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妻仰天! 生活費を「美容」につぎ込む夫が放った“驚愕の言葉”

Finasee / 2023年11月13日 18時0分

妻仰天! 生活費を「美容」につぎ込む夫が放った“驚愕の言葉”

Finasee(フィナシー)

平日の朝は戦争だ。真理は34歳になってもいまだに慣れない、というか面倒くさいとしか思えないメイクをしながら、女ばかりが化粧をしなければならないことになっている世間の空気の不条理を呪う。

朝起きて、髪を整え、着替えて、町内会のルール通りにゴミを捨て、できれば洗濯物だって片づけておきたい。朝食は夕食の残りで済ませるし、家事は夫の太一と協力プレイでこなすけれど、時間がないことに変わりはない。そのうえ、化粧や洋服まで気を使うなんて、毎日すっぴんとジャージだった学生時代が懐かしくもなるものだ。

夫にメイクをしてもらって出勤

真理が働いているのはイベント会社でも花形と言える企画部で、メイクや服装にも厳しい。仕事にやりがいはあるけれど、そこだけはちょっとストレスだ。

「ねえ、太一。この前貸してもらってめっちゃ良かったファンデーションどこー?」
「えーっと、右の棚の上から二段目。黒いやつ」
「どれも黒なんだけど!」

すっかり身支度を終え、リビングでくつろいでいた太一がため息をつきながら洗面所にやってくる。太一は細くて白くてきれいな腕を伸ばし、目当てのファンデーションを迷うことなく手に取った。

「はい」
「おぉ、ありがとう」
「自分でできる?」
「んー、やって」

太一はしょうがないなぁともう一度ため息をつくけれど、表情はまんざらでもなくうれしそうだ。真理が日ごろ使っているプチプラコスメとはくらべものにならない値段のファンデーションを、太一は嫌な顔ひとつせずに真理に貸してくれる。

メイクが終わったのは7時50分。自分でやっていたら、駅まで走る羽目になっていたに違いない。出来栄えも完璧だ。起き抜けのゾンビみたいだった顔は、むいたばかりのゆで卵みたいに艶やかに変わっている。真理は太一にお礼を言って、いつもより少しだけ余裕をもって家を出た。

空は雲一つない青空。この風景も、太一と一緒に生きているからこそ気づくことができる美しさだ。真理の足取りも、いつもより少しだけ軽い。 

夫婦の大切な「ルール」

大学生のときから付き合っていた太一と結婚すると報告したとき、友達たちはみんな驚いた。

小学校から高校までみっちりソフトボールをしていて、すっかり地黒になってしまった肌とそばかすの浮いたほっぺの真理。一方の太一はずっと文化部で運動なんてからっきし。興味があるのは洋服やメイクで、当時からバイト代や仕送りのほとんどを自分の趣味につぎ込んでいた。

「だって真理、ああいうチャラチャラしてるの好きじゃなかったじゃん」

そう言ったのは、1番仲の良かった香苗だった。真理はそうじゃないんだよと笑う。たしかに見た目はそうかもしれないけど、マメで真面目で優しくて、真理は太一のそういう部分が好きだった。

それに自分が好きなことに正直なのもすてきだ。メイクや洋服の話をしているときの太一は少年みたいな表情で笑う。

残念なことに、30歳を過ぎてなお、美容やメイクに疎い真理は太一の話の半分も理解できなかったし、興味だって全然湧かなかった。それに太一は美容やメイクのこととなると多少金遣いが荒いような気もする。けれどこんなものは不満のうちには入らない。真理だって友達とキャンプやスポーツ観戦によく出掛けてお金を使うのだからおあいこだった。それに今朝みたいなとき、太一の趣味は真理を大いに助けてくれるから頼もしくすら感じている。太一と一緒に生活するようになってから、同僚や後輩社員に「きれいになった」と言われたことだって一度や二度ではない

お互いの趣味や時間を尊重すること。

それが夫婦としてやっていくために真理たちが決めた、大切なルールだった。別にどちらかがどちらかに合わせる必要はない。子どもだって作らない。お互いが好きなことをして、楽しく生きる。そういう夫婦のあり方だってなしではないはずだ。けれど今振り返ってみれば、一緒に生きていくことがどういうことなのかよく分かっていなかったのかもしれないと真理は思う。

いいや、そんなことをちゃんと理解した上で結婚しているような人が世の中にどれだけいるというのだろうか。 

最初の「異変」

その日は香苗の結婚式だった。

用意したのはメルカリで買った黒のレースがシックなワンピース。けれど困ったことに、太一は朝から買い物に出掛けているから、今日のメイクは自分でやるしかない。

真理は太一の手つきや手順を思い出しながらメイクをする。もちろん太一がやってくれたときには遠く及ばないけれど、まあまずまずの及第点だ。

身支度の仕上げに、真理は引き出しをあさる。最初のボーナスで奮発したティファニーのイヤリングと成人のときに母からもらったアンティークのネックレス。どちらも真理が持っている数少ないアクセサリーだ。

