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「プロにお任せできるから安心」とも言えない⁉ ファンドラップに潜む2つの落とし穴

Finasee / 2023年11月16日 17時0分

「プロにお任せできるから安心」とも言えない⁉ ファンドラップに潜む2つの落とし穴

Finasee(フィナシー)

ラップ口座というサービスがあります。個人が証券会社などの金融機関に運用を一任するもので、契約残高が右肩上がりで伸びています。

日本におけるラップ口座の歩み

このサービスがスタートしたのは2000年代半ばあたりからのことで、2023年6月時点の契約残高が15兆9232億円になりました。この数字は、日本投資顧問業協会が四半期ごとに調査しているもので、前回調査時点である2023年3月に比べ、8.7%の増加となりました。

ラップ、つまり「包む」という意味が示すように、ラップ口座は複数の資産をひとまとめにして、ポートフォリオ運用をするものです。

もともとはSMA(Separated Management Account)といって、株式や債券など個別資産に分散投資し、顧客の要望を反映させながらきめ細かいポートフォリオ運用を行うサービスとして、富裕層を中心に広がり始めました。当然、富裕層向けですから最低契約金額も高額になります。

しかし、2010年代半ばくらいから、株式や債券などの個別資産でポートフォリオを組むのではなく、複数の投資信託でポートフォリオを組む「ファンドラップ」が主流になってきました。

投資信託は少額資金で購入できます。そのため、SMAでは富裕層にしか提供できなかったラップサービスを、少額資金の運用にも提供できるようになったのです。少額といっても500万円程度の資金は必要ですが、ラップサービスのハードルは一気に下がり、そこから契約残高が右肩上がりに増えるようになりました。

問題点①:受益者の負担コストが割高

ただ、ファンドラップはお手軽に利用できる反面、コストが割高になるという問題があります。

通常、投資信託を購入する際に受益者が負担するコストは、購入時手数料と信託報酬がメインです。最近は、購入時手数料を無料にしているファンドも少なくないのですが、一般的なケースで言うと、購入時手数料が購入金額の2%前後、信託報酬率は近年、大幅な引き下げ競争が行われていますが、アクティブ型のファンドであれば年0.7%~1.0%程度、といったところでしょうか。

これに対してファンドラップのコスト構造は、対象ファンドの範囲内で買い付けた投資信託については、購入時手数料がかかりません。購入時手数料がかかるファンドだと、販売金融機関が手数料欲しさに回転売買を促す恐れがあるという批判も強いだけに、購入時手数料がかからないのは、回転売買が起こりにくくなるという点で、ファンドラップの利点の1つと言っても良いでしょう。

しかし、信託報酬に加えて「投資一任契約に係る報酬」という名のコストがかかってきます。これはラップサービスを提供する金融機関が受け取る報酬です。金融機関によって料率は異なりますが、年1.0%弱が取られます。

問題点②:ファンドの選択や運用成績は担当者次第

さて、ここまではファンドラップについてよく言われている問題点なのですが、もう1つ大きな問題があることを、筆者もつい最近知りました。

証券会社が提供しているファンドラップで、2000万円程度を運用している知人の話がきっかけです。たまたま、ポートフォリオの中身を見せてもらう機会がありました。ざっと8本程度のアクティブ型投資信託で、ポートフォリオを構築していました。

ファンドラップでポートフォリオを構築する際には、まず顧客がどういう運用の意向を持っているのかを金融機関の担当者がヒアリングし、リスク許容度を診断します。そのうえで投資提案書が作成され、それが顧客に提示されます。顧客はその投資提案書で納得できたら、その時点で投資一任契約を金融機関との間で結びます。

こうして運用がスタートするわけですが、私の知人はそれほど積極的にリスクを取って大きく増やしたいという意向がなく、やや保守的なポートフォリオでの運用を要望したそうです。

しかし、この1年、なかなか運用成果が上がらず、ポートフォリオには200万円程度の評価損が生じていました。ファンドラップである以上、さまざまな資産に分散投資しているはずですから、もし海外の株式や債券に投資するファンドがあれば、この円安で為替差益は出ているはずですし、少なくとも2023年は日本株も大きく上昇しました。なぜ200万円もの損失が生じているのでしょうか。

理由はすぐに分かりました。

まず、保守的な運用を希望したため、海外債券に投資するファンドが結構な比率で組み入れられていました。それも、為替リスクをヘッジするタイプです。

2022年から世界的にインフレ傾向が強まったことで、海外では米国をはじめ、ユーロ圏でも金利が大幅に引き上げられました。金利が上昇すると債券価格は下落します。したがって、債券を組み入れているファンドの運用成績は下落します。

もっとも、2022年から現在にかけて、外国為替市場では急激な円安が進みました。米ドルは円に対して30%程度、ユーロも対円で24%程度、強くなっています。為替ヘッジをしないタイプのファンドだったら、為替だけで結構大きなリターンが得られ、債券価格の下落分をある程度、相殺できたはずなのですが、為替ヘッジしたタイプでポートフォリオを構築していたため、債券価格の下落をそのまま受けてしまったのです。

そして、これが最大の問題点だったのですが、なぜか8本のファンドのうち4本が、単体のファンドで複数資産に分散投資するバランス型ファンドだったのです。

バランス型ファンドを4本組み入れて分散投資効果を高めるとでも言いたいのでしょうか。「屋上屋を架す」とは、まさにこのことです。

日本株ファンドを複数組み合わせても大したリスク分散効果が期待できないのと同じで、運用コンセプトが似通ったバランス型ファンドを複数組み合わせたところで、得られるリスク分散効果など、たかが知れています。

運用方針に本当に合ったポートフォリオを組むには?

ファンドラップなどのラップ口座に対して、「資産運用の専門家である金融機関がファンドを選び、ポートフォリオを構築してくれ、かつ適宜見直しをしてくれるから安心」などと思っている人もいるのではないでしょうか。

しかし、この知人のポートフォリオを見た時、ファンドラップのポートフォリオ判断能力について、大いに疑問を覚えました。複数のバランス型ファンドでポートフォリオ構築して、「リスクを抑えた運用をしています」などとするのは、あまりにも安直な内容であると言わざるを得ません。これはラップ口座だけでなく、最近、流行のロボアドにも当てはまる恐れがあります。

この手のポートフォリオ診断をうのみにせず、自分の頭で考えてポートフォリオを組むか、もしくは信頼できる投資アドバイザーを介して、オーダーメードでポートフォリオを考えてもらった方が良いでしょう。

鈴木 雅光/金融ジャーナリスト

有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。

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