保険は“お守り”ではない―必要な保険・いらない保険を見極める“原則”とは
Finasee / 2023年11月6日 11時0分
Finasee(フィナシー)
「保険」という言葉は、日常会話にも頻繁に出てくることがあります。
例えば、「旅行中に雨が降ると困るから、“保険”として傘を持っていこう」とか、「準備が間に合わなかった時のために、この書類は“保険”として残しておこう」といった風に使います。要は、万が一の時に困らないようにするための備えという意味ですね。
万が一の備えは、モノであったり、人であったり、お金であったりします。
例えば、災害時の持ち出し品を一揃えリュックに入れて準備をするというのは、万が一に「モノ」で備えています。また同様に災害時には近所で声を掛け合って、早めに避難をしましょうというのは「人」で備えています。そして水害にあった家を、修理したり建て直したりするために「お金」で備えるのが、保険です。
このように万が一の備え方は複数あり、それぞれに役割があります。例えば保険商品での備えは、経済的な損失を抑えるためのものなので、心の万が一や思い出の万が一には備えることができません。
従って、保険を考える際に最も重要なことは、「それは保険で備えるべきことなのか」の見極めです。また保険でカバーできる範囲にも限界があることを知る必要があります。なんとなく「お守り代わりに」などと保険を表現することがありますが、保険はお守りではありません。あくまでもある一定の経済的損失に備えるための手段として、過大評価も過小評価もしないように心がけましょう。
国の保険でカバーされない部分を補完するのが民間保険万が一の経済的な損失に備えるための保険は、「国の保険」と「民間保険」の2種類があります。国の保険とは公的保険、健康保険や介護保険、年金や雇用保険といったものです。この2つはいずれも同じ保険ですが、それぞれ役割が異なります。
いつでもメインとなるのは国の保険です。国の保険は、日本に住むすべての人が加入していますが、万が一の際の受取額は年金加入歴によって異なるので注意が必要です。そもそもの役割は「防貧」といって貧しくならないようにすること、がコンセプトなので、それだけでは求める保障には足りないというケースがあります。
そのような不足する保障を補完するのが民間保険の役割です。万が一の保障を考える時は、まず国の保険でどの程度カバーされるのかを確認し、それでも不足する部分を民間保険で補うという順番を忘れないでおきましょう。
病気やけがで働けない場合に備える時は、収入の減少と医療費負担の増加にいかに備えるかを考えます。収入の減少に備える国の保険は健康保険の傷病手当金です。会社員の場合、給与の約3分の2が1年半保障されます。ただし、傷病手当金は被用者保険のみの給付ですから、扶養されている方や国民健康保険の加入者には給付がありません。
医療費の負担の増加に備えるためには、健康保険の高額療養費について確認します。これは健康保険適用の医療サービスを受けた場合の1カ月に支払う医療費の上限です。この金額は収入によって異なりますし、組合健保に加入している場合は付加給付がえられることもあります。
国の保険で、収入がどの程度カバーされるのか、医療費の負担をいくらまでしなければいけないのかが分かったら、そのマイナスをいかにカバーするのか対策をたてます。その一つの方法が民間の医療保険です。
さらに病気療養が長くなったり、障害が残ったりした際は障害年金が支給されます。こちらも初診日時点の加入していた年金の種類によって、金額が異なりますので確認してください。
家族が亡くなった時に備える時もまず国の保険を確認します。この場合は、遺族年金です。遺族年金は国民年金から遺族基礎年金、厚生年金から遺族厚生年金が支給されます。遺族基礎年金は原則18歳以下の子どもが残された場合に支給され、遺族厚生年金は主に配偶者に終身で支給されます。
この金額は、亡くなった方の年金加入歴等で計算がされます。確認するためには、年金事務所やファイナンシャルプランナーに「ねんきん定期便」を持参して試算してもらいましょう。
