振り込まれない養育費を待つ地獄… 振リ込みを渋る元夫の態度を一変させた“一枚の紙”
Finasee / 2023年11月6日 19時0分
Finasee(フィナシー)
<前編のあらすじ>
相原七海(27歳)は中学の同級生だった笹原大輝(27歳)と恋人同士だった。大輝が大学2年の時に七海の妊娠が発覚し、両親の猛反対を押し切って大学を中退し結婚をする。ほどなく世の中はコロナ・パンデミックとなり、失職した大輝に娘を任せて美容師だった七海は復職をするが、大輝の娘に対するネグレクトともとれる行動をきっかけに、七海は離婚という選択をした。
母娘2人の生活を手にした2人だったが……。
●前編:両親と絶縁した授かり婚の末… 娘の面倒を見れない夫に“離婚を決意”した瞬間
約束は公正証書で大輝とは、結愛が成人するまでは、毎月養育費として3万円を支払うことで合意し、それを公正証書にして公証役場に届け出た。公証人への依頼など公正証書の作成は手間がかかったが、七海は結愛の将来を大きく左右すると考えて、証書の作成にこだわった。結果的に、頑張って公正証書にしたことが、大輝からの養育費を確保する上で、大きな力になった。大輝が支払いを渋りながらも、最終的には支払いを実行したのは、公正証書によって強制執行が可能になることを、証書の作成時に公証人から聞かされていたためだと考えられた。また、証書を作成したことによって、養育費の支払いは、それぞれの再婚を理由に減額や打ち切りになることはないということもお互いに確認していた。
七海が養育費にこだわったのは、美容室での収入は不安定なところがあり、常に支出を伴う子育ての費用は、しっかり用意しておきたいと考えたことが大きかった。結愛の養育費は、もらい始めた時から投資信託の積立を始め、結愛が18歳になるまでは継続して積み立てるつもりだった。幸いにして積立投資の成果は出始め、2年間で元本は72万円だったが、評価額は100万円を上回っていた。収入が減った分は、生活を切り詰めることでやり繰りできたものの、収入の一部を貯蓄に回す余裕はなかった。結愛の将来のための資金は、大輝から振り込まれる養育費を積立投資することで用意する心づもりだ。その残高が増えていくことに、七海は安心と同時に満足感も感じていた。
振り込まれない養育費ところが、大輝からの養育費の振り込みが期日までに行われないことが当たり前になってきた。その当時、七海の体調が優れず、美容室の就労時間を短くしてもらっていたため収入が減り、振り込みが途絶えたことに対する七海のショックは大きかった。最初はメッセージアプリのLINEで催促すると、翌日には振り込みが実行されたが、次第に電話をしないと振り込まれなくなり、ついには、いくら催促しても養育費が振り込まれなくなってしまった。この間、七海にとっては、養育費の振り込みを待つことが生活の全てになっていった。月末までに振り込みがないと、催促して振り込みが確認できるまでは、養育費が振り込まれないことが頭から離れなかった。後になって振り返れば、ただ単に、結愛の将来のための積立が一時的に滞っているだけであり、日々の生活に困るようなこともなく、養育費のことを考えなければ、平穏な日々が続いていたのだった。
ただ当時、体調も思わしくなく、生活にゆとりを失くしていた七海には、大輝の行いが自分たちを日一日と追い込んでいるように感じられた。そのような七海の不安定な毎日が結愛にも不安を与え、結愛がすぐに泣きだすようになるのも、大輝からの振り込みが遅れている期間だった。
振り込みを待つ“地獄”その日は月末で、前月末に振り込みがなく、初めて1カ月以上にわたって振り込みがないことになっていた。七海は、その日は遅番で夕方から美容室に出勤すればよかったのだが、午後3時になっても振り込みがないことが分かった時に、七海の気力がプツリと音を立てて切れた。その日は、結愛を保育園に連れていく気にもならず、5分間と間を置かずスマホで銀行残高のチェックをしていた。おなかをすかした結愛が何か食べたいと言ってきた時も、結愛を払いのけるようにしてスマホにかじりついていた。
七海のことを心配して美容室のスタッフが七海のアパートにやってきた時は、すでに、午後10時を過ぎていた。七海は銀行の残高を確認したスマートフォンを握りしめテーブルに座ったまま気を失っていた。その七海の膝にすがりつくようにして泣きつかれた結愛が眠っていた。
自分の膝に置かれた結愛の手の小ささに、七海はショックを受けた。保育園も年中さんになり、すっかりお姉ちゃんになったと思っていたものの、実際の結愛の手はまだ小さく、しっかり守ってやらなければならないもろい存在なのだと思い知った。泣きはらした目、呼吸をするたびに震える小さな唇を見ているうちに、七海はずっと結愛のことを見てやれていなかったことが思い起こされ涙が込み上げてきた。
養育費の支払いは契約に基づく債務この日を境に、七海は大輝のことを弁護士に任せることにした。大輝から振り込まれる養育費のことを思い悩むことで、多くの時間を費やしていたことがばからしく思えた。そのために、結愛と一緒に公園に行ったり、結愛が好きなお菓子を一緒に作るようなこともしなくなっていた。結愛との一緒の時間を、楽しみの時間にすることがなくなってしまっていたのだ。結愛がぐずっていたのは、七海が生活の余裕を失ってしまっていることを結愛なりに悟らせてくれようとしていたのだった。
弁護士が間に立ったことで、大輝の態度は一変した。養育費の支払いが、契約に基づく債務であることを改めて自覚し、それからは、月末までの期日に遅れることなく養育費が振り込まれるようになった。七海は、改めて、離婚の際に養育費について公正証書を作っていたことに安堵(あんど)した。口約束や誓約書ではなく、公正証書にしておいたことで大輝もすぐに態度を改めることになったと弁護士から聞いた。
養育費の不安から解放されたためか、七海の体調はみるみる良くなった。半年もたたないうちにフルタイムの仕事ができるようになった。七海が不安から解放されたことで結愛の態度も落ち着き、七海と結愛との暮らしは、活気のある笑顔の絶えない日常に戻った。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
文/風間 浩
Finasee編集部
金融事情・現場に精通するスタッフ陣が、目に見えない「金融」を見える化し、わかりやすく伝える記事を発信します。
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