頼りになる「お金のなる木」を探す〜株式投資の重要性を理解する
Finasee / 2023年11月15日 17時0分
Finasee(フィナシー)
株式投資が頼りになる?
これまで2回にわたってお話ししてきました『NISAや確定拠出年金で役立つ賢いお金の育て方』。今回はその第3回として、初心者の方々も納得して実行できる資産運用の5つのポイントのうち、最も発想の転換が必要となる考え方をお話しします。
今回のテーマは、“頼りになる「お金のなる木」を探す〜株式投資の重要性を理解する”です。ポイントは株式投資を頼りになる資産運用の方法であると理解していただくことです。おそらく多くの方の印象や認識とは大きく異なるのではないでしょうか。
それでは代表的な「お金のなる木」である、株式と債券および不動産について掘り下げて比較してみましょう。
株式は環境変化に対応する「お金のなる木」前回、価格変動が同じであれば、「お金のなる木」を保有する投資の方が投機に比べて成功可能性が高いことをご説明し、「お金のなる木」の例として株式・債券・不動産を挙げました。今回はこの3つの中でどれが一番投資する上で頼りになるかを考えます。
以下の表で株式・債券・不動産投資の特性を環境変化への対応の観点からまとめました。
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株式投資では、経営者や従業員を雇って自らの代わりに事業を行ってもらいます。したがって、生まれてくるお金の額はその業績によって変動しますが、環境変化に対しては、その経営者や従業員の努力で事業を変革することにより、比較的迅速に対応可能です。
債券投資では、お金を貸し付けた政府や企業にその返済期日や利払いに関して約束をしてもらいます。事前に定めていない限りは、その約束の内容は途中で変更されることはありません。環境が変化してもその条件を変えて対応することはできません。
不動産投資では、保有する不動産を賃貸に出し、賃料などの条件は契約で定めます。契約に盛り込まれていない限りは環境が変化しても、その条件は変更されません。もちろん貸し手と借り手が合意すれば、契約内容の変更も可能ですが、その交渉には時間がかかるでしょう。不動産投資でも環境変化に対しては迅速に対応することはできません。
株式投資だけが、継続保有したままでも、行っている事業の経営者や従業員の努力によって環境変化に対応することができます。
株式は誰でも安心して長期投資ができる「お金のなる木」わが国では株式投資に対する不安感や不信感が根強いようです。株式や株式投資信託が個人金融資産に占める割合も米国などに比べ、依然として低い水準に留まっています。株式は売買で利益を上げようと考えると、価格の変動率も大きく、成功を収めるのは容易ではありません。しかしながら、株式の「お金のなる木」としての面を、長期保有を前提として考えると、全く違う面が見えてきます。
株式は自動操縦機能付きの「お金のなる木」「お金のなる木」としての株式の特性を以下の表にまとめました。
※図をクリックで拡大表示
(万人向き)
株式投資を実行するのはそれほど難しいことではありません。日々買付することも、売却することも可能です。株式投資信託を使えば、少額からでも投資可能です。株式投資のリスクが大きすぎると思う方は、投資金額を減額することでご自身のリスク許容度に合わせて投資可能です。
(全天候型)
株式を通じて投資する企業は、経営者や従業員が技術力やその他知識・経験を総動員して事業を展開しています。世界の企業全体としては収益を上げ続けていますし、これからもその収益性は継続するでしょう。また環境変化にもそれぞれの判断で独自に対応するでしょう。
一方で債券や不動産は、お金のやり取りに関する約束や契約ですので、環境変化には対応できません。マクロ経済(例:金利水準)動向によっては、リターンを上げることが困難な事態も起こり得ます。そのため環境変化には、投資家自らが判断し投資の可否や投資額の増減を決める必要があります。これは投資初心者はもちろんのこと、長期投資を行う場合には、知識と経験が豊富な方にも難しい判断です。
ところが株式の場合には、各企業がそれぞれの得意/専門分野でベストを尽くしていますので、全体としての利益水準がマイナスに落ち込むことは考えにくいでしょう。したがって、環境変化への対応はあえて自らは行わず、各企業の本業での判断に任せることで、投資初心者の方でもある程度は安心して長期投資を行うことができるのではないでしょうか。もちろん、投資対象となるすべての会社が上手く対応できるわけではありませんし、投資している企業の収益よりも株価水準の変動がはるかに大きいことは事実です(後述)。しかし、投資の方法を工夫すれば、これらのリスクにはある程度は対応可能と考えます。この点は次回お話しさせていただきます。
(判断を委ねる)
資産運用に関する知識や経験の豊富な方であればその限りではないかもしれませんが、自らの投資判断で投資対象やタイミングを選ぶことに不安を感じたりする方は多いでしょう。であれば、自らの判断で投資することで少しでも高い運用益を狙うのではなく、世界の優れた上場企業に分担してもらい、彼らの本業のビジネスで皆様のお金を育ててもらう方が賢明ではないでしょうか。自らの金融市場に関わる判断よりも、世界の優良企業の本業での判断の方がより信用できるのではないでしょうか。環境変化への対応も自らは行わず、彼らの判断に任せる方がより正しい対応ができるのではないでしょうか。
(ただし長期で)
優良事業会社に、彼らの本業でお金を育ててもらうことを、資産運用の基本方針とするのであれば、投資した株式は長期保有とする必要があります。事業で利益を上げることは短期間では困難です。株式の対応力を発揮してもらうには、長期投資が必須と考えられます。
