴走しながら、大輔さん自身が必要な収入を得て、社会とのつながりを保つために、こういった制度があるのです。

1.介護休業制度

介護が必要な家族1人について、通算して93日まで、3回を上限として分割して休業できる制度で、労働者から会社に申し出ることで利用できます。

また、介護休業期間中は、要件を満たせば雇用保険から休業前の賃金の67%が支給されます(介護休業給付金)。

2.介護休暇制度

介護が必要な家族1人につき、1年度に5日まで、対象家族が2人以上の場合は1年度に10日まで、介護休業や年次有給休暇とは別に1日単位または半日単位で休暇を取得でき、労働者から会社に申し出ることで利用できます。(令和3年1月1日からは、時間単位での取得が可能となりました。)

3.介護のための短時間勤務等の制度

事業主は以下のa~dのいずれかの制度(介護が必要な家族1人につき利用開始から3年間で2回以上の利用が可能な制度)を作らなければならないことになっています。

a 短時間勤務の制度:日単位、週単位、月単位などで勤務時間や勤務日数の短縮を行う制度です。

b フレックスタイム制度:3か月以内の一定の期間の総労働時間を定めておき、労働者がその範囲内で各自の始業・終業時刻を自分で決めて働く制度です。

c 時差出勤の制度:1日の労働時間は変えずに、所定の始業時刻と終業時刻を早めたり、遅くしたりする制度です。

d 労働者が利用する介護サービスの費用の助成その他これに準ずる制度

4.介護のための所定外労働の制限(残業免除の制度)

介護終了まで利用できる残業免除の制度で、労働者から会社に申し出ることで利用できます。

※厚生労働省「介護保険制度について」より抜粋

特に介護休暇は時間単位でも取得できるようになり、役所や病院の手続き、介護保険サービスの手配など、こまごましたことに対応する際にも使えることが期待されています。介護そのものはできるだけ介護保険サービスなどの外部の力を借り、それが父や母の生活に良い結果をもたらすよう手配することが、大輔さんの「介護」における役割といえるでしょう。

子育てと違って、介護はいつどのようなことが必要になるかといった予測が立ちにくいものです。介護離職ゼロを目指した政策で「育児・介護休業法」が定められ、時代に合わせて改定されています。会社勤めをしている方の場合は、できるだけ最新の情報を得て、制度をうまく活用していくことが望ましいでしょう。

あらためて父の望む生活について聞いてみると…

同僚たちのアドバイスをもらって、大輔さんはいきなり介護保険の利用を決めるのではなく、父の望む生活をあらためて聞いてみることにしました。

院内のカフェでコーヒーを飲みながらしばらく黙っていると、自転車に乗れなくなったことや、入院してしばらくはオムツだったことが父にとってとてもショックで、もう歩けないのではないか、家に帰れないのではないかなど心配で気持ちが沈みがちなことなどをぽつりぽつりと打ち明けてくれました。

大輔さんはその間、じっと聞いていました。最後に父は、介護保険について周りの入院患者にも聞いてみたこと、申し訳ないが、家に帰れるのなら利用したいので、手続きを頼みたいと言ってくれました。

これから手続きが大変そうですが、これまでになく弱った父の顔を見ていると、大輔さんは自分がしっかりしなければという気持ちになりました。

そしてふと、自分が父の立場になったら、いったい誰が家から必要なものを持ってきてくれたり、退院の準備をしてくれたり、必要な手続きをしてくれるのだろう、と考えてしまうのでした。

沢村 香苗/日本総合研究所 スペシャリスト

東京大学文学部卒業。同大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻博士課程単位取得済み退学。研究機関勤務を経て、2014年に株式会社日本総合研究所に入社。研究・専門分野は高齢者心理学、消費者行動論で、「高齢者の身元保証人、身元保証等高齢者サポート事業に関する調査研究」など実績多数。著書に『自治体・地域で出来る!シニアのデジタル化が拓く豊かな未来』(学陽書房)。

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