アクセサリーというのは特別感がある。自分を着飾ることに真理があまり慣れていないということもあるだろうけど、なんというか少し背筋が伸びるような、見える景色が少しだけ彩度を変えるような、そんな気がする。

買ったときのまま使っているターコイズの箱からイヤリングを取り出す。母からもらったネックレスはえんじ色のベロアのケースに入っている。

「あれ、どこにしまったんだっけ……」

引き出しにしまっておいたはずのベロアのケースがない。真理は引き出しをのぞき込む。もちろんなくすようなサイズ感のものではないのだけど、目当てのケースはどこにも見当たらない。
アクセサリーには特別感がある。だからこういう特別な日にしか使わない。そのことがあだになっていた。前回使ったのはいつだっただろう。そのとき自分がちゃんとこの引き出しにしまったのか、真理は思い出すことができなかった。

真理が途方に暮れていると、インターホンが鳴る。太一が帰ってきたのかもと思って飛びついてみれば、宅配のお兄さんがカメラの向こうで青白く映っている。

落胆しながら鍵を開け、小包を受け取った。真理には覚えがないから太一の荷物だろう。とはいえそれどころではないので、真理は机の上に荷物を置く。気がつけば家を出なくてはいけない時間だ。取りあえずネックレスは諦めて、家を出るしかなかった。

夫が放った驚きの一言

二次会を終え、ほろ酔い気分で家に帰ると、太一が少年の笑顔で椅子に座っていた。手には黒光りする機械が握られている。

「あ、お帰り。ねえ、見てよ、これ」

太一が機械を見せてくる。きっと美容のなんかなんだろうなとぼやけた頭のなかで思う。

「なぁに、それ?」
「美顔器」

太一は興奮気味だった。きっと見せびらかしたくて真理が帰ってくるのを待っていたのだろう。真理は「びがんき」、と繰り返す。でも太一、美顔器ってもう持ってなかったっけ?

「すごいんだよ。海外メーカーの数量限定生産でさ、表情筋を刺激するEMSに7種類の振動を選べるモードがあって、これまでのやつとは比べものにならないくらい効率がいいんだよね。イオン導出のクレンジングで毛穴汚れもしっかり除去できるし。極めつけはさ、触れる部分が肌に優しい24金のゴールドでコーティングされてて――」

深夜の通販番組さながらに太一が説明してくれる。もちろん真理の酔った頭には、いやたぶんしらふでも、ほとんど理解はできなかった。へぇすごいね、とか、そうなんだぁ、とかタイミングを見計らって感心するような相づちを打った。

「——いやぁ、これで40万はホントいい買い物だったわ」

太一が結びに放った一言は、真理の酔いをさますのには十分すぎるものだった。

「は? え? ちょっと、ちょっと待って。今いくらって?」
「40万だけど……?」

太一は首をかしげている。真理は深く息を吸ってこめかみをもんだ。

太一と真理の月収は合わせて60万円に届かない程度。マンションの家賃が11万5000円で、水道光熱費が合計で2万円くらい。食費が7万円くらいで、二人で決めた月々の貯金が5万円……。

「それって、生活費より高いよね?」
「まあそうだけど、数量限定だし……」

 真理の指摘に太一は口ごもる。

「趣味のこととかは自由にしようって言ったけどさ、これはさすがにちょっと高すぎないかな」

新しい美顔器が届いた喜びに水を差された太一は不機嫌そうに頰をかいて、それから深いため息を吐いた。真理の胸の内側がむかむかとざわつく。

「真理も使っていいよ?」
「そういう問題じゃなくて。だって美顔器もう持ってるじゃん」
「いや、今説明したし。全然性能違っただろ」
「性能とかよく分かんないけどさ、そこまでしなくたって太一は十分きれいだよ?」

真理の頭のなかは美顔器をどうやって返品するかでいっぱいだった。けれどそんな真理に向けられたのは、太一の乾いた笑みだった。

「いや、なにそれ。嫉妬? 俺が君より美意識高いからってねたまないでよ」

真理は何も言葉を返せなかった。それどころか動くことすらできなかった。少し飲みすぎたのかもしれない。うまく考えがまとまらなかった。

太一は美顔器を丁寧に箱へとしまい、真理とは目も合わせずに寝室へ引き上げていった。

●夫との金銭感覚の違いにぼうぜんとした真理。夫婦関係はどうなっていくのでしょうか? 後編「夫に500万の借金が発覚… 結婚生活の致命傷となった“身勝手な行動”の結末」にて、詳細をお届けします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

Finasee編集部

金融事情・現場に精通するスタッフ陣が、目に見えない「金融」を見える化し、わかりやすく伝える記事を発信します。

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