資産形成も大事だが…「資産寿命」を延ばす、「取り崩し」戦略も超重要といえるワケ
Finasee / 2023年11月14日 11時0分
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今注目の書籍の一部を公開して読みどころを紹介するシリーズ。今回は、安心な「取り崩し」の技術について紹介した野尻哲史著『60代からの資産「使い切り」法 今ある資産の寿命を伸ばす賢い「取り崩し」の技術』の一部を特別に公開します(全3回/本記事は第1回)。
※本記事は野尻哲史著『60代からの資産「使い切り」法 今ある資産の寿命を伸ばす賢い「取り崩し」の技術』(日本経済新聞出版)から一部を抜粋・再編集したものです。
「資産活用」ってなんだ?さて、退職後のお金との向き合い方を考えるためには、まず「資産形成」と「資産活用」という2つの言葉を理解しておくべきだと思います。「資産形成」という言葉は最近よく聞くようになったと思いますが、改めて、「それって何?」と聞かれるとどうでしょう。なかには「運用することだろ」と、即答される方もいらっしゃるかもしれません。
正確に定義すると、資産を創り上げていくこと、またはそのプロセスだと考えています。これに対して、「資産活用」とは、創り上げてきた資産をいかにうまく使って生活を豊かにし、その資産の寿命を延ばしていくかということ、またはそのプロセスだといえます。
登山で考える生涯のお金との向き合い方もう少しわかりやすくするために、登山で考えてみましょう。図表1のグラフを見てください。向かって左側が山を登る局面ですが、この時期を資産形成と考えます。山を登る時期は主に現役世代で、資産の大きさを山の高さになぞらえれば、いかに高い山に登ることができるかが大切になってきます。しかし、どのように登るのか、どんなルートで登るのか、どんな装備を用意するのかといったことは登る山の高さや難しさに左右されます。
老後の資産を作り上げるという目的の「登山」であれば、退職時期は頂上に到達したときとなるでしょう。その時に最も資産額が大きくなっていることが望ましいプランといえます。そこからは、下山ルートに入ります。登った山が高ければ高いほど、下りていくときは遠くまで行きつけます。
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しかし、高いからといって慢心して下りていくのではなく、また低いからといって諦めるのではなく、少しでも緩やかな下山ルートを見つけて、少しでも遠くに行きつく努力が必要です。また山の高さに関係なく、知らないうちに下山のスピードが速くなっていたり、無謀な下山ルートに迷い込んだり、といった危険も伴います。ここにもプランが必要になります。
特に重要なのは、計画を立てることです。
資産形成には、マネープランとか、ライフプランが重要だといったことをよく聞きますが、登山だともっと明確です。登山をするときに下山ルートも確認しないまま山に登り始めることは絶対にありません。
これと同様に、資産形成・資産活用という“登山”も、下山ルートである資産の取り崩しを想定したうえで、生涯にわたるライフプランを見据えながら山登りの第一歩を始めることが大切になります。
「資産形成」と「資産運用」は同じものではない先ほどの「資産形成って運用することだろう」という考えも、意外に多くの人が持っているのではないでしょうか。しかし資産形成と資産運用は全く違うものだということも理解しておいてほしい点なのです。
資産形成や資産活用は、達成すべき目標です。例えば、「退職までに2000万円の資産を形成する」という目標であったり、「保有している2000万円の資産を活用して人生を全うする」という目標であったりします。
これに対して、資産運用はそれを達成するための手段の1つです。投資信託などを使った資産運用だけではなく、銀行預金や社内預金などの貯蓄も資産形成の大切な手段です。資産形成は目的で、資産運用は手段なので、「資産形成≠資産運用」という点を忘れないでほしいと思います。
図表1をもう一度見てください。資産運用の横向きの矢印は資産活用の途中で切れています。有価証券を使った資産運用は、高齢になるとなかなか継続できない事態が想定されます。認知・判断能力の低下がそうした理由の一番大きな要因でしょうか。
