利用していた資産運用会社が統合・撤退したらどうなる…? 生じ得る影響とリスク回避方法を解説
Finasee / 2023年11月8日 11時0分
Finasee(フィナシー)
もしも、自分のお金を運用してくれている資産運用会社が、ある日突然、経営破綻に陥ったり、経営破綻しないまでも資産運用ビジネスから撤退したり、あるいは外資系資産運用会社であれば、日本市場から撤退したりしたら、どうなるでしょうか?
2027年の資産運用業界はどうなっている?コンサルティング会社であるPwCが「資産運用業界における変革への対応」というレポートを出しました。同社が行ったグローバル・アセット&ウェルス・マネジメント・サーベイによる、2027年の業界予測で、グローバルの資産運用会社および機関投資家それぞれ250名を対象にした調査をもとにした内容です。
レポートの内容をかいつまんで紹介すると、
「2022年の運用資産残高は過去最高を更新した2021年を10%近く下回る厳しい環境だった。今後2年間はインフレや市場のボラティリティ、金利動向が最大の懸案事項になる」とはいえ、「世界経済は再び成長に向かい、資産運用収益は2027年までに過去最高を更新する見通し。総収益に占める割合は、アクティブ運用が低下傾向をたどる一方、プライベートマーケット運用が大きく伸びる」とのことです。
ちなみにプライベートマーケットとは、未上場企業株式に投資するプライベートエクイティファンド、非上場リート、流動性は低いけれども長期的に高い収益性が期待される資産クラスに投資するインターバルファンドなどを指します。
日本では個人向けに開放されていない資産クラスですが、米国では100万ドルの投資可能資産(純資産)を持っている富裕層を中心にして、徐々に投資機会が認められています。
また、アクティブ運用が獲得する資産運用収益が低下傾向をたどるということは、それだけ資産運用ビジネスにおけるアクティブ運用のシェアが下がるかもしれないことを示唆しています。
総経費率の低下で注目される商品それと同時に、2027年までにアクティブ運用の総経費率が0.59%に、パッシブファンドの総経費率が0.13%に低下することも指摘しています。
日本でも信託報酬だけでなく、目論見書の作成費用やライセンス費用、売買手数料などを含めた総経費率を、2024年4月から目論見書等に記載することが義務付けられました。今後、投資信託で運用する際のコストを把握するうえで、総経費率の考え方が一般化していくでしょう。
それはさておき、アクティブ型の総経費率が低下し、かつ獲得する資産運用収益が低下傾向をたどることになると、運用会社としてはアクティブ型を運用し続ける意義がどこにあるのか、という疑問に直面せざるを得なくなるでしょう。
また同レポートでは、こうした環境下で注目される商品として、ETF、ダイレクトインデックスを挙げています。
ダイレクトインデックスとは、S&P500や TOPIX(東証株価指数)といった指数に連動するインデックスファンドに近い商品ですが、構成銘柄の中身を投資家が自分でカスタマイズできる商品です。
あまりなじみのない商品名ですが、米国では1990年代から存在しているようです。当初の狙いとしては、構成銘柄のなかで損失が生じている銘柄を売却して損失を確定させ、同時に値上がりしている銘柄の利益と損益通算して節税効果が期待できることから注目されました。
しかし、最近は「ESGスコアの高い銘柄の組み入れを増やす」、「健康被害の高い商品を製造している企業を外す」といった形で、投資家の意思を構成銘柄に強く反映させることのできるインデックスファンドとして注目されているそうです。
アクティブ型の総経費率・収益の低下で予想されることこのような変化が予想されるなか、同レポートが指摘しているのは、「資産運用会社の約4分の3(73%)が、今後数カ月の間に他の資産運用会社と戦略的な統合を行うことを検討している」ということです。
この動きは日本でもひとごとではありません。
現在、日本には投資信託を設定・運用している資産運用会社が80社ほどあります。そのうちトップの運用資産残高を持っているのは、野村アセットマネジメントの43兆6278億400万円です。これに次ぐ大和アセットマネジメントが22兆8499億4100万円、日興アセットマネジメントの20兆514億800万円、三菱UFJ国際投信の19兆8538億9600万円、アセットマネジメントOneの10兆6535億8100万円と続きます。一方で全運用ファンドの運用資産残高が1000億円に満たない資産運用会社もあります。
ちなみに前出の数字は2023年8月時点のものですが、この時点で運用資産残高が1000億円に満たない資産運用会社の数は26社もあります。
なかには独立系投資信託会社のように、確たる運用理念のもと、小規模でも運用を継続する強い意志を持った運用会社もありますが、たとえば外資系だったりすると、このまま日本で資産運用ビジネスを行っても成長が期待できないとなれば、簡単に日本市場から撤退するところが出てきても不思議はありません。
ましてや、PwCのレポートが指摘するように、2027年にかけてアクティブ型の総経費率が低下していけば、いよいよ資産運用会社として収益を上げることが困難になっていく恐れがあります。その先に待ち構えているのは、日本市場からの撤退、他の資産運用会社との経営統合でしょう。
経営統合の問題点とは?ただ、経営統合には1つだけ問題があります。それは、双方にメリットがなければ成立しない、ということです。
運用資産残高が極めて小さい資産運用会社が、「経営が厳しいから買ってくれ」などと一方的にオファーを出しても、買う側にとって何のメリットもなければ、そのディールは成立しないのです。そう考えると、運用資産残高が小さく、経営面で苦しい資産運用会社に残された道は、撤退しかないということになります。
リスクを避けるための資産運用会社の選び方では、もし自分が保有している投資信託を運用している資産運用会社が撤退ということになったら、どうなるでしょうか。
経営統合であれば、ファンドの運用が存続する可能性もありますが、撤退という厳しい選択をした場合、その資産運用会社が運用しているファンドは、強制的に繰上償還措置が取られます。
もちろん償還ですから、ファンドの保有者に償還金は返還されます。ただ、購入した時の基準価額に対して、繰上償還時の基準価額が値下がりしていた場合は、その値下がり分だけ償還される金額は、購入時の金額に比べて減額されます。
こうしたリスクに直面しないようにするためにも、投資信託で資産運用をする際には、ある程度、大きな運用資産残高を持つ資産運用会社を選ぶことも大事なのです。
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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