両親と絶縁した授かり婚の末… 娘の面倒を見れない夫に“離婚を決意”した瞬間
Finasee / 2023年11月6日 19時0分
Finasee(フィナシー)
相原七海(27歳)は、5歳になる娘の結愛がちょっとしたことでぐずり出すことが気に障って仕方がないと感じることが多くなっていた。少しきつい口調で結愛を叱ることが重なっているせいか、結愛がぐずり出す頻度が増えていた。以前は、天使のようだと感じたこともあった結愛の笑い声が、ヒステリックな叫び声と代わらないように感じ始めた時、七海は「このままではダメになる」という深い絶望感にさいなまれた。
元夫からたびたび滞るようになった養育費の支払い七海のイライラの原因は、元夫である笹原大輝(27歳)が約束していた養育費の支払いをたびたび滞らせることにあった。しつこく請求すると、その翌日には振り込まれるので、これまで支払いが止まるようなことはなかったが、ほぼ毎回のように請求しないと養育費が支払われないという状態が1年近くにわたって続いていた。大輝のことをよく知っている共通の友人の話によると、どうやら大輝は真剣に結婚を考える女性ができたようだった。そして、ついに、連絡しても養育費が振り込まれないという状態が2カ月連続で続いた時、七海のイライラはピークに達した。その時、七海は……
大学を中退しての「授かり婚」七海と大輝は、中学からの同級生だった。バレーボール部のキャプテンを務めていた大輝とマネージャーだった七海は、一緒にいる時間が長かったこともあって自然と付き合い始めた。高校に上がってもキャプテンとマネージャーという関係が続いた。2人の家が近いこともあって家族ぐるみの付き合いになった。2人が将来を誓い合ったのは高校2年の夏。親にはクラブの合宿に行くと偽って2人だけで一泊旅行に行った時だった。高校を卒業すると七海は、美容師の専門学校に通い、大輝は大学に進学した。大学に進学するとともに親元を離れて一人暮らしを始めた大輝のアパートで七海との同棲生活が始まった。
七海が妊娠に気が付いたのは、自身の専門学校の卒業式の直前だった。美容師の国家試験に向けて準備を進めているところで妊娠を知ったが、秋期(7月~9月)の試験日には安定期に入っていると考えられたため、大輝には「産みたい」と伝えた。当時、大学の2年生だった大輝も、七海と一緒に暮らしていきたいという思いが強く、大学を中退してアルバイトをしていた自動車修理工場に正社員として就職した。大輝の両親は、大輝が大学を辞めることに猛反対し、結婚も認めないと強く主張した。結局、大輝は両親と縁を切ると宣言することになった。そして、七海と生まれてくる子供のために、2LDKのアパートに引っ越し、七海との新しい生活を始めた。新生活のスタートには、高校の部活の後輩たちが家具や食器などを手分けしてプレゼントしてくれて助けられた。
結愛が生まれた頃は、2人とも無我夢中だった。七海の出産は初産だったにもかかわらず、重いツワリに悩まされることもなく、出産時間も比較的短かった。先に出産をしていた友達からは、2度と出産など経験したくないくらいつらかったという話を聞かされていたものの、いざ自分が出産してみると、生まれ落ちた結愛を抱き取った時の感動の大きさが深く心に残り、こんな経験なら何度してもいいと思った。
美容師になるための国家資格も取得できたため、産後3カ月足らずで、七海は美容室に復帰した。資格を取得したことによってアシスタントから正式な美容師となり月収も上がった。幸いなことに、七海の母が七海たちの理解者となり、結愛の面倒をよくみてくれたため、結愛の保育園が決まるまでの間も不安なく2人で働くことができた。七海は、毎日が戦場のようにあわただしく過ぎていったこの頃を、後々、大輝と暮らしていて一番幸せな時期だったと何度も振り返ることになった。
コロナで失職、夫は育児ノイローゼに…七海と大輝の生活が暗転したのは、結愛が1歳の誕生日を迎えた直後、大輝が勤めていた自動車修理工場が倒産してからだ。倒産のきっかけは、経理担当の社員が売り上げを持ち逃げしたことだった。賭け事が好きな社員だったが、違法賭博にまで手を染めていたという。従業員7名の小さな町工場から、1カ月分の売り上げが失われた影響は大きかった。大輝は失職し、その後に始まったコロナ・パンデミックのために、再就職もままならない状態になった。七海の勤める美容室はパンデミックによって2カ月の休業を余儀なくされたものの、その後に再開し、美容室は存続した。
七海は大輝に結愛を託すことで、仕事に打ち込むことができた。結愛の面倒を見るために早めに帰宅する必要がなくなって、時間の許す限り技術力の向上に努め、新しい技法も積極的に身に着けようと先輩美容師と夜遅くまで美容室で過ごすことも少なくなかった。そんな日は、帰宅すると結愛は寝入っていて抱き上げることもできないことが寂しかったが、自分が美容師として能力を高めている実感があり、七海の生活は充実していた。ところが、七海の帰宅が遅くなることが3日も続いた夜、その日は七海が帰った時に結愛がぐずっていた。鳴き声にも力がなく、思わず結愛を抱き上げてみて、その軽さに驚いた。
その頃、結愛はちょうど離乳食から普通食に切り替えている時だった。大人と同じものを同じようには食べられはしなかったが、意識して柔らかい食べ物を用意し、ゆっくり食べさせてあげれば、手間のかかる離乳食を作る必要はなかった。大輝に結愛を任せられたもの、ようやく離乳食を作る必要がなくなっていたことが大きかった。しかし、大輝は結愛の様子を見ながら食べるものを選び、食べる時にも結愛を見守ることができなかったようだ。徐々に結愛に食べさせることをないがしろにし、その頃には結愛のために食事を用意することすらしなくなっていた。その夜、大輝から育児ノイローゼになりそうだと告白された。就職活動もうまくいかず、何をしてほしいのかはっきり伝えられない結愛の面倒は見切れないと大輝はポロポロと涙をこぼした。
母としての選択大輝の姿に家族の危機を感じた七海は、翌日から休職し、大輝の職探しを第一に考える生活に切り替えた。そのかいもあって、大輝は2カ月ほどの求職活動でガソリンスタンドの職を見つけて働き始めた。コロナ禍が日常となり、近所の保育園も再開されたため、七海も復職した。ただ、大輝が休職に専念していた2カ月足らずの間は、家計の収入がゼロだったため、その間に貯蓄のほとんどを吐き出してしまっていた。そして、結愛は大輝を避けるようになっていた。大輝が抱き上げようとすると全身で抵抗し、無理に抱え上げると大泣きをした。
ほどなく、大輝は「俺と結愛とどっちを選ぶ?」と聞いてきた。七海にとって、大輝と結愛は二者択一にできる存在ではなかった。それを知っていながら、質問をしてきた大輝の気持ちを推し量ることが七海にはできなかった。その日から、七海が大輝と別れるまで時間はかからなかった。離婚を切り出した時に、大輝にはどこか安堵(あんど)したようなところさえあった。
ところが、七海と結愛の不幸は、大輝と離婚しただけでは終わらなかった。むしろ、大輝と別れた後に、本当の苦労は始まったのだった。
●母娘2人きりになった七海と結愛の生活に待ち受ける落とし穴とは? 後編「振り込まれない養育費を待つ地獄… 振リ込みを渋る元夫の態度を一変させた“一枚の紙”」にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
文/風間 浩
Finasee編集部
金融事情・現場に精通するスタッフ陣が、目に見えない「金融」を見える化し、わかりやすく伝える記事を発信します。
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