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夫に500万の借金が発覚… 結婚生活の致命傷となった“身勝手な行動”の結末

Finasee / 2023年11月13日 18時0分

夫に500万の借金が発覚… 結婚生活の致命傷となった“身勝手な行動”の結末

Finasee(フィナシー)

<前編のあらすじ>

真理と太一は30代の共働き夫婦。大学時代からの付き合いで友達のような夫婦関係だった。美容やメイクが大好きな太一はよく真理にメイクをしたり、仲良く暮らしていた。
ある日、太一宛に宅配便が届く。中身は太一が買った40万円の美顔器だった。お互い趣味の事には口を出さないと決めていた2人だったが、「生活費より高いよね?」と真理が指摘をすると、不機嫌になった太一は「俺が君より美意識高いからってねたまないでよ」と言い捨てて寝室へと去っていった……

●前編:妻仰天! 生活費を「美容」につぎ込む夫が放った“驚愕の言葉”

開いてしまった2人の距離

あの日以来、太一との関係はぎくしゃくしている。

会話は必要最低限。休みの日に二人で出掛けることも、朝の身支度を手伝ってもらうこともなくなった。

真理はこのままではいけないと感じていた。太一と話さなければいけなかった。けれどその取っ掛かりをつかむことができなかった。

「ねえ、太一」
「ごめん、急ぐから」

まるで真理の呼びかけを遮るように、太一は廊下を通り玄関へ向かう。いつもきれいに磨いていた革靴は、最近手入れをしていないらしく汚れていた。

「太一、今日ちょっと話せる時間ある?」
「どうだろう。疲れてなかったら、まあ考えてみるよ」

思い切ってストレートに訪ねてみても、あいまいな態度にはぐらかされてしまう。

今日こそはちゃんと話そう。

その日、真理は仕事を定時で終えて家に帰った。料理を作り、太一の帰りを待った。

けれど真理がいくら待っても太一は帰って来なかった。コンソメスープは冷たくなっていく。ハンバーグにかけたデミグラスソースは油が浮いていた。すれ違ってばかりの二人を象徴しているみたいに見えた。

けっきょく太一が帰ってきたときには22時を過ぎていて、疲れた太一はスマホを眺めているだけだった。 

真理は困惑していた。

太一とは短くない付き合いだ。当然けんかをしたことだってある。それでも真理たちはそのたびに話しあい、許しあい、手をしっかりと握りあって生きてきた。今回だって二人で乗り越えていけると真理は思っていた。

そのはずなのに、今回は様子が違っていた。太一とのあいだに開いてしまった距離に、サイズの間違った服を着続けているような居心地の悪さがあった。

真理は話し合いのタイミングを見計らおうと、太一の様子をつぶさにうかがった。太一は最近、よくスマホを眺めている。前は放置していたのに、今ではトイレや風呂にも持ち込んでいる。別にのぞいたりするつもりはないけれど、見られたくない何かがあるのだろうか。

太一の不倫疑惑

「それ、絶対不倫だよ」

たまたま外回りで真理の会社の近くにいた香苗とランチを食べたとき、そう言われたのが決め手だった。

もちろんその場ではあいまいに笑ってごまかしたけれど、一度生まれてしまった疑念は膨らむばかりだった。

美意識が低いと言った太一の声が何度も耳元でよみがえった。化粧が下手な女だからと愛想を尽かされてしまったのだろうか。そんなことばかりを考えているうちに、真理はうまく眠ることができなくなった。

