「老後資金2000万円」は本当に必要? “健康な間は働く”前提で試算すると、全く異なる金額に!
Finasee / 2023年10月23日 17時0分
Finasee(フィナシー)
「健康寿命」という言葉をご存じでしょうか。厚生労働省の定義によると「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」とされています。「日常生活が制限される」とは、病院に入院したり、介護を必要としたりして、自立した生活を送れない状態にあることを指します。
これに対して「平均寿命」は、まさに生まれてから亡くなるまでの平均的な期間を指しています。ちなみに日本人の平均寿命は、厚生労働省の簡易生命表によると、2021年、2022年と2年連続で短くなっています。
この背景にあるのが、新型コロナウイルスの影響と言われています。なお2022年における日本人の平均寿命は、男性が81.05歳、女性が87.09歳です。
平均寿命と健康寿命の差は短い方が良い平均寿命と健康寿命の関係ですが、両者のギャップはできるだけ短いのが理想です。
昨今では多くの人が病院で最期を迎えます。最近は「在宅死」を選ぶ人が徐々に増えているなどと言われますが、それでも病院で最期を迎える人の割合は約7割とされています。
当然、病院や施設に入れば、その分だけコストがかかります。老後のお金に対する不安感が拭い去れないのは、自分が動けない状態になった時、それでも日常生活を維持できるだけのお金が十分、手元にないと思っている人が多いからでしょう。
「ピンピンコロリ」などという言葉もありますが、多くの人はできるだけ健康な状態を維持しながら年齢を重ね、健康上の問題で日常生活が制限される期間をなるべく短くしたいと考えています。つまり平均寿命と健康寿命のギャップは、可能な限り短い方が良い、ということになります。
日本人の健康寿命は何歳?では、日本人の健康寿命は何歳なのでしょうか。直近、厚生労働省が発表している健康寿命は2019年時点のもので、男性が72.68歳、女性が75.38歳でした。ちなみに2001年の健康寿命は、男性が69.4歳で女性が72.7歳でしたから、男女ともに3歳前後、伸びたことになります。
ニッセイ基礎研究所の基礎研レポートでは、「2022年の健康寿命はコロナ禍の影響で伸び悩み?」と題して、まだ厚生労働省から発表されていない2022年の健康寿命について、2022年の簡易生命表を用いて、概算値が算出されています。それによると、2022年の健康寿命は、男性が72.57歳、女性が75.46歳でした。この数字は、2019年時点のそれに比べて、男性が0.11歳短くなる一方、女性は0.08歳延びたことになります。
となると、平均寿命から健康寿命を差し引いた年数は、2022年の数字だと男性が8.48年、女性は11.63年です。ちなみに、あまり良い言葉ではありませんが、この平均寿命と健康寿命の差のことを「不健康期間」と言います。
また、同レポートでも指摘されているように、厚生労働省からは、代表的ないくつかの死因について、その死因を除去した場合の平均余命の伸び、特定の死因別死亡確率が公表されています。それによると、新型コロナウイルスによる死亡を除去した場合の2022年の平均寿命は、男性が81.29歳、女性が87.29歳と、少しだけ伸びることになります。
さらに、同レポートでは、新型コロナウイルスによる死亡を除去した場合の健康寿命も計算していて、それによると2022年の健康寿命は、男性が72.71歳、女性が75.56歳でした。
本当に必要な老後資金を考える健康寿命にしても、平均寿命にしても、あくまでも参考値に過ぎません。人の寿命や健康状態は個々人によって差がありますから、健康寿命を過ぎても、なお健康状態を維持できている人もいるでしょうし、平均寿命を超えて長生きする人もいます。
ですから、あくまでも参考値という前提にはなるのですが、健康寿命と平均寿命を押さえておけば、本当の意味でお金が必要な期間をある程度、類推できます。
例えば男性の場合、2022年の数字で考えると健康寿命が72.57歳で、平均寿命が81.05歳ですから、不健康期間は約8.5年です。また女性は健康寿命が75.46歳で、平均寿命が87.09歳ですから、不健康期間は約11.6年です。
上記のように考えると、老後の生活に必要な資金は2000万円だとか3000万円だとか言われますが、不健康期間を乗り切りさえすれば良いとすれば、そこまでの金額が必要なのか、という話になります。
平均寿命・健康寿命から必要な老後資金を計算!よくこの手の話で引き合いに出される老後2000万円問題を例に挙げると、高齢者無職世帯の平均的な家計収支は、月々の実収入が20万9198円、実支出が26万3718円。両者の差額である5万4520円が不足額になり、老後を30年間と想定すると、5万4520円×12カ月×30年=1962万7200円、つまり約2000万円が不足するわけですが、健康寿命に達するまでは自分の身体を使って働くことを前提にすれば、おそらくそこまでの資金は必要ないのかもしれません。
例えば夫婦が同い年で、夫が健康寿命に達するまで働き、不健康期間に入ったら仕事から完全に引退して悠々自適の生活を想定したとしても、妻が平均寿命に達するまでの年数は約14.5年です。
これを前出の老後2000万円問題でモデルケースになった毎月の不足金額である5万4520円で計算すると、14.5年間で必要な資金は948万6480円です。ちなみにこの数字は14年と半年という期間で計算した場合の不足金額です。
しかも、夫婦が同い年であれば、夫の平均寿命である81.05歳以降、女性の平均寿命である87.09歳までの約6年間は、夫婦で暮らしている時に比べて使うお金は減るはずですから、月々の不足金額は5万4520円にはならないと考えられます。
単純に割り切れる話ではありませんが、例えば毎月の不足金額が半分になるとしたら、その額は2万7260円に減額できます。
この場合、夫婦で過ごす不健康期間が8.5年とすると、この間の不足金額は556万1040円。そして、妻が1人で生活する6年間の不足金額は196万2720円ですから、合計で752万3760円になります。
老後資金の不安を払拭するためには?もちろん、あくまでも一定の仮定のもとでの平均値で考えた数字ですから、この通りになるとは言いません。実際、自分が何歳まで生きられるのか、などということは誰にも分かりませんし、明日、交通事故で突然亡くなってしまうことも十分にありえる話です。
老後資金が不安だという声は、さまざまなところで耳にします。その不安のもとは、有り体に言ってしまえば、「老後、どのくらいのお金が必要になるのか分からない」ということに尽きるでしょう。
70代や80代の人に貯蓄する目的を聞くと、「老後に備えるため」という回答が最も多かった、などという話もあるくらいです。
それだけ老後資金が不安なのだと思いますが、その不安感を払拭するためには、これもよく言われることですが、「見える化」が必要です。たとえそれが仮定に基づいた数字であったとしても、具体的な金額が見えると、少しだけ不安感が和らぎます。
今はインターネットを使えば、さまざまなデータを簡単に入手できる時代です。こうして入手した数字を足す、引く、掛ける、割るといった簡単な計算をするだけで、残りの人生に必要なお金の額などを、おおまかに算出できます。「単なる精神安定剤」と言われればそれまでですが、意外と効果があるので、機会があれば試してみてください。
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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