万が一家族が今、亡くなったらという前提で、遺族年金は100万円おりることが分かったとしましょう。次は、この遺族年金で遺族の暮らしがまかなえるのかを考えます。例えば年間200万円不足するのであればそれが民間の生命保険の目安です。
遺族年金の額は、時間を追うごとに変化します。同様に遺族が必要する金額も変化します。従って民間保険を考える場合は、ライフプランも複数試算した上で選ぶと良いでしょう。また国の保険である遺族年金は、働き方によっても金額が異なります。会社員が亡くなると加入していた厚生年金から配偶者に対し終身で遺族厚生年金が支給されますが、会社を辞めたあとの死亡の場合は、一定の条件を満たさない限り遺族厚生年金は支給されません。
また遺族年金は男女で給付が異なるので、特に共働きの方は、しっかりと我が家の万が一における国の保険を理解し、不足のないよう民間保険も準備しましょう。
さらに高齢期における保障として、年金生活になった後の万が一の備えも考えましょう。それぞれが受け取っていた老齢基礎年金は、対象の人が亡くなるとそのまま消滅してしまいますが、遺族厚生年金は状況によって、配偶者に支給されます。
長生きに備える時もまずは国の保険からチェックします。老齢年金は、過去分の年金加入歴における老齢年金額はねんきん定期便で確認が可能ですが、その金額がそのまま65歳以降の老齢年金になるわけではありません。
この金額は、これからの働き方により金額が異なるので、やはり年金事務所やファイナンシャルプランナーに相談して試算してもらいます。そしてその上で不足すると感じた金額をiDeCoやNISA、あるいは個人年金保険等の金融商品を使い用意します。
以上のように、年金には老齢年金の他、障害年金と遺族年金と給付があります。年金を貯蓄だと思って、いくら払っていくらもらうと誤解してしまうと、損得勘定で判断してしまいます。しかし本来年金は保険なので、その本質を理解し自分の生活に活用していただきたいと考えます。
お金の価値や資産を守るための行動とは…忘れがちですが、保険はお金にもかける必要があります。
例えば、将来のインフレに備え、物価上昇に負けない資産運用をするというのもお金に保険をかけるという行為です。
特に日本の年金は持続可能性を維持するためにマクロ経済スライドが適用されるため、物価上昇率より遅れた形で金額が決定することになっています。そのため長生きに備えてお金に保険を掛ける必要性があります。
また相続税対策として民間保険を活用するという場面もあります。相続の際には、基礎控除の他に、「500万円×法定相続人」の数という公式で求められる金額が保険金の控除として別に設けられています。
つまり相続財産が現金で5000万円あり法定相続人が3人だとすると、基礎控除が3000万円+600万円×3人=4800万円となり差分の200万円が課税対象となります。しかしこのうち3500万円が現預金で1500万円が生命保険であれば、別に500万円×3人=1500万円の控除が適用になります。すると現預金の3500万円は基礎控除内に、生命保険の1500万円は生命保険控除内におさまるため、相続税支払いはゼロとなります。
このように必要な保険を考える際には、まずは国の保険を確認してください。あくまでも民間保険は、経済的損失をカバーするために、そして公的保険ではカバーしきれないところをカバーするものと心得てお考えください。
山中 伸枝/ファイナンシャルプランナー
FP相談ねっと代表。1993年米国オハイオ州立大学ビジネス学部卒業後、メーカーに勤務。これからはひとりひとりが自らの知識と信念で自分の人生を切り開いていく時代と痛感し、お金のアドバイザーであるファイナンシャルプランナー(FP)として2002年に独立。年金と資産運用、特に確定拠出年金やNISAの講演、ライフプラン相談を多数手掛ける。『50歳を過ぎたらやってはいけないお金の話』(東洋経済新報社)ほか著書多数、金融庁サイト 有識者コラム連載。心とお財布を幸せにする専門家、ファイナンシャルプランナー(CFP®)、株式会社アセット・アドバンテージ代表取締役、一般社団法人公的保険アドバイザー協会理事。
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