ある夜、真理が目を覚ますと隣では太一が気持ちよさそうに寝息を立てていた。時間は深夜二時半。ベッドサイドのテーブルには太一のスマホがあった。

真理は気配を殺して手を伸ばし、太一のスマホを手に取った。眠る太一の人さし指でスマホのロックを解除する。

LINEに怪しいところはなかったので、真理はいつの間にか止めていた息をゆっくりと静かに吐き出した。けれどスマホを元に戻そうとしながら、香苗の言葉を思い出す。

「いい? もしスマホチェックするんなら、フリーアドレスの下書きまでチェックすること。気合の入った不倫は、履歴の残らない下書きでやり取りするんだからね」

まさかスパイじゃあるまいし。

真理はそう心のなかでつぶやきながら、太一のメールアプリを開く。下書きボックスは空っぽ。もう一度安堵の息を吐く。

受信ボックスもちゃんと見ておこう。

真理はスマホの上に指を走らせて、止めた。真理の目をくぎ付けにしたのは、よく耳にするキャッシングサービスからのメールだった。

開かずにはいられなかった。それなのに、開いてしまったことを後悔した。

メールの内容は督促で、太一には60万円の借金があった。

真理の手からスマホが滑り落ちる。その物音で、太一が目を覚ます。

「何やってんの……」
「何やってんのはこっちのせりふだよ」

薄暗い部屋で見る太一の顔は、なんだか知らない人のように思えた。

太一もさすがにまずいと感じたのか、眠い目をこすりながらもリビングに向かう真理に黙って従った。

「説明して」

真理は太一にスマホを突きつける。普段とは違う真理の強い物言いに観念して、太一は隠していた督促状の束を引っ張り出してきて口を開いた。

借金返済と節約生活

結論から言えば、太一は複数のキャッシングサービスから合計で500万円の借金をしていた。借金はエステや脱毛サロンに通うために2年前からしていたらしい。大した額には達していなかったけれど、二人でためていた貯金は見事に使い果たされていたし、真理たちのけんかの原因でもある40万の美顔器も借金をして購入したものだった。

はじめは少額だったんだ。すぐ返せると思ったんだ。太一はおどおどと泣きながら言い訳を並べた。最初こそ真理はあきれていたけれど、ざんげを続ける太一を見ているとだんだんとかわいそうに思えてきた。それに、浮気はしていなかったことへの安堵もあった。真理はうなだれている太一の手を握った。

「分かった。いや、借金してまで美顔器買っちゃう気持ちは全然分かんないし、しかも黙ってとか本当は怒鳴りつけたいけど、もうしちゃったものは仕方がないから。一緒に頑張って返してこ」

真理の提案にうなずいた太一に、不安がなかったわけではない。それでも二人は夫婦だ。だから真理は太一を信じることに決めたのだ。

借金返済のためにやることは多かった。

まず管理しやすくするために、複数の借金を一本化した。それから水道光熱費などの固定費を徹底的に見直し、ランチの外食をやめて毎朝お弁当を作るようになった。当然、40万の美顔器は売り払った。

両親を頼ることも考えたけれど、しなかった。太一は両親と不仲だったし、真理の実家は自営業の酒屋で、相談したところで余計な心配をかけるだけだった。

ちなみに太一のキャッシュカードと通帳は真理が預かることになった。月のお小遣いはすずめの涙だったけれど、太一は友達の誘いを断ったりしてコスメを買うお金を捻出しているらしかった。

香苗には何でまだそんな無駄遣いを許すのかと叱られたけど、返済は長期戦だから強引な節約はやめようというのが真理と太一の結論だった。

劇的ではないにせよ、借金は少しずつ減っていった。それに今まで以上に協力しながら家計をやりくりしていかなければならなくなったおかげで、真理は太一と生活をともにしていることをより強く実感できた。

すべてうまくいっていると思えた。 

致命傷となったネックレス

「……ねえ、何なのこれ」

真理の手には一枚の紙が握られている。細かな模様が入った薄いブルーの紙には、質入れ表と印字されている。紙の真ん中あたりにはボールペンで書かれた〈5万円〉と〈ネックレス(アンティーク)〉というゆがんだ字。

ぬれた髪のまま座っている太一をにらみ付ける。力のこもった手が、質入れ表の端をくしゃくしゃに折った。

事の発端は単純だった。

返済生活が始まって半年が過ぎ、借金返済のペースが悪くなっていた。原因は太一がお小遣いを無心することが増えたことと、節約に慣れてきた真理も気が緩んでいたのか太一にお金を渡してしまっていたことだった。