ここまでは、お金を育てるための事業判断や環境変化への対応の点では頼りになるのは、債券や不動産ではなく株式であるとのお話をしてきました。
ここからは、今後期待できるリターン水準の観点から、株式・債券・不動産の中で信頼度の高い資産はどれかを考えます。
債券や不動産にはこれまでの追い風が無風あるいは逆風に変化前述の通り債券や不動産は事前に決められたお金を定期的に受け取る約束(債券)もしくは契約(不動産)です。したがって、市場金利が下落し、新規の約束や契約の利回りが従来よりも低下すると、相対的に利回りが高くなった昔の約束や契約の価格は上昇します。逆に市場金利が上昇し、より利回りの高い約束や契約が新たに市場に出てくると、相対的に利回りが低下した古い約束や契約の価格は下落します。
以下のグラフは世界の主要3カ国の10年国債の利回りの過去30年超にわたる変化を示しています。2020年までの約30年間は主要国の長期債利回りは低下を続けたため、その間債券投資では金利低下の強い追い風を受けて好調な運用成績を挙げることができました。しかしながら、その後米国やドイツでは利回りが底打ちし、逆に金利上昇トレンドに入っています。また日本ではこれ以上低下しない水準まで利回りが低下した後に底這っているため、金利動向は追い風から無風に変わっています。
※図をクリックで拡大表示
債券や不動産投資から期待できるリターンは、特に国内市場ではこれまでとは大きく異なる低い水準となるでしょう。長期にわたる金利低下で既に利回り自体が低い水準となっていることに加えて、今後は金利低下の追い風が期待できないためです。米国や欧州市場では、先行して金利上昇に転じており、今後の逆風の可能性や影響度は大きくないかもしれませんが、為替リスクを負うことになります。
したがって、長期投資の対象としては、債券や不動産は信頼度の高い「お金のなる木」とは考えられません。また、債券や不動産の過去の(特に長期の)運用成績を参照する際には、金利低下の影響の大きさに注意が必要です。 過去の実績はあくまでも追い風参考記録と考えるべきでしょう。
株式からは債券よりも高いリターンを今後も期待以下は前回ご説明しました預金金利、貸出金利と株式のリターンの関係を示したものです。
前回の復習も兼ねてお話しすると
株主に対する期待リターンの考え方
(1)企業の純利益率の期待値>0
企業は、貸出し金利や諸経費を賄っても十分利益が見込める事業しか取り組まない
(2)株主リターンの期待値>貸出し金利
企業は、貸出し金利を充分に上回るリターンを提供できなければ、リスクの高い株式を通じて投資家から資金を集められない
よって、株主へのリターンの期待値(ROE)>貸出し金利(社債利回り)>Oとなると考えられます。実際のデータはどうなっているでしょうか。確認してみましょう。
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2001年以降では現在に至るまで2008年の世界金融危機やコロナ禍を始めいくつかの経済的なショックがあったにも関わらず、平均ROEの水準は比較的安定しており、前回と今回でご説明した金融市場の原則から考えられる関係がデータで裏付けられています。2022年までの22年間の平均は10%を超え、結果として社債利回りもほぼ毎年上回っています。言い換えれば、これらの企業の株式の価値は年間10%という債券利回りも超えるペースで増えており、もしこれらの会社に投資していたら保有株式の価値も年間10%を超えるペースで育ったことになります。
この関係は金融市場が現在の形で存続する限り継続するはずですので、今後も、
企業のROE>借入金利回り>0
の関係は続くでしょう。つまり期待リターンの点からも株式が頼りになると言えます。
景気の波を乗り越えながらも平均10%を超え、しかも比較的安定したROEの水準でリターンを上げる資産運用ができましたら本稿も終了できるのですが、残念ながら資産運用はそれほど単純ではありません。
理由は、大きく変動する株価です。毎日変動する株価でしか株式を売買できず、結果として株式投資のリターンはその株価水準で大きく左右されてしまうためです。
先ほど見ていただいたグラフに世界株式指数の各年の円建てのリターンを加えてみました。先ほどと同じグラフですが、株式指数の変動が大きいため縦軸のスケールを変えています。ROEの水準が意味がなくなる大きさで株価が変動していることがお分かりいただけると思います。
※図をクリックで拡大表示
それではこの株価の変動にはどのように対処すればよいでしょうか? どうすれば不安感を軽減することができるでしょうか? また投資対象となる企業間での較差はどのように解消すれば良いでしょうか?
次回(第4回)は、頼りになる株式投資を自信を持って行う方法や考え方についてお話しします。
篠原 滋/株式会社お金の育て方 代表取締役/資産運用ナビゲーター
1996年に野村證券株式会社にて投資信託分析・評価業務を立ち上げ、独自の定性評価中心のプロセスを確立。2000年の野村ファンド・リサーチ・アンド・テクノロジー株式会社(“NFR&T”、野村フィデュシャリー・リサーチ・アンド・コンサルティング株式会社(”NFRC”)の前身)設立を経て、25年にわたり東京、ニューヨーク、ロンドンを拠点に国内外の多数の運用会社/ファンドの分析調査及び選定ファンドの組み合わせによる投資助言に従事。2021年9月に独立し、独自の視点に基づく合理的な資産運用並びに投資信託活用に関する情報発信を開始。2022年6月に株式会社お金の育て方設立に参加し代表取締役に就任。国際基督教大学教養学部卒。米国ニューヨーク大学スターン経営大学院経営学修士(MBA)課程修了。
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