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「米ドル建て定期預金」の利率が年0.01%→5.30%に急上昇…一体なぜ?

Finasee / 2023年11月2日 17時0分

「米ドル建て定期預金」の利率が年0.01%→5.30%に急上昇…一体なぜ?

Finasee(フィナシー)

ニュースといっても少し古い話で恐縮ですが、9月25日に三井住友銀行が、パーソナル外貨定期預金(米ドル)の利率を大幅に引き上げ、ちょっとした話題になりました。

何しろ、それまで年0.01%だった6カ月物、および1年物に適用された利率が、9月25日から一気に年5.30%に引き上げられたのですから、話題になるのは当然でしょう。

年0.01%が0.05%、0.10%、0.50%、1.00%というように、外貨預金を含む預金の利率は段階的に上がっていくものですが、今回は年0.01%が一気に年5.30%ですから、いぶかしがる声が出るのも、何ら不思議はありません。

なぜ、ここまで急な利率の引き上げを行ったのか。今回は、そこを詳しく調べてみました。

パーソナル外貨定期預金の商品内容

まず、パーソナル外貨定期預金とはどういう商品なのか、という点を簡単に説明しておきましょう。

といっても単なる外貨定期預金です。取引金額は10万円相当額から預け入れが可能となっています。1ドル=150円だとすると、米ドル換算で最低666ドルからの預け入れが可能です。預入期間は1カ月、2カ月、3カ月、6カ月、1年の5種類。通貨は米ドル、ユーロ、英ポンド、スイスフラン、オーストラリアドル、ニュージーランドドルの6通貨です。

そして今回、上記6通貨のうち、年5.30%という高い利率が提示されたのは、実は米ドルのみでした。この理由については後述しますが、米ドル以外の外貨定期預金に適用されている利率は、これまでと同様、1カ月から1年までのすべての預入期間について、年0.01%が適用されています。少しだけヒントを申し上げますと、米ドルについてこれだけ利率を引き上げなければならない事情があった、ということです。

さて、確かに年5.30%は魅力的に映ります。しかし、外貨定期預金には為替手数料というコストがかかることを忘れてはいけません。

最近はだいぶん為替手数料を引き下げる動きもありますが、パーソナル外貨定期預金の場合、銀行の店頭で3万米ドル以上を預け入れれば通常の半額の為替手数料が適用されるものの、通常は片道1円が取られます。

「片道」というのは、円を米ドルに替える時、もしくは米ドルを円に替える時のいずれかを指しています。基本的に大半の人は、円を米ドルに替えて預け、満期が来たら米ドルを円に替えて手元に戻しますから、往復の為替手数料がかかることを考慮しておく必要があります。したがって、1米ドルにつき2円の為替手数料がコストになると考えるべきでしょう。

仮に1米ドル=150円で外貨定期預金を作成した場合、1米ドルにつき2円の為替手数料がかかるということは、そのコスト負担を率にすると1.33%になります。つまり、表面的には年5.30%の利率であったとしても、預入期間が1年と仮定した場合の実質の利率は年3.97%になります。外貨定期預金を選ぶ際は、各銀行の為替手数料に注意する必要があります。

米ドルの金利だけが一気に引き上げられた理由とは?

では、なぜ一気にパーソナル外貨定期預金(米ドル)の利率が、年0.01%から年5.30%に引き上げられたのでしょうか。

第一の理由は周知されているように、米国の金利上昇による影響です。ここ2年くらい米国ではインフレが急伸していて、金利水準が上昇傾向をたどっていました。米国を代表する金利である10年国債の利回りは、コロナショック前後の2020年3月9日時点で0.521%程度だったのが、2023年10月19日には4.98%まで上昇しました。

また、それよりもさらに期間の短い1年物になると、2020年3月9日が0.31%で、2023年10月19日は5.44%です。

このように、米国金利が上昇していることを見れば、確かに米ドル建て定期預金の利率が年5.30%に引き上げられるのも当然だと思われます。ただ、いささか納得できないのは、なぜ9月24日まで年0.01%だったのか、ということです。

米国1年国債の利回りを見ると、2021年中は0.04%~0.39%で推移していましたが、2022年に入ってからは連邦準備制度理事会(FRB)による金融引き締め政策を反映して上昇傾向をたどり、2月には1%台、4月に2%台、7月に3%台、9月に4%台というように水準を切り上げ、12月末には4.71%まで上昇しました。そして、2023年5月以降は5%台で推移しています。