だけど一体何にそんなにお金を使う必要があるのだろう。

気になってからの行動は早かった。

真理は太一がシャワーを浴びているあいだに、通勤カバンから財布を取り出して中身を確認した。そして大量の古いレシートに紛れていた質入れ表を見つけたというわけだ。

質入れ表に書かれた〈ネックレス(アンティーク)〉。真理にはちゃんと身に覚えがあった。

真理はシャワー途中の太一をバスルームから引っ張り出して問い詰めた。

「ねえ、何なのこれ」

太一は黙ったままだった。

真理は机に平手をたたきつけた。太一がびくりと細い肩を震わせる。

「前に、香苗の結婚式があったでしょ。そのときに見当たらなくて、もしかして失くしちゃったかもって思ってたんだよね。あんたの美顔器とか借金のせいでバタバタだったから、落ち込んだり探したりもできてなかったけど」

太一はようやくもぞもぞと口を動かす。けれど声は聞き取れなかった。真理はもう一度机をたたいた。

「はっきりしゃべれよ!」
「……んだ。全然使ってないから、い、いらないのかと思ったんだ」

その瞬間、真理は机に乗り上げ、右手を思いきり振り抜いていた。数瞬遅れて破裂するような音が響き、太一が椅子から転げ落ちる。手のひらが熱をもって痛んだ。

「わたし、前に言ったよね? 成人祝いにお母さんからもらった大事なネックレスなんだって。アクセサリーはなんだか特別な感じがするよねって」

真理は感情に任せて叫んでいた。いつの間にか涙があふれていた。どうして自分が泣かなくちゃいけないのか、真理には分からなかった。太一は目を丸くしながら真理を見上げていた。

「……ごめん」
「見た目ばっかり気にしてさ、人の気持ちなんて太一にはどうでもいいんだね」 

小汚い中年の男

一枚の紙切れは真理たちの結婚生活の致命傷になった。

真理には太一を訴える選択肢もあったけれど、もう金輪際自分の人生に関わってほしくなかったから訴えることはしなかった。離婚してしばらく、太一が自己破産したらしいと風のうわさで聞いた。

ちなみにネックレスは次の日に太一に取りに行かせて無事戻ってきている。ネックレスを取り戻すために太一は新たにキャッシングをしたらしいけれど、それはもう真理のあずかり知るところではない。

少し落ち込んだ時期もあったけど、今は離婚して清々している。

とはいえ恋愛も結婚ももうまっぴらだ。仕事に全力で取り組み、休みのたびにキャンプに出掛け、ビール片手にスポーツバーでスポーツ観戦を楽しむ。そういう独り身の生活に満足している。

相変わらずメイクは苦手だ。けれど最近は自分なりのコツをつかんだのか、少しずつ納得のいく出来栄えになってきた、気がする。太一のような知識や技術はないけれど、アクセサリーをつけるときと一緒でメイクをすると少し背筋が伸びて、今日も一日頑張ろうという気分になれる。

「真理、メイク変えた?」
「分かる? ちょっとアイライン長めに引いてみたの」
「いいじゃん、似合ってる」
「ありがと」
「いいなぁ、どんどんきれいになって。うちなんて旦那は帰ってきても何もしないし、この子はやんちゃ坊主だし、メイクなんてテキトーよ」

穏やかな空気のテラス席で、香苗は1歳半になる息子の涼を膝に乗せながら愚痴を言う。けれど息子を見るまなざしは幸せな母親そのものだ。

真理には真理の、香苗には香苗の、それぞれの幸せのかたちがある。

食事を終えた真理たちは割り勘で会計を済ませ、スプリングコートを羽織って、少し街を歩いた。

「あれ……」

真理は立ち止まって振り返る。目で追った後ろ姿はすぐに、行き交う人たちに紛れて見えなくなってしまう。どうかした、と香苗がベビーカーを止めて声を掛けた。

「ううん、何でもない」

真理は再び歩き出す。

太一とすれ違ったような気がした。けれどどうしてその人を太一だと思ったのかは分からない。だって肌は荒れ、洋服は安物。美容にこだわっていたころの太一の面影は全く残っていなかった。年相応の小汚い中年の男だった。

太一もわたしに気づいただろうか、と真理は思った。

できれば気づかないでいてほしい、とも思った。

春の穏やかな風が吹く。真理の胸にはアンティークゴールドの静かな光がきらめいている。見上げた空は雲一つない青だった。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

Finasee編集部

金融事情・現場に精通するスタッフ陣が、目に見えない「金融」を見える化し、わかりやすく伝える記事を発信します。

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