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会社をやめて高額献金… 両親介護中の50代女性がハマった団体の「正体」

Finasee / 2023年11月14日 18時0分

会社をやめて高額献金… 両親介護中の50代女性がハマった団体の「正体」

Finasee(フィナシー)

<前編のあらすじ>

京子(53歳・独身)は小さな商社の営業課長。両親が同時にがんになって倒れてしまい、医療費の負担を減らすために、同僚が教えてくれた高額療養費制度の申請書を書いていた。
父から、達筆な筆書きで届いた同窓会の誘いの手紙に断りの返事を書いてほしいと頼まれ、筆と墨を買いに行った京子は池袋で「彼ら」と出会った――

●前編:両親が同時にガンに… 50代おひとりさま女性に父が頼んだこと

京子がみつけた「新しい趣味」

月末のある金曜の夜、経理部の梅塚篤は給与計算ソフトに全社員の数字を打ち込み終えた。

勤続30年超えのベテラン営業社員、米倉京子が休職してそろそろひと月がたつ。

入社以来、無欠勤で現場を率いてきた京子が父母の立て続けのがんに見舞われて職場から姿を消し、最初は大混乱していた職場もすっかり落ち着いた。京子が担当していた取引先もすぐに引き継ぐことができ、むしろ活気づく社員もいる。

俺が担当したほうが絶対うまくいくと思ってたよ。やっと米倉さんのミスのフォローしなくて済むわ。

そんな声も聞こえる。

「梅塚、米倉さんに戻って来なくていいって伝えてくれない? 好かれてるじゃん」

そう笑いながら同僚が退勤していく。

「何で俺が……」

モニターをにらんだまま梅塚はつぶやいた。

京子とは業務連絡を兼ねて週に1回電話をしている。父母の抗がん剤治療に同時に寄り添う京子への心配もある。

だが、スマホの向こうの京子は意外なほど快活だった。

介護のつらさも愚痴も言わない。それどころか新しい趣味を見つけたという。

「書道」らしい。

「え、仕事100%の米倉さんが?」

「お母さんの手紙を代わりに書いてあげようと思ってね。筆を買いに行ったらお店の人と仲良くなったの、それでハマっちゃって」京子は職場にいた時と変わらず笑った。

「はは、米倉さんが営業かけられたわけっすね」梅塚も笑い声を合わせた。

そこから書道教室を運営している「彼ら」の話を始めた。

「みんなで教室に集まって写経したりするのよ。字を書くのはセラピーになるらしいわ」

「はあ、みんなで。ご家族のほうは…… いかがです?」写経、という言葉に違和感があった。

「大丈夫よ。どうせ完治までに3年くらいはかかるんだから、早めに復職するわ」

「みんな待ってますよ」梅塚はうそをつくことにした。

休職の延長

翌週も、その翌週も京子の声は明るかった。

そして今週は、梅塚が月末の忙しさで電話できていない。

そろそろ21時を回る。

電話してみるか、と思った。もう戻って来なくていい、などと言うつもりはないが。

「なに?」電話をとった京子の声は珍しく固かった。

「すみません、忙しいですか?」

「ううん、ちょうどいいところだった」

「あ、そうですか」

「実は職場なんだけど、あと2カ月休職したいの」

梅塚は一瞬、気が軽くなった。同僚たちにいいネタができた。

「もちろん処理しますよ…… ご家族の介護の途中でしたか?」

「いえ、墨をすってたの」

「なんだぁ、また書道っすか?」

数秒間、沈黙があった。

「…… 心が落ち着くのよ」

「へえ。スミをスルなんて小学校以来やってないなあ」

「手で文字を書きなさい。現代人は電子文字のせいで思考力が落ちたんだから」

京子は教え諭すように言った。梅塚はおそらくパソコンに打ち込む文字を意味するのだろう「電子文字」という言葉が気持ち悪かった。

電話を切り、梅塚は「電子文字」と検索した。デジタル時計の数字のような画像にまぎれて、1件の池袋にある書道教室がヒットした。

「文字を書くことは、魂を解放する方法です」

筆は自我であり、すずりは宇宙であり、墨は魂そのものである。そして紙は世界である。「書」によって魂は宇宙から自我を通り世界へと解放される…… と、まるで教義のようなメッセージが書いてある。

梅塚は、その夜以来、京子に電話をかけるのを辞めた。

京子からも一度も電話はなかった。

突然の退職、そして…

2カ月後の月末のある日。

社内ではもうすっかり話題にも上らなくなった米倉京子からの「退職願」が届いた。

経理部の梅塚宛てに封筒が届いたとき、京子からのはがきだと分からなかった。

ぞっとするほど美しい筆文字で書かれていたから。

梅塚は封筒を開ける前に、とっさに書道教室の名前をSNSで検索した。

授業料と道具代と称して法外な金額を貢がされた、被害の声が流れていた。筆が50万円。紙が1枚1万円。すずりが500万円……。

「教室」と呼ばれる施設に合宿し、昼夜を徹して何千枚も書かせるという異様なプログラムがあり、なかには会社を辞め、家を売り、自己破産した人もいるという。

そこでふと、思い出した。

京子の父母の病が発覚してから、そろそろ限度額を越えた医療費が口座に返還される頃ではないか。京子はその金もきっと「彼ら」に……。

封筒の中の手紙はこう始まっていた。

「梅塚 篤 様。あなたに『趣味を持ったほうがいい』と言っていただいたこと、本当に感謝しています……」

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

Finasee編集部

金融事情・現場に精通するスタッフ陣が、目に見えない「金融」を見える化し、わかりやすく伝える記事を発信します。

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