このように、米国における市場金利が上昇しているにも関わらず、なぜか1年物米ドル建て定期預金の利率は、年0.01%に据え置かれ続けたのです。

銀行は、預金を通じて集めた資金を、主に企業に対して貸し付けて、貸付金利と預金金利の間にある利ざやを収益にしています。

したがって銀行から見れば、預金金利をできるだけ低く、貸出金利をできるだけ高めた方が、より大きな利ざやを取れることになります。そう考えると、年0.01%という低い利率で米ドル建て定期預金を集め、それを年4%前後の利率で貸し出すことができれば、銀行は非常に大きな利ざやを稼げることになります。

ようやく、ここに来て米ドル建て定期預金の利率を引き上げてきたものの、すでに米国の金利は上昇の一途をたどっていたことからすると、これは少々うがった見方になりますが、銀行側はあえて米ドル建て定期預金の利率を低めに抑えていたのかも知れません。しかし、そう言っていられないような状況に、追い込まれたということなのでしょう。

そもそも米ドルの流通量が大幅に減っている

恐らく今回、三井住友銀行がパーソナル外貨定期預金(米ドル)の利率を一気に引き上げた根本的な要因は、世界中で流通している米ドルの流通量そのものが大幅に減ってきたからだと思われます。

新型コロナウイルスが感染拡大する以前からもそうでしたが、特にパンデミックが深刻化した時、米国の中央銀行組織であるFRBは、大幅な金融緩和を行いました。こうした過剰流動性があったからこそ、米国の株価はコロナショックでいったん大きく下落しながらも、あっという間にその下げ分を埋めて、過去最高値を更新できたのです。まさに、世界中に米ドルがあふれかえっていたからこそできた技です。

しかし、こうした過剰流動性はインフレを引き起こします。特に今回は米国内外で、インフレ要因が重なりました。

米国内では、コロナ禍が治まって経済が正常化へと向かうなか、本来ならコロナ禍でレイオフされていた人々が労働市場に戻ってくるかと思われていたのが、各種給付金などによって手元資金が豊かになったがために、労働意欲が大幅に後退しました。結果、さまざまな仕事の現場で人材不足が生じ、高い報酬で人材確保が行われました。

また、米国外では地政学リスクの高まりが、物価の押し上げ要因になりました。ロシアによるウクライナ侵攻を受けて資源・エネルギー価格、あるいは食料価格が上昇したことに加え、米中対立の深刻化により、安い労働力を存分に活用できた中国をサプライチェーンから外す動きも出てきました。

これらはすべてインフレ要因です。このインフレを解消するため、FRBはこれまで大きく緩和していた金融を、一気に引き締めました。金融引き締めとは、過剰流動性を回収することです。結果、世の中に出回っている米ドルの流通量が減少してきたのです。

他のメガバンクの金利も引き上げられる?

さらに問題なのは、このように米ドルの流通量は減ったにも関わらず、米ドルに対する需要が、なかなか後退しないことです。

2021年8月、米国議会の超党派によって可決された「インフラ投資および雇用に関する法律」で、世界中に散らばっていた米企業の生産拠点を、米国内に回帰させる動きが生じています。当然、米国国内に生産拠点を新たに設けるとなれば、米ドルが必要になります。

つまり米ドルには、需要増と供給減という、相反する2つの動きが同時に生じており、ますます米ドル不足が加速しているのです。三井住友銀行のパーソナル外貨定期預金の利率が、米ドルのみ大幅に引き上げられたのは、それだけ米ドル不足が深刻化しているからだと推察されます。

米ドル不足が深刻化しているなかで、日本国内ではネット銀行を中心にして、米ドル建て定期預金の利率を大きく引き上げる動きが広まってきました。たとえばSBI新生銀行のパワーフレックス外貨定期預金の米ドル建て1年定期預金の利率は、年6.00%が適用されています。

結果、いよいよメガバンクも米ドル建て定期預金の利率を、競合並みに引き上げざるを得ない状況に直面しました。

現状、三井住友銀行以外のメガバンクが扱っている米ドル建て定期預金の利率は、キャンペーンを除くと年0.01%で横並びですが、いずれ三井住友銀行並みに引き上げてくるところが出てきても、おかしくないでしょう。

鈴木 雅光/金融ジャーナリスト

有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。

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