そのため、最後の10~20年は運用からも完全撤退して資産を取り崩すだけの生活を想定しておいてもいいでしょう。
「資産活用」とは何をすること?資産活用という言葉から読者の皆さんが直感的に考えることは、「保有している資産を不動産や有価証券で運用して収益を生むこと」ではないでしょうか。
しかし、繰り返しになりますが、この本で伝えたいのは、それよりももっと包括的で、複雑なものです。保有する資産を有効に使いながらも、どうすればその資産を長持ちさせられるかという視点です。楽しく使って「資産寿命を延ばす」ということです。
「資産寿命を延ばす」というと、例えば保有する資産を少しずつしか使わなければ、資産は長持ちしますから、これも資産活用の対策とみることができます。
では、取り崩す金額を少なくするためには、何が考えられるでしょうか。
すぐに思いつくのは、節約をして生活費の少ない生活にすることで、取り崩す必要金額を少なくすることでしょう。これは保有する資産が多いか少ないかは関係なく、多くの人ができる対策といえます。
しかし、資産をできるだけ使わないようにすることだけが資産活用ではありません。資産活用は「持っている資産を退職後の生活のために有効に使う」ということです。もちろんそれですっきりと腹落ちするわけではありませんね。実際に資産活用を行おうとすると、いろいろ複雑なことが絡まって、それほど簡単ではありません。
例えば、「どうすれば“有効”に使っているといえるのか」「有効だとしても、使ったらなくなるので、やはりできるだけ使わないようにしたいと思う」などと考えると、右往左往してしまいそうです。「有効」というのは個人の感性も影響するので人それぞれでしょう。
ただ、はっきりしていることはせっかくの退職後の人生なのですから、楽しくなければ意味がありません。お金を荒く使うことが楽しいわけではないでしょうから、自分の生活水準を維持しながら心豊かに生活を楽しむことがまずは大前提です。そのうえで、資産がなくならないようにどうするかを考えるべきです。
ちょっと脱線しますが、最近本屋さんに行ってみると、投資やお金の話の本が多く出ていることに気が付きませんか。でもそれらの本の多くはいわゆるノウハウ本で、こうすると「ちょっとしたお得」がありますよ、といったアイデア満載の本です。
それは大切なアングルですが、先にしっかりとしたお金に対する考え方があってこそ、そうしたアイデア、ノウハウが生きてくるように思います。先にアイデアありきでは、どんどん本質から離れていってしまうように思います。
特に「資産活用」は、実は最近広がり始めたばかりの分野なので、まだまだ基礎が理解されていません。しかもこの本で紹介していく通り、より包括的なアプローチですので、そのためノウハウよりも、そもそも退職したらお金とどう向き合うかという「お金との向き合い方」「お金に対する考え方」を知ることがまず重要だと思います。
この本はそうした視座に立って書いていこうと思います。何か方向感とか、指針のようなものは、人それぞれの退職後の人生のあるべき姿を判断するための核となるものと考えています。
第2回【退職金で危険な運用に手を出す人が後を絶たない…その根本的な理由とは】では、具体的に取り崩しの方法に関して、基礎から解説します。
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野尻哲史著『60代からの資産「使い切り」法 今ある資産の寿命を伸ばす賢い「取り崩し」の技術』(日本経済新聞出版)
野尻 哲史/フィンウェル研究所代表
国内外証券会社調査部を経て2006年から外資系運用会社で投資啓発活動に従事。19年5月に合同会社フィンウェル研究所を設立し代表に。退職後のお金との向き合い方を資産運用だけでなく勤労・移住など多方面から分析する。日本証券アナリスト協会検定会員、行動経済学会等の会員の他、18年9月より金融審議会市場ワーキンググループ、22年9月より同顧客本位タスクフォース、23年10月より同資産運用タスクフォースの委員も務める。『60代からの資産「使い切り」法』(日本経済新聞出版)、「IFAとは何者か」(金融財政事情研究会)など著書多数。
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