巨額損失から過去最高益へ 日立製作所が行った“劇的な”改革
Finasee / 2023年10月31日 17時0分
Finasee(フィナシー)
日立製作所に投資家の目が集まっています。株価は2023年9月末で9275円と3年前(3543円)の2.6倍に値上がりしました。業績も好調で2023年3月期は最高益を更新しました。2024年3月期は減収減益の予想ですが、投資家の期待は高いようです。
【日立製作所の業績】
売上高 純利益 2022年3月期 10兆2466億円 5835億円 2023年3月期 10兆8812億円 6491億円 2024年3月期(予想) 8兆8000億円 5000億円※2024年3月期(予想)は同第1四半期時点の同社の予想
出所:日立製作所 決算短信
【日立製作所の株価(2020年9月~2023年9月)】
出所:Investing.comより著者作成日立製作所は市場評価性の高さから「JPXプライム150指数」の構成銘柄に選ばれています。同指数は「価値創造が推定される我が国を代表する企業で構成される指数」をコンセプトに、2023年7月から算出される比較的新しい指数です。
日立製作所はグループの再編を経て安定成長を目指す変革期にあります。好調な株価はこの改革が評価されたのかもしれません。
日立製作所はどのような改革を行っているのでしょうか。歴史から振り返ってみましょう。
選定進む「日立の樹」 御三家は全て離脱日立製作所は1920年に設立された企業です。もともとは久原鉱業(現・JX金属)の日立鉱山に設置された工作課として1910年に誕生しました。外国製が主流だった鉱山機械を自作するようになり、社外向けの販売も増えたことから企業として独立します。
日立製作所は巨大なグループを形成することで知られます。連結子会社の数は一時1000社を超えました。「この木なんの木」の歌でおなじみの、たくさんのグループ会社を紹介するテレビCMも有名です。
しかし日立製作所は現在、グループの縮小が進んでいます。連結子会社の数は2023年6月末までに688社まで減少しました。
きっかけは2008年度に計上した巨額損失です。リーマンショックなどの影響で7873億円もの最終損失を計上しました。日立製作所の歴史で最悪の数字だとみられており、これを機に非コア事業の切り離しが進められるようになります。
「日立御三家」と呼ばれた日立化成工業、日立電線、日立金属もグループから姿を消しています。日立化成工業は2008年にグループから独立し、日立電線は2013年に日立金属に吸収され消滅しました。その日立金属も2022年に買収されグループから離脱しています。
3期連続最高益 日立はなにで稼ぐ?グループ再編の効果が出ているのかもしれません。日立製作所は2023年3月期まで3期連続で過去最高益を計上しました。2023年3月期は本業のもうけを表す営業利益(調整後)が100億円ほど増加したこと、法人所得税費用が500億円ほど減少したことが純利益を押し上げました。
【日立製作所の純利益(2019年3月期~2023年3月期)】
出所:日立製作所 有価証券報告書セグメント別業績を確認すると「コネクティブインダストリーズ」が大きく増益したことがわかります。エレベーターや分析・計測機器などの産業用機器、また家電や環境事業などを含む領域です。前期ではITサービスなどの「デジタルシステム&サービス」が最大の収益源でした。増益を受けコネクティブインダストリーズの営業利益が最も大きくなりました。
【セグメント営業利益(調整後)】
2022年3月期 2023年3月期 デジタルシステム&サービス 2681億円 2743億円 グリーンエナジー&モビリティ 382億円 732億円 コネクティブインダストリーズ 2288億円 2805億円 オートモティブシステム 587億円 696億円 その他 234億円 153億円 (参考)連結合計 7382億円 7481億円出所:日立製作所 補足資料
コネクティブインダストリーズ事業をサブセグメントまで掘り下げると「計量分析システム」が好調だったことがわかります。100%子会社の日立ハイテクなどが属する領域で、医療用の分析装置や半導体製造装置などが増益をけん引しました。
【コネクティブインダストリーズ事業のサブセグメント営業利益(調整後)】
2022年3月期 2023年3月期 ビルシステム 674億円 798億円 スマートライフ&エコシステム 250億円 209億円 計測分析システム 587億円 924億円 産業用デジタル 385億円 342億円 ウォーター&エンバイロンメント 164億円 179億円 産業用機器 335億円 406億円出所:日立製作所 補足資料
米ITの巨額買収から2年 フェーズは改革から安定成長へ日立製作所は2021年、アメリカのIT企業グローバルロジックを約9180億円で買収しました。前年のスイスABB社の電力システム事業の買収(約7500億円)を上回り、日立製作所の歴史で過去最大のM&Aとみられています。
グローバルロジック社の買収は報道が先行しました。巨額な買収費用が投資家の不安を誘ったのか、報道直後は株式が売られる展開も見られました。
【日立製作所の株価(日足終値、2021年3月~2021年4月)】
出所:Investing.comより著者作成グローバルロジック買収の狙いはデジタル人材の強化にあるとみられています。日立製作所は2022年に中期経営計画(2022年度~2024年度)を発表しました。これまで進めたグループの再編から安定成長へと主軸を切り替える計画です。
その実現を支えるのが人材戦略です。日立製作所はITサービスを軸にグローバル展開を進めており、優秀なデジタル人材の獲得が急務となっています。グローバルロジックは人材の獲得に長けており、世界各地にリクルーターを配置するほか世界の著名大学とも連携しています。
グローバルロジック買収の効果はすでに表れています。2021年度に6万7000人だったデジタル人材は2022年度に8万3000人にまで増加しました。2024年度までに9万7000人まで増やす計画も公表しています。
【デジタル人材の数】
国内 海外 2021年度 2万9000人 3万8000人 2022年度 4万2000人 4万1000人 2024年度(計画) 3万8000人 5万9000人出所:日立製作所 中期経営計画
デジタル人材はグーグルやアマゾンなどの巨大IT企業との獲得競争が激化しています。日立製作所はグローバルロジック流の採用スキームで優秀な人材を確保し、成長を目指します。
文/若山卓也(わかやまFPサービス)
若山 卓也/金融ライター/証券外務員1種